溺愛カウンセラー~幼馴染みと恋人ごっこ~

春密まつり

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15 初めての実験

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 異様な光景がそこにはあった。
 亘と二人で亘の作ってくれたごはんを食べて、亘のシャワーを待ってから里帆もお風呂に入った。お風呂から戻ると、リビングのテーブルの上にラブグッズが並べられていた。亘も興味深そうに商品を手にとり眺めている。幼なじみになんていうものを持たせてしまっているんだろう、と罪悪感が込み上げた。

「里帆おかえり。あったまったか?」
 爽やかな顔で、やさしい口調で、手にはローター。里帆は一生この光景を忘れないだろう。
「今こんなの売ってるんだなー」
「そうみたい……すごいよね」

 幼なじみがラブグッズを眺めている姿を直視できない。逃げ出したい気持ちに駆られるが、ここまできてしまったら逃げられない。いや、逃げてはいけない。そのために亘が協力してくれているのだ。彼だって恥ずかしいのを我慢してくれているのかもしれない。
 里帆は亘の隣に座った。

「どれから試したい?」
「……えーっと、どうしたらいいかわからなくて」
「じゃあまずローションかな」

 箱をあけてボトルを取り出す。ボトルの色はピンク色で、それだけでも女性が手に取りやすいんじゃないかと思った。

「ま、待って。メモしていい?」
「もちろん」

 カバンからメモ帳を取り出して、ボトルの見た目について書き出した。亘は里帆がメモするのを待って、蓋を開ける。蓋はまわすタイプのものだ。

「えらいな。使った感想とかも、ちゃんと書いておくんだ?」
「うん……」
 亘が手のひらに、ローションを垂らす。とろりとしたものが手の上に落ちていった。
「さわってみる?」
「う、うん」

 亘の手のひらに指を伸ばした。はちみつよりもどろりとしてやわらかい液状のそれは指先にまとわりつく。指の腹でこすると、糸を引いていた。

「亘くん、これなにに使うの?」
「……身体に塗ったり、かな。塗ってみる?」
 こくりとうなずいた。
「じゃあ塗ってあげるよ」
「ええっ」
「ソファの上に足乗せて」

 亘がソファにタオルを敷いてくれて、その上に足を伸ばした。もこもこ部屋着の、ショートパンツから伸びた足に亘の手がふれた。

「ひゃっ!」
「まだなんにもしてないよ」
「……ベッドに行かないの?」
 こういう行為は普通ベッドで行うものだろう。里帆は初心者なのでなおさらそう思う。

「っ、ベッドは、変な気分になりそうだからダメ」
 亘が初めて動揺を見せる。

「里帆にとってはただの幼なじみかもしれないけど、一応俺も男だし」
「……わかってるけど」

 亘がそんなことを言うなんて意外だった。むしろ里帆のほうが女だと見られていないと思っていた。だって一度告白をして振られてるのだ。亘は忘れてしまっているのだろうか。
 気恥ずかしい空気の中、亘の手がやさしく足にふれた。とろりとしたローションがついた手だ。

「こうやって塗ると、気持ちよくない? 普通のマッサージみたいだろ」
「ほんとだ……気持ちいい」
 確かに、マッサージ店で塗られるようなローションだ。これなら里帆も経験はある。少しねばついているのが気持ちいい。

「このローション、どうしたらもっと良くなると思う?」
「あ、そうだった」
「ただ気持ちよくなってるだけじゃだめだろ」
 亘が喉を鳴らして笑った。
「私も、亘くんにしてみてもいい?」
「え」
「だめ?」
「……腕、ならいいよ」

 亘が腕を差し出すので、里帆も亘の真似をして手のひらにローションを垂らし、亘の腕にこすりつけた。

「気持ちいい?」
「……ああ」

 里帆も亘の腕をマッサージするように手を動かすたびにくちゅくちゅと音が立つ。少し変わった匂いがした。これがもっといい香りだったら女性も喜ぶかもしれない。

「……なんか暑くなってきちゃった」
「これ、そういう効果あるらしい」
「そうなの!? すごいね」

 塗ると熱を持つというのも、興奮を高める要素になりそうだ。実際に里帆は、すでに頭がくらくらしていた。いやらしいことをしているわけではないのに、身体の奥が熱くなっている。これも熱を持つローションの効果だろう。

「……これ、やばいな」
「え?」
「ちょっと休憩していいか?」
「あ……うん」
「その間にメモとってて」

 亘は立ち上がり、洗面所へ向かった。べたついた腕を洗い流すのだろう。里帆も足を洗いたかったが、それより先にメモをとった。これは想像以上にアイディアが浮かぶ。やっぱり実際使ってみないとわからないことが多い。もっとはやくやってみるべきだった、とペンを走らせる。

「お待たせ。里帆も拭く?」
「亘くん、ありがとう」
 亘は濡れたタオルを持ってきてくれて、里帆の足を拭いてくれた。

「……今日はここまでにしようか」
「え? でも」

 なるべくはやくアイディアをまとめたい。もっと知りたいことはあるからはやく使ってみたい。

「まだ月曜だし、明日も早いだろ? 明日また試してみよう」
「……うん、わかった」

 時計を確認するともう〇時を回っていた。夢中になりすぎていたようだ。里帆は亘の言うことを聞いて二人で寝室へ行ってベッドにもぐる。

「明日もよろしくね、亘くん」
 今、頼りになるのは亘だけだ。やっぱり実際使ってみないとわからないのだとよくわかった。彼がいてよかった。

「ん。おやすみ」
 亘は里帆に背を向けて、返事をした。
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