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43話 魔族階級

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 俺が暮らしているここ、魔王城の3階には大広間がある。
 天井には長方形の照明が等間隔で設置され、床は1面畳張り、壁は全て襖。
 言うなれば、めっちゃ和な部屋である。
 今日は、そんな大広間でのお話……。

「我は、我は、我は、なんて大きな勘違いをしていたのだ……!」

 そう。
 今この瞬間、俺とシェルヴィ様を1週間もの間隔てていた、大きな誤解の壁が崩壊したのだ。

「いやいや、全ては俺の言葉足らずが原因です!
 本当に申し訳ございませんでした!」

 俺は畳にしっかりおでこを付け、シェルヴィ様に土下座した。

「むぅ、我が子供だったばかりに迷惑を……」

 シェルヴィ様はシェルヴィ様で、膝から崩れ落ちている。

「いやいや、本当に全て俺のせいですから!」

 土下座する俺と崩れ落ちるシェルヴィ様。
 2人から見れば、さぞカオスな光景だったことだろう。

 しかし、あろうことか2人の間でそれ以上にカオスな発言が飛び出したことで、俺とシェルヴィ様のカオスな光景は打ち消された。
 それは2人のこの会話である。

「シロ、あの2人をよく見ておくのにゃ」

「お姉さま、それはなぜですか……にゃ?」

「ふっふっふ。
 そんなの、シロだからに決まってるにゃ」

「・・・?」

 双子のシロさんですら理解出来ないクロさんの一言。
 若者言葉で言うところの、まじ意味不である。

 そんな訳で空気が終わりかけたその時、部屋前方にある襖がスゥーと開いた。

「やぁハースくん、今日は急な招集に応じてくれてありがとう」

「いえいえ、特に予定もありませんでしたのでお構いなく」

「それはよかった」

 パパさんはそう言うと、指パッチンを鳴らし、低い机1つと座椅子5つを同時に出現させた。

「さぁ、全員座って」

「はい」

 パパさんは短辺に、クロさんとシロさんは右辺に、俺とシェルヴィ様は左辺に座った。

「えー、今日ハースくんを呼んだのは他でもない、魔族階級に関する話さ」

「魔族階級……ですか?」

「そう。
 魔族階級を知らない魔族なんて、魔界にはまずいないからね」

 パパさんが手と手を向かい合わせパチンと音を鳴らすと、文字が書かれたホワイトボードのようなものが俺の前に現れた。

「ハースくん、それが魔族階級だよ」

「これが、魔族階級……」

 そこには、箇条書きでこう書かれていた。

『1、エモーラ 2、ネソト 3、ナトフ 4、ホコテ 5、ヒユレ 6、ユケノ』

「ハース、ちなみに我はヒユレなのだ」

「へ、へぇ……」

 そう言われても、俺には何が何だかさっぱり分からない。
 くそっ!
 シェルヴィ様の言葉を理解出来ないのが、こんなにも辛いなんて……。

「シェルヴィ、いきなりそんなことを伝えても、かえってハースくんを困らせてしまうだけだよ。
 でも一応、参考として僕はエモーラ」

 パパさんは両手のひらを上に向け、クロさんに差し出した。

「うちはナトフにゃ」

 続けて、シロさんに。

「私もナトフです……にゃ」

「へぇ」

 なるほど、少し分かった。

 まず、1に近いほど階級は高い。
 あと、これは多分だが、魔王軍幹部レベルになるとナトフ以上の階級、そしてパパさんと幹部の間には1階級分の差がある、と。

「じゃ、じゃあ、俺の魔族階級は何ですか?」

「うんうん、気になるよね。
 だから僕も、しっかり調査を依頼しておいたんだ」

 そう言って、パパさんはタキシードの内ポケットから茶封筒を取り出した。

「これがその調査結果さ」

 そこには、『ハース・シュベルト 魔族階級調査結果』と書かれている。

「えーっと、ハースくんの魔族階級はねぇ……」

 なんの躊躇いもなく、茶封筒から紙を取り出すパパさん。

 なんかこう、少しくらい溜めをつくって、盛り上げてくれてもいいのになぁ、なんて。

 しかしその直後、予想外の出来事が起こった。

「な、なんだって……!」

 なんと、あの常に冷静で朗らかなパパさんが、白目をむき、畳に倒れたのだ。

「ヘリガル様!」

「ヘリガル様……!」

 ただ、流石は魔王城に仕えるメイド。
 すぐさまクロさんが背中を支え、シロさんが温かいお茶を飲ませたことで、パパさんはすぐに起き上がった。

「はぁ、すまないね。
 つい年甲斐もなく驚いてしまったよ」

 常に冷静なパパさんの驚く顔。
 自然と全員の緊張が高まった。

「ど、どうだったんですか……ごくりっ」

 そして、その原因が今、明らかになる。

「ハースくんの魔族階級は……エモーラ、だって」

「はっ?」

 俺の頭は、当然のように真っ白になった。
 それはまるで、シェルヴィ様の声に導かれ、光に手を伸ばす前のように。

「パパ、今エモーラって言ったのだ……?」

「ヘリガル様、またまたご冗談を……あはは、あははー」

「エモーラ……にゃ」

 そして、俺の目の前に調査書類と茶封筒が置かれた。

「ハ、ハースくんも確認してみて……!」

 今の発言が嘘でないことを証明するため、パパさんが魔法で飛ばしてくれたのだ。

「エモーラ……」

 俺はボーッとしたまま茶封筒の中に手を入れた。
 すると……。

「あれ?
 何か入ってる……」

 そこには、調査書類とは別に、カラフルなポスターが入っていた。
 俺はそれを茶封筒から取り出し、書いてある文字を言葉にして読んだ。

「えーっと、なになに。
『魔界女子の夢第1位、エモーラの人と結婚する』
 それで、
『もし結婚するなら、付属のマモノーン婚姻届に記入を!』
 なるほどなるほど……って、ええええ!」

 えーっと待て待て、エモーラの人と結婚するのが魔界女子の夢第1位で、俺がそのエモーラ。
 つまり、俺と結婚したい女子がこの世界にはたくさんいるってこと!?

 やばい、これはまた面倒事の予感が……!

「なぁハース、うちはどうにゃ?」

「ハースさん、私じゃだめですか……にゃ?」

 ほらっ、言ったでしょ。

「いやいや、結婚なんてまだ考えられませんって!」

 俺の必死の言い訳に、その場は何とか丸く収まった。

「はぁ、セーフ」

 そして、俺はついに問題の調査書類を手に取った。
 すると、そこには太字でハッキリと『エモーラ』と書かれている。

「ちょっと……失礼します!」

 俺は逃げるように大広間を飛び出した。

「ハース、どこに行くのだ!」

「シェルヴィ様、少しの間1人になってきます!」

 そして、大広間を出てすぐ、自分の部屋に空間転移した。

「はぁ、とりあえず外でも歩こう」
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