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42話 ディアンナは謝りたい!

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「みなさんどうもこんにちは、魔王軍第6首シェルヴィ様のハースです。
 パパさんとの話し合いが終わり、自分の部屋に帰ろうかなと思った矢先、偶然にも悩んでいらっしゃる方を見つけたので、早速インタビューしていこうと思います。
 本日はどうぞよろしくお願いします」

「えっ、本当にやるの?」

 俺はただ無言で、ソファに座る彼女をじっと見つめる。

「はいはい、やればいいのね……こほん。
 うちには、ある悩みがあります」

「えーっと、まずはお名前からよろしいですか?」

「はぁ!?
 今せっかく乗ってあげようとしたのに!」

 この状況、ゲームマスターは間違いなく俺だ。

「全く、カメラなんて持ってないくせに、そんな動きして恥ずかしくないの?」

 彼女が指摘したのはおそらく、俺が左右の親指と人差し指を使って、カメラを構えている風な動きをしている事に対してだろう。
 でも、俺は真っ向からそれを無視する。

「えーっと、お名前からよろしいですか?」

「はいはい、もう分かったわよ。
 こうなったら、とことん付き合ってあげるわ。
 うちは大剣のディアンナ、魔王軍第1首よ」

「へぇ、ディアンナさんって言うんですね」

「……はぁ、知ってるくせに」

「それではいきなりですが、ディアンナさんのお悩みについて教えてください」

「うちの悩みは、シェルヴィ様にまだ謝れていない、というものよ」

「なるほど……って、え?
 それって、謝れば即解決じゃないですか?」

「もうっ!
 そんなことうちだって分かってるわよ!
 でも……」

「もしかしてディアンナさん……乙女?」

「そうよ、うちはか弱き乙女なの」

 確かに、ディアンナを初めて見た時、大剣を振りかざす程の力があるとは思わなかった。
 まぁ実際、軽々大剣を振りかざす化け物だったんだけど……。

「まぁまぁ、とりあえず魔王校に向かいましょう。
 このまま客間にいても、現状は何一つ変わりません」

「そ、そうね」

 俺とディアンナは、シェルヴィ様のいる魔王校へと向かった。

「おやおや、これはこれはシェルヴィ様の付き人の方ではありませんか。
 しかも、お隣におられるのは確か、魔王軍第1首、大剣のディアンナ……。
 これは何か、大事な用だとお見受けしますが」

 当然、魔王校には門番のぶた丸がいる。
 しかーし、ぶた丸は俺と同じでこの言葉にめっぽう弱い。
 

「そうなんです。
 実は、シェルヴィ様関連の急用なんです!」

「なっ!
 すぐに開けさせていただきます!」

 ぶーちゃんは、快く校門を開けてくれた。

「あら、あなた力持ちなのね」

「いえいえ、まだまだでございます。
 それより、早くシェルヴィ様の元へ向かってくだされ」

「それもそうね」

 そしてついに、俺とディアンナはシェルヴィ様がいるであろう2-1の教室、の前のT字廊下へ到着した。

「あのー、ディアンナさん。
 ここまだ教室じゃないですよ?」

「へ、へぇ、これはこれは立派な教室だこと……」

 壁に身体を寄せ、頭だけを出し、教室の様子を伺うディアンナ。
 その脚はプルプルと震えている。

「はぁ、仕方ないですね。
 俺が先に行って、シェルヴィ様を呼んできます」

「あぁ、かたじけないな」

 何やら変なキャラに執着している俺だが、困っている人を見過ごすような人にはなりたくない。
 俺は教室の窓から中を覗いた。
 すると……。

「あっ、イケメンさんだ!」

「えっ、本当だ!」

「ねぇねぇ、誰に会いに来たのかな」

「そんなのシェルヴィ様に決まってるでしょ」

 いつも通り女の子たちに囲まれてしまった。

「なっ……!
 この騒ぎよう、間違いなくハースが来てるのだ」

「えぇっ!?
 シェルヴィちゃん分かるの?」

「うむ。
 何となくではあるが、確信してるのだ」

「それ、なんか矛盾してない……?」

 シェルヴィ様を探そうにも、目の前にあるのは壁。
 だから俺は、大人しく待つことにした。
 そして待つこと数分……。

「ハース、どうして学校にいるのだ」

「シェ、シェルヴィ様!」

 女の子たちをかき分け、シェルヴィ様が窓の前へとやってきた。

 当たり前だが、シェルヴィ様は今俺に対して怒っている。
 もしここで変に時間をかければ、大事な1戦を控えるディアンナに飛び火しかねない。
 ならば、俺が取る選択肢は1つ。

「ちょっとお借りします!」

「な、何をするのだ!」

 そう。
 無理やり連れていく、だ。
 俺は窓からシェルヴィ様を抱っこすると、エレベーター前でそわそわしているディアンナの前で下ろした。

「あとは、おふたりでどうぞ」

 俺は無意識に認識阻害魔法を自分にかけ、2-2の教室に身を潜めた。
 ここからなら、2人の様子がよく見える。

「あ、あの……!」

「ん? 初めて見る顔なのだ」

 そういえばそうか。
 シェルヴィ様が見たのはあの竜であって、放った本人ディアンナじゃないのか。
 これはまず、説明から入らないといけないな。

「う、うちは、魔王軍幹部第1首、大剣のディアンナと申します」

「ど、どうもはじめましてなのだ」

 気まずい空気が2人を包み込む。
 しかし、そんな空気を一蹴するかのごとくディアンナが切り出す。

「せ、先日は、うちの放った竜のせいでとても怖い思いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」

 ディアンナは前で手を重ね、深々と頭を下げた。

「……竜?
 竜……竜……竜……あっ、あの竜か!」

「はい……」

 おそらくディアンナは、自分が叩かれたり、怒鳴られたりすると思っているのだろう。
 だが、それは大きな間違いだ。

 俺のよく知るシェルヴィ様、俺の大好きなシェルヴィ様、それは……。

「あの竜……もう1回見たいのだ!」

「……え?」

 予想外も予想外な返答に、ディアンナは思わず顔を上げた。

「我もいつか、あの大きな竜を操れるような、立派な大人になりたいのだ!」

「で、でも、うちは身勝手な行動でシェルヴィ様に怖い思いを……」

「ふっふっふ、我を甘く見てもらっては困るのだ。
 我は魔王の子シェルヴィ、その程度全く恐れるに足らないのだ!」

 俺のよく知るシェルヴィ様、俺の大好きなシェルヴィ様、それは……常に元気で前向きで、誰よりも好奇心旺盛で、本当に自分のことしか考えられない、とても世話の焼けるお嬢様です。
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