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41話 無用の長物

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 はぁ、もう自分の部屋で寝たい……。

 なぜかシェルヴィ様に怒られ、ただでさえテンションが下がっている俺にパパさんとの話し合いが迫る。

「ハースさん、こちらでもう少々お待ちください……にゃ」

「はい」

 シロさんに案内された部屋は、四方を本に囲まれ、大きなシャンデリアが吊るされ、ふかふかのソファが準備された豪華な客間だった。

 ソファは向かい合う形で設置されており、机に置かれた柳製のバスケットには、シロさんが焼いてくれたであろうチョコチップクッキーが置かれている。

「美味しそう……ごくりっ」

「では、私はこれで失礼します……にゃ」

「案内お疲れ様です」

「いえいえ、これが私の仕事ですから……にゃん」

 そう言って、シロさんは部屋を後にした。
 今、にゃんって言わなかった……?
 まぁいっか。

 この時、部屋を出たシロは赤面していた。

「お姉さまのアドバイス通り、少し可愛く振舞ってみましたが、やっぱり恥ずかしすぎます……にゃ」

 シロは空間転移で自分の部屋へ帰った。

 そして再び、場面は客間へ戻る。

「じゃあ早速……」

 俺がクッキーに手を伸ばそうとしたその時、ハンドル式の取っ手がついた扉がバーンッと開いた。

「あら、みーつけた」

「やぁハースくん、少し待たせてしまったかな」

「い、いえ、俺も今来たところです!」

 びっくりしたぁぁぁぁあああ!

 そこにいたのは、パパさんとディアンナだった。
 でも、改めて思う。
 こんなにも美しい女性の武器が、禍々しい魔の大剣なのかよ、って。

「じゃあうちは、ハースくんの隣に座ろうかしら」

「えっ!?」

「あら、だめなの?」

「あっ、いえ……。
 どうぞどうぞ」

「うふふ、失礼するわね」

 これが大人の魅力ってやつか……。
 全く抗えなかった。
 俺は完全に押し負け、渋々ソファに座った。

「じゃあ、僕は反対側だね」

「あっ、パパさんより先に座っちゃまずいですよね。
 大変申し訳ございませんでした!」

「いやいや、いいんだよ。
 だってハースくんはもう、僕たちの家族じゃないか」

「パパさん……」

 本当に涙が溢れそうになった。
 そういえば、パパさんとは色々あったなぁ。
 自然な流れで回想にふけろうとすると、真剣な眼差しで俺を見つめるパパさんが話を始めた。

「ハースくん、単刀直入に聞こう」

「?」

「魔王軍幹部になる気はないかい?」

「嫌です!」

「そこをなんとか!」

「嫌です!」

「かっこいいよ!」

「嫌です!」

「モテるよ!」

「嫌です!」

「給料いいよ!」

「嫌です!」

「シェルヴィの喜ぶ顔が見れるよ!」

「喜んで!」

 あっ、つい無意識に……。
 というか、俺今はめられたんじゃない?

「はぁ、よかった。
 だってハースくんは、僕が直々に鍛えている魔王軍の幹部を圧倒したんだもん。
 入ってくれなきゃ、僕のメンツが丸潰れだからね」

「わぁー、それはおつらいー」

 おいハース、お前ってやつは何やらかしてくれてんだ!
 ほぼ間違いなく面倒事に巻き込まれる体質してんだろ!

 あぁ、俺の平和な日常がさっていくぅぅぅぅ……チーン。
 いや、断ればまだ間に合うかも!

「でも、これは僕だけの意見じゃなくてね、そこにいるディアンナ、ここにいない他の幹部たち全員の総意でもあるんだ」

 あぁ、断れなくなったぁぁぁぁ……チーン。

「もしかして、ハースくん嫌なの?」

「はい、嫌です。
 第1、俺はシェルヴィ様の世話役です」

「でもぉ、もしハースくんが幹部になったらぁ、女の子にモテモテだよぉ」

 お姉さんボイスで俺を勧誘するディアンナ。
 だがしかーし、今の俺はシェルヴィ様を守るお兄ちゃん……みたいな感じ。
 これしきのことで揺らぐような脆い心は持ち合わせていない。

「大変ありがたく、とても名誉な申し出だということは重々承知のうえで言わせていただきます。
 俺は魔王軍幹部にはなりません」

「はぁ、どうやら決意は堅いようだね」

「はい」

 あれ?
 なんかいけそう……。

「ディアンナ、例のものを」

「はい、ヘリガル様」

 ディアンナは谷間からスマホを取り出し、少し操作した後パパさんに手渡した。

「もしもし、理事長ですが」

 初めて聞くパワーワード!

「2-1にいるシェルヴィに繋いでくれるかな」

 少しの間待っていると、スマホからシェルヴィ様の声が聞こえてきた。

「パパから電話してくるなんて、珍しいのだ。
 それで、なんの用なのだ?」

 おそらく、パパさんがスピーカーにしたのだろう。

「実はね、ハースくんが魔王軍幹部になる話が来てるんだ」

「おぉ!
 それはもしかして、我の配下が増えるのではないか?」

「うん、もちろん増えるよ」

「パパ、ハースに伝えて欲しいのだ。
 ハースは幹部になるべき人だ、と」

「分かった。
 しっかり伝えておくね」

「うむ。
 では、我は授業を受けてくるのだ」

「うん、頑張ってね」

 そこで、通話は終了した。

「ハースくん……君は幹部になるべき人だ!」

「はい、なります!
 なればいいんでしょ!」

 こうして、俺はシェルヴィ様のとなったのだった。
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