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11話 デリート

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「ん?」

 今自分が何をやろうとしているのか、正直分からない。
 ただ、確かに感じるこの感覚……。
 俺なら出来る!

「ガルルルル」

 うわー、思ったよりでかいな。
 草陰からガサゴソと姿を見せたのは、人の背丈を軽々超える紫毛並みの狼。

 この体格であの速さ。
 控えめに言って化け物だ。

「……あっ……うっ……」

 まずい。
 シェルヴィ様が怯えている。

「……ふぅ……ふぅ……」

 それでも、狼を刺激しないよう必死に口を塞いでいる。
 なんて偉い子なんだ……。

 おいハース、シェルヴィ様はあの小さな身体でこんなにも頑張っている。

 これ以上はもう、言わなくても分かるよな。

「シェルヴィ様。
 ゆっくりでいいので、後ろの木まで下がってください」

「……んん……」

 うんうん、いい返事だ。
 後は、俺に任せてくれ。

「おいそこの狼、俺が相手だ」

「ガルルルル」

 いつ飛びかかってきてもおかしくない状況の中、俺は右人差し指の先端に魔力を集中させていた。

 もちろん、そこに明確な理由は無い。
 ただ、そうすればいい気がする。

 そして1分後、コロコロと俺の足元に小石が1つ転がってきた。
 どうやら、後ろの木まで下がることに成功したらしい。
 流石はシェルヴィ様。

「ガルル、ガルル」

 あれ?
 唸り声のパターンが変わったな。
 そろそろか……。

「ガルル、ガル、ガルルルル」

「来いよ、狼野郎……!」

 人差し指には、もう十分魔力が溜まっている。

「ガルルルル、ガルッ!」

「よし、来いっ……!」

 狼が力強く地面を蹴ったその瞬間、なぜか俺も地面を蹴っていた。

「ハース!」

 シェルヴィ様が俺を呼んでいる。
 でも今は、今だけは、黙って見ていて欲しい。

 ハースという世話役がかっこよく決めるその姿を!

「ガウッ!」

「デリート」

 それは一瞬だった。

「ど、どうなったのだ?
 ハースは、ハースは、勝ったのだ……?」

 山の中腹は静寂に包まれ、地を歩くアリでさえも、その異様な空気感に戸惑っている。

「うっ、うっ……」

 今にも泣き出しそうなシェルヴィ様。
 でも、そんな顔は見たくないし、全く似合わない。

「もちろん勝ちましたよ」

「ハース……」

 シェルヴィ様は、物凄い勢いで振り返った。

「世話役が主をおいて、先に死ぬ訳には行きませんから。
 ……って、目から水が垂れていますよ」

「な、泣いてなどいないのだ!」

「あれあれ?
 俺はそんなこと、一言も言ってませんよ」

「い、いじわる!」

 狼と空中で向かい合った時、俺の右人差し指から放たれた純黒の魔弾は狼のおでこを捉えた。

 そしてその瞬間、俺はこの世界から狼を消せると思った。

 しかも、それはどうやら狼に限った話では無いらしい。
 俺は確かにあの時、この世の森羅万象全てを消してしまえるような、そんな気がした。

 もちろん、まだ試した訳でもなければ、そんな能力があるのかさえ知らない。
 でも確かに、俺はこの世から狼を消した。
 その証拠に狼の姿がない。

「ところでシェルヴィ様、学校遅刻しちゃいますよ?」

「あっそういえばそうだったのだ!
 ……って、そう簡単に切り替えれるかぁぁぁああ!」

「おぉ!
 シェルヴィ様は、ツッコミの心得もあったのですね」

「そんなもんないのだっ!
 ほらっ、さっさと行くのだ」

 あっ、怒ってる怒ってる。
 シェルヴィ様は目を合わせることなく、左手を俺に差し出した。

「そうですね。
 学校へ行きましょう」

 うわぁ、これすごく従者っぽい。

「はい、失礼します」

 俺とシェルヴィ様は、再び山道を下った。

「綺麗だ」

 木々の間から差し込む日差しは、俺の門出を祝うかのごとく、キラキラと輝いていた。
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