12 / 48
11話 デリート
しおりを挟む
「ん?」
今自分が何をやろうとしているのか、正直分からない。
ただ、確かに感じるこの感覚……。
俺なら出来る!
「ガルルルル」
うわー、思ったよりでかいな。
草陰からガサゴソと姿を見せたのは、人の背丈を軽々超える紫毛並みの狼。
この体格であの速さ。
控えめに言って化け物だ。
「……あっ……うっ……」
まずい。
シェルヴィ様が怯えている。
「……ふぅ……ふぅ……」
それでも、狼を刺激しないよう必死に口を塞いでいる。
なんて偉い子なんだ……。
おいハース、シェルヴィ様はあの小さな身体でこんなにも頑張っている。
これ以上はもう、言わなくても分かるよな。
「シェルヴィ様。
ゆっくりでいいので、後ろの木まで下がってください」
「……んん……」
うんうん、いい返事だ。
後は、俺に任せてくれ。
「おいそこの狼、俺が相手だ」
「ガルルルル」
いつ飛びかかってきてもおかしくない状況の中、俺は右人差し指の先端に魔力を集中させていた。
もちろん、そこに明確な理由は無い。
ただ、そうすればいい気がする。
そして1分後、コロコロと俺の足元に小石が1つ転がってきた。
どうやら、後ろの木まで下がることに成功したらしい。
流石はシェルヴィ様。
「ガルル、ガルル」
あれ?
唸り声のパターンが変わったな。
そろそろか……。
「ガルル、ガル、ガルルルル」
「来いよ、狼野郎……!」
人差し指には、もう十分魔力が溜まっている。
「ガルルルル、ガルッ!」
「よし、来いっ……!」
狼が力強く地面を蹴ったその瞬間、なぜか俺も地面を蹴っていた。
「ハース!」
シェルヴィ様が俺を呼んでいる。
でも今は、今だけは、黙って見ていて欲しい。
ハースという世話役がかっこよく決めるその姿を!
「ガウッ!」
「デリート」
それは一瞬だった。
「ど、どうなったのだ?
ハースは、ハースは、勝ったのだ……?」
山の中腹は静寂に包まれ、地を歩くアリでさえも、その異様な空気感に戸惑っている。
「うっ、うっ……」
今にも泣き出しそうなシェルヴィ様。
でも、そんな顔は見たくないし、全く似合わない。
「もちろん勝ちましたよ」
「ハース……」
シェルヴィ様は、物凄い勢いで振り返った。
「世話役が主をおいて、先に死ぬ訳には行きませんから。
……って、目から水が垂れていますよ」
「な、泣いてなどいないのだ!」
「あれあれ?
俺はそんなこと、一言も言ってませんよ」
「い、いじわる!」
狼と空中で向かい合った時、俺の右人差し指から放たれた純黒の魔弾は狼のおでこを捉えた。
そしてその瞬間、俺はこの世界から狼を消せると思った。
しかも、それはどうやら狼に限った話では無いらしい。
俺は確かにあの時、この世の森羅万象全てを消してしまえるような、そんな気がした。
もちろん、まだ試した訳でもなければ、そんな能力があるのかさえ知らない。
でも確かに、俺はこの世から狼を消した。
その証拠に狼の姿がない。
「ところでシェルヴィ様、学校遅刻しちゃいますよ?」
「あっそういえばそうだったのだ!
……って、そう簡単に切り替えれるかぁぁぁああ!」
「おぉ!
シェルヴィ様は、ツッコミの心得もあったのですね」
「そんなもんないのだっ!
ほらっ、さっさと行くのだ」
あっ、怒ってる怒ってる。
シェルヴィ様は目を合わせることなく、左手を俺に差し出した。
「そうですね。
学校へ行きましょう」
うわぁ、これすごく従者っぽい。
「はい、失礼します」
俺とシェルヴィ様は、再び山道を下った。
「綺麗だ」
木々の間から差し込む日差しは、俺の門出を祝うかのごとく、キラキラと輝いていた。
今自分が何をやろうとしているのか、正直分からない。
ただ、確かに感じるこの感覚……。
俺なら出来る!
「ガルルルル」
うわー、思ったよりでかいな。
草陰からガサゴソと姿を見せたのは、人の背丈を軽々超える紫毛並みの狼。
この体格であの速さ。
控えめに言って化け物だ。
「……あっ……うっ……」
まずい。
シェルヴィ様が怯えている。
「……ふぅ……ふぅ……」
それでも、狼を刺激しないよう必死に口を塞いでいる。
なんて偉い子なんだ……。
おいハース、シェルヴィ様はあの小さな身体でこんなにも頑張っている。
これ以上はもう、言わなくても分かるよな。
「シェルヴィ様。
ゆっくりでいいので、後ろの木まで下がってください」
「……んん……」
うんうん、いい返事だ。
後は、俺に任せてくれ。
「おいそこの狼、俺が相手だ」
「ガルルルル」
いつ飛びかかってきてもおかしくない状況の中、俺は右人差し指の先端に魔力を集中させていた。
もちろん、そこに明確な理由は無い。
ただ、そうすればいい気がする。
そして1分後、コロコロと俺の足元に小石が1つ転がってきた。
どうやら、後ろの木まで下がることに成功したらしい。
流石はシェルヴィ様。
「ガルル、ガルル」
あれ?
唸り声のパターンが変わったな。
そろそろか……。
「ガルル、ガル、ガルルルル」
「来いよ、狼野郎……!」
人差し指には、もう十分魔力が溜まっている。
「ガルルルル、ガルッ!」
「よし、来いっ……!」
狼が力強く地面を蹴ったその瞬間、なぜか俺も地面を蹴っていた。
「ハース!」
シェルヴィ様が俺を呼んでいる。
でも今は、今だけは、黙って見ていて欲しい。
ハースという世話役がかっこよく決めるその姿を!
「ガウッ!」
「デリート」
それは一瞬だった。
「ど、どうなったのだ?
ハースは、ハースは、勝ったのだ……?」
山の中腹は静寂に包まれ、地を歩くアリでさえも、その異様な空気感に戸惑っている。
「うっ、うっ……」
今にも泣き出しそうなシェルヴィ様。
でも、そんな顔は見たくないし、全く似合わない。
「もちろん勝ちましたよ」
「ハース……」
シェルヴィ様は、物凄い勢いで振り返った。
「世話役が主をおいて、先に死ぬ訳には行きませんから。
……って、目から水が垂れていますよ」
「な、泣いてなどいないのだ!」
「あれあれ?
俺はそんなこと、一言も言ってませんよ」
「い、いじわる!」
狼と空中で向かい合った時、俺の右人差し指から放たれた純黒の魔弾は狼のおでこを捉えた。
そしてその瞬間、俺はこの世界から狼を消せると思った。
しかも、それはどうやら狼に限った話では無いらしい。
俺は確かにあの時、この世の森羅万象全てを消してしまえるような、そんな気がした。
もちろん、まだ試した訳でもなければ、そんな能力があるのかさえ知らない。
でも確かに、俺はこの世から狼を消した。
その証拠に狼の姿がない。
「ところでシェルヴィ様、学校遅刻しちゃいますよ?」
「あっそういえばそうだったのだ!
……って、そう簡単に切り替えれるかぁぁぁああ!」
「おぉ!
シェルヴィ様は、ツッコミの心得もあったのですね」
「そんなもんないのだっ!
ほらっ、さっさと行くのだ」
あっ、怒ってる怒ってる。
シェルヴィ様は目を合わせることなく、左手を俺に差し出した。
「そうですね。
学校へ行きましょう」
うわぁ、これすごく従者っぽい。
「はい、失礼します」
俺とシェルヴィ様は、再び山道を下った。
「綺麗だ」
木々の間から差し込む日差しは、俺の門出を祝うかのごとく、キラキラと輝いていた。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
トーキング フォー ザ リンカーネーション パラレル
弍楊仲 二仙
ファンタジー
なろうで延々と書き綴った物語のような何かの転載。
たぶんジャンルは異世界(転移)もの。
向こうでは第一部完結済み。
続きを書くために内容を振り返りたかったのと
色々と雑だったので、章とか文章に修正いれて読みやすくしようかと思ってます。
一話だけオリジナル。あとはほぼ転載の予定でございます。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる