俺はこの幼なじみが嫌いだ

ゆざめ

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お月見(2)

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「いただきまーす!」

 あゆは包み紙を捲ると、大きく口を開け、バーガーを頬張る。

「うーん、幸せぇ……柚ありがと!」

「どういたしまして」

 その言葉通り、彼女の顔からは幸せの色が滲み出ていた。
 いいな、あゆはいつも自然体で。

「……まぁ、それが魅力なんだけど……」

 未だ収まらぬ鼓動に気を取られ、無意識に口が動いた。

「ん? 今なんか言った?」

「えっ、俺今なんか言った?」

「うん、絶対なんかは言ってた」

「絶対の絶対?」

「絶対の絶対」

 どうやら、心の声が漏れていたらしい。

 でもなんだ?
 えーと、今の俺が言いそうなことでしょ。
 んんん、言いそうなこと、言いそうなことねー……あっ。

「思い出した。俺のも1個取ってくれる?」

「もちろん!」

 当然、思い出したなんてのは咄嗟に考えた真っ赤な嘘だ。
 それでも、余計なことを口にするよりかは、幾分もマシだと思った。

「なんだー、柚もお腹すいてたんだね! そうならそうって言ってくれればよかったのに!」

「うん、実は、結構すいてたんだよねー」

 幾分かマシ……なはず。
 ねぇあゆ、別に食い意地張ってるわけじゃないからね。理解してね、ねっ、ねっ!

「ちょっと持ってて」

「うん」

 あゆは俺に食べかけのバーガーを預け、紙袋から新しいものを取り出した。

「はい!……って、あれ? 食べなかったの?」

「ん? これのこと?」

 俺は右手に持つバーガーを少し持ち上げた。

「うん、全然食べてよかったのに」

 あのさぁ、食べてよかったのにって、これあゆの食べかけじゃん。
 それに俺、今日初めて月見バーガー食べるから、どうせなら新品がいいなぁ……なーんて。

「っていうかね、柚に食べて欲しいな」

 なぜかあゆは、上目遣いで俺の目をじっと見つめる。
 しかも、天女の羽衣っぽい服のせいか、夜風に揺れる髪のせいか、その姿はとても色っぽく映った。

 そんなのずるじゃん。

「はいはい、分かったよ」

 特に引き下がる気も無さそうだったので、俺はバーガーを口に運んだ。

「おっ、美味しいじゃん」

 ジューシーなビーフパティの満足感、クリーミーな目玉焼きと濃厚チーズのまろやかさ、そして、そこに加わるほんのり甘いソース……最っ高。

「だ、だよね……! 私思わず感動しちゃったもん!」

 (よ、よしっ! ちょっと無理やりな感じになっちゃったけど、無事関節キスゲットだよ!)

 結局、俺はあゆの食べかけを、あゆは新しいものを食べ進めた。
 まぁ相手があゆなら、特に不快感も感じないしね。

 その後、俺とあゆは続け様に、もう1つずつ月見バーガーを食べた。
 しかもあゆに至っては、

「あっ、ポテトもあるじゃん! 食べていいの!?」

「うん、もちろん」

「やったー!」

 という具合に、喜んでポテトにまで手を伸ばしている。
 まだ食べるんだ、すごいね。

 でもまぁ、たくさん食べる女の子は嫌いじゃないけど。

「俺は飲み物もらおっかな。あゆ、中のコーラ取って」

「はーい」

 ここでふと気づいた。
 俺って今、超幸せなんじゃね?

 あゆからコーラを受け取った俺は、ストローを差し1口。

「はぁ、沁みるぅ」

 予想通り、コーラの強い炭酸はコテっとした口の中をリセットしてくれた。

「ふぅ」

 そんな満足そうな顔の俺を見たからか、あゆが言う。

「私も1口飲んでいい?」

「あっ、それなら、あゆの好きなバニラシェイク買ってきてあるよ」

「いや、今はコーラの気分なの」

「えっ、わざわざシェイクある店で買ってき一一」

「コーラの気分なの!」

 先程より、語気が強まった。

「はい、どうぞ」

 大人しく俺が差し出すと、あゆは嬉しそうにコーラを飲む。
 そして、

「くぅぅぅぅ、最っ高!」

 と目を輝かせた。

「そうでっかそうでっか。よかったですねー」

 せっかくあゆのためにシェイク買ってきて
あげたのに。
 普通にちょっと嫌いになりそうかも。

「えへへ、関節キス返ししちゃった」

「なにそれ」

 くそっ! 可愛いかよっ! 全部許すよっ!

 俺は多分、単純なんだと思う。
 うん、きっとそうに違いない。



 それから15分が経った頃、紙袋にゴミをまとめた俺とあゆは、寝転がりながらしっぽりと月を眺めていた。

「綺麗だね」

「うん、そうだな」

 少し欠けた月は、満月とは呼べないまでも丸々としていて、それはそれは綺麗だった。
 そんな月の明かりに照らされる街並みは趣があり、心做しか喜んでいるようにも見える。

「そういえば、十三夜について調べたよ」

「ほーん、どうだった?」

「なんかね、十五夜は中国伝来の文化で、十三夜は日本独自の文化なんだって」

「へぇ、そうなんだ」

 俺を楽しませるためなのか、話す内容を作るためなのか、その真相は分からない。
 ただ、ちゃんと調べてくるあゆのこういう所が、俺はす…………ストロングポイントだと思う。

「あっ、それでね」

「う、うん」

 何言おうとしたんだ、俺……。

「十五夜と十三夜は、2つ合わせて『二夜の月』って呼ばれてて、どちらか1つしか見ないことを片見月って言うんだって」

「へぇ」

「ちなみに、片見月は縁起が悪いらしくて、基本的には両方見た方がいいらしいよ」

「へぇ、ちなみに十五夜っていつなの?」

「あーそれなんだけどね、どうやら今日が十五夜だったみたい。
 というわけで、1ヶ月後またお月見しようね」

「うん」

 あれ、なんか今予定決まらなかった?

 まぁ、別にいっか。
 あゆと一緒ならどうせ楽しいだろうし。

 話が終わったタイミングでスマホに目を見ると、時刻は22時半になる手前だった。

「あゆ、俺そろそろ帰るね」

「えっ、もう帰っちゃうの?」

 俺が身体を起こすと、あゆも続いて身体を起こす。

「もうって言うけど、もう22時半だよ」

「ありゃま、ほんとじゃん」

 自分のスマホを見たあゆは、驚きの表情を浮かべた。
 正直、俺も確認するまでは時間の感覚を完全に失っていたから、こうなるのも無理はない。

 これも全て月の持つ魅力のせいだ。
 ほんと、最高だったよ。

「じゃあまた学校で」

「うん! また学校で!」

「「おやすみ」」

 こういう1日も悪くないな。
 今日は、心からそう思えた1日だった。
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