俺はこの幼なじみが嫌いだ

ゆざめ

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体育祭(3)

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 ついにやってきた体育祭本番。
 俺の出番は、次の次だ。

「一応、勝ち狙ってくる」

「おいおい、そんな夢無いこと言うなよな。
 どうせなら勝ってこいよ」

「へいへい」

 有難いことに天気は曇り。
 今日1日、暑さに負けることは無さそうだ。

「次の競技に出場する選手は準備してください」

 聞きたくないはずなのに、自然とアナウンスが大きく聞こえる。

「俺の中の俺はやる気満々ってか」

 ゆっくり待機所に向かうと、俺以外の生徒は整列を終えていた。

「君、急いで」

「あっ、すみません」

 先生に急かされ、俺は渋々グラウンドを走る。

「あっ、柚! 遅いよ!」

「ごめんごめん。道混んでてさ」

「それ、車移動でしか聞いたことないよ……」

 やはり、昨日は俺の勘違いだったらしい。
 どっからどう見ても、あゆはいつも通りだ。

「ねぇ、入場する時もバンド付けてかない?」 

 突然あゆが言った。

「えっ、なんで?」

「なんか変に緊張しちゃってさ、本番上手く走れない気がして……えへへ」

 実にあゆらしくない提案だったが、自分のアップも兼ねて俺は了承した。

「最後の競技は、クラス合同の二人三脚です。選手入場」

 最悪のアナウンスだ。
 頼むからやらかすなよ、俺。

「よーし、絶対勝つよ!」

「ベストは尽くすよ」

「うん!」

 曲に合わせて駆け足をし、選手入場を終えた。

「柚うううううう! 絶対勝てよおおおおおおお!」

 第1走者は俺たち1年生。

「あいつうるさいな」

「いいじゃん! 柚のために全力で応援してくれてるんだよ!」

 はなから集中などしていないが、負けるのは嫌だ。

「それじゃあ準備してね」

「「「はい」」」

 返事をし、俺たちは白線に並んだ。
 ゴールテープまでは30m、ミスなく走れればワンチャン優勝出来る……かも。

「みなさーん! 応援の力で、自分のチームを勝たせましょうねー!」

「「「おおおおおおおお!」」」

 凄い応援だ。

 ちなみに、俺のクラスのポイントは今60ちょうど。

 1位の6組に勝つには、優勝の4ポイントが必須である。

「柚うううううう! 頼むううううう!」

 ヒロの声って、なんでこんなに聞こえるんだろ。

「あっ、そうそう。一応俺、優勝狙ってるから」

 俺がらしくない言葉を言ったその時、1人の女子生徒が俺の名前を呼んだ。

「柚くん! 頑張ってー!」

 この可愛らしい声は、つい先日出会ったばかりの夏芽ちゃんだ。

「あ、あの子って……」

 あれ? 急にあゆの様子がおかしく……。

「位置について、よーい」

 えっ、嘘でしょ……?
 ちょっ待……。

「ドン!」

 スタートの合図が鳴り、生徒がゴールテープ目掛け駆けていく。

「ねぇ、柚?」

「えっ、なに、出発しないの?」

「あっ、そうだね」

 俺たちは完全に出遅れた。

 そりゃそうだ。
 スタートすらしていないのだから。

「それでさ、あの、その……」

「なに、全然分かんないんだけど」

「だからね、その……」

 あーこりゃ、1位は無理だな。
 ごめんよ、ヒロ。

「あーもういいや!
 柚はあの子と付き合ってるの!?」

「……はっ? 急に何の話?」

「だってだって、この前告白されてたじゃん!」

 どうしてあゆがその事を知ってるんだ?

 じゃなくて、なんで今?

「それ、今じゃなきゃダメ?」

「うん! 気になって集中出来ないもん!」

 待てよ。これ、1位あるぞ?

「はぁ、全然付き合ってないよ。
 だって俺、他に好きな人いるし」

「えっ、誰……?」

「えー、勝ったら教えてあげる」

「分かった。絶対勝つ」

 その時、身体の危険センサーが俺に言った。

「足を全力で回さないとどこか壊れます」

 だってさ。

「おりゃあああああ!」

「おりゃあああああ!」

 あゆに負けじと、俺は全力で足を回した。
 まだ死にたくはないからね。

 するとその結果……。

「優勝は1組2組ペアーーーー!!!」

「「「うおおおおおおおお!」」」

 なんか凄いことになった。

「柚、やったね!」

「あっ、うん」

 実感がわかない。
 俺は今本当に、優勝したんだろうか。

「勝利のハイタッチ!」

「いえーい」

 ジャンプした拍子に、足のバンドが外れた。
 どうやらギリギリだったみたいだ。

 とそこへ、うるさい足音が1つ。

「柚うううううう!」

「うわっ、なんかキモいやつ来た」

 死角から抱きつこうとしてきたヒロをかわした俺は、頭を軽く叩いてやった。

「痛てっ、酷いぞ柚! せっかく優勝の立役者を褒めたたえてやろうとしたのに!」

「やだよ。目立ちたくないし」

 これは心からの本音だ。

「ふっふーん、残念ながらそれは無理みたいだぞ」

「えっ?」

「だってもう、1組のヒーローじゃん」

 気づけば、1組の生徒全員が俺を囲っている。

「じゃあみんな、一斉に行くぞー!」

「「「うんっ!」」」

「えっ、何されるの……」

 嫌な予感がする。
 それも今世紀最大の?

「そんなの決まってんだろ……胴上げだー!」

「「「わっーしょい! わっーしょい!」」」

 なぜだろう。
 目立ちたくなかったはずなのに、俺は今確かに高揚感を覚えている。

「な、長くない……?」

「まだまだ行くぞー!」

「「「うおおおおおお」」」

 あー、真剣にやってよかった。
 そんな風に思える日が来るなんて。

「あゆちゃんおめでとう!」

「ありがとう! それより聞いて!」

「ん? どうしたの?」

「柚、誰とも付き合ってないんだって!」

「へ、へぇ、よかったねぇ」
(体育祭は二の次なんかい。
 まぁ、幸せそうだしおっけーか)

 俺は体育祭が嫌いだ。
 目立ちたくない俺がヒーローになれてしまう、そんな体育祭が嫌いだ。
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