異世界マンションの管理人

ゆざめ

文字の大きさ
上 下
57 / 57

異世界旅館④

しおりを挟む
 部屋までの道のりは驚きの連続だった。
 まずは床が全面ガラス張りになっており、優雅に泳ぐ鯉の姿を間近で見ることが出来た。
 さらに、壁に設置されたボタンを押すと壁が変形し、鯉の餌が自動で準備された。
 さらにさらに、隣のボタンを押すと人が上に乗っていないガラスの周りに柵が出現した。
 さらにさらにさらに、柵で囲われたガラスは姿を消し、餌やりをするための穴が生成された。
 この旅館が人気な理由の1つであることは間違いない。
 木のいい匂いに包まれた道は、心がとても安らいだ。
 しばらく道に沿って歩いていると、シンプルな横開き式の扉が見えてきた。
 女将さんはその扉の前で立ち止まった。

「お客様到着いたしました。
 こちらが女性の方に泊まって頂くお部屋になります」

 扉のすぐ横に、『桜の間』と書かれている。
 しかし、それにしてもシンプルな扉だ。
 ひねりがあるようには見えない。

「失礼かもしれないですが、随分シンプルな扉なんですね」

「いえいえ、失礼だなんてとんでもございません。
 初めてこの旅館にいらっしゃったお客様は、みなさんそうおっしゃられますから」

「そうなんですね……」

 当たり前だ。
 全てが完璧なこの旅館において、唯一この扉だけ足を引っ張っているのだから。
 十分素晴らしい場所ではあるのだが、少しだけ物足りない気がした。
 そんな時だった。

「むむむ! この扉、何か仕掛けがある!」

 スラが何かに気づいたらしい。
 その様子に、女将さんも笑顔を浮かべている。

「ではこちらの鍵を使って、鍵を開けて見てください」

 スラは女将さんから鍵を受け取り、鍵を開けた。
 その瞬間、桜の花びらが舞い始めた。
 床に落ちると、何事も無かったかのように消えていく。
 不思議な花びらだった。

「お客様、もう一度扉をご覧下さい」

 俺たちは言われた通り、視線を扉へと移した。

「わぁ……綺麗なのです……」

「こいつはすげぇ……」

 ひらひらと舞い落ちる桜吹雪、桜が描かれた両開きの扉、桜の花びらを模した持ち手。
 全ての要素が『桜の間』の名に相応しい。
 これでこそ、この旅館だ。

「じゃあ、ここで夢くんと水月さんとは一旦お別れですね」

「そうだな」

「おう」

 女子チームはメルの後に続き、手を振りながら部屋の中に入っていった。
 最後尾にいたキュレルとイムは、俺たちにこう言った。

「また後でね」

「夢さん、水月さんお先に失礼します」

 ガラガラと扉が閉まり、女将さんと男子チームが残った。
 9人もいなくなると、友達と旅行に来た高校生のような気分になる。

「それでは、お2人に泊まっていただくお部屋へとご案内いたします」

「よろしくお願いします」

「おう、よろしくな。
 それより、 親友と2人きりってのは最高だな」

 水月がニコニコしながら言った。
 その時だった。
 ガラガラと扉が開き、中からキースが出てきた。
 出てきたキースからは、殺意のようなとても重たいオーラを感じる。
 特に水月は強く感じているらしく、額から汗が滝のように流れ落ちている。

「キースどうしたの?」

「何か良くないことが聞こえて来たから出てきた」

「良くないこと?」

「うん。2人きりが最高って聞こえた」

 ギラりと水月を睨む水月。
 俺の方を向き、助けを求める水月。
 この状況を楽しんでいるのか、ニコニコと微笑んでいる女将さん。
 俺は静かに視線を下へ逸らした。

「女将さん、私も行っていい?」

 キースが女将さんの顔を見ながら尋ねる。
 これは止めなければまずいと本能が言っている。

「女将さん……男と一緒に泊まるのは……ねぇ……?」

 俺は女将さんに助けを求めた。

「いいえ、泊まって頂いて結構です。
 私共はとりあえず、男性と女性に分けさせて頂いただけですのでご自由にどうぞ」

「お、女将さん……なんで……」

 こうしてキースは、俺と水月の部屋に泊まることとなった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件

なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。 そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。 このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。 【web累計100万PV突破!】 著/イラスト なかの

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...