異世界マンションの管理人

ゆざめ

文字の大きさ
上 下
56 / 57

異世界旅館③

しおりを挟む
 ロープウェイは15分ほどかけ、山の中腹へと登った。

「ふぅ、やっと着いた……」

「ようやく着きましたね……」

 到着したはいいものの、キースとヴェントスの体力はもうゼロに等しかった。

「ひとまず旅館に行こうか」

「うむ!」

「早く行きましょう!」

 スラは腕を組みながら偉そうに、イムは目をキラキラと輝かせながら答えた。
 2人は相変わらず楽しみで仕方ないらしい。
 辛そうな2人とは、まるでもって正反対だ。
 酔うか酔わないかだけで、ここまで差があるとは……少し可哀想な気もする。
 とりあえず俺たちは、『旅館はこちら』と書かれた矢印に沿って歩いた。
 その道中、桜と思われる綺麗な花のシャワーが、俺たちを歓迎してくれた。
 そういえば、異世界に来てから季節について1度も考えたことがなかった。
 当たり前のように海に入っていたが、ここでは桜が咲いている。
 この2つの要素を問題なくクリアしている季節と言えば、春くらいしか思いつかない。
 でも、確認は大切だ。

「なぁソフィ、今の季節は?」

「そうねぇ、暑いかしら」

「え? それって感想?」

「いいえ、今の季節は『暑い』よ」

 よくわからない答えが返ってきたが、今の季節は異世界において暑い方に分類されることはわかった。
 少しモヤモヤが残ったまま5分ほど歩き、目的の旅館に到着した。

「おお、これはすごいな……」

「大きいのです!」

「これは立派だな」

 俺、カプラ、ラプスは思わず声が出た。
 それもそのはず。
 俺たちの前に現れたのは、大きな旅館とそれを囲む透き通った池。
 色とりどりの鯉が優雅に泳いでいるのが見える。

「夢、子供みたいで可愛い……」

「ほんと子供みたいに素直だよな。
 さすがは、俺の親友だぜ!」

 そんな俺たちの様子を見ていたキースと水月は、夢に聞こえない小さな声でそう言った。
 一通り感動し終わったあと、俺たちは旅館に向かった。
 近くで改めて見ると、入口前の木柱にぶら下がる提灯、綺麗に並べられた木のベンチ、小さな赤色の灯篭がレトロな雰囲気を演出している。
 まるで夢の世界を見ているような感覚だ。
 俺は横開き式の扉をガラガラと開け、白い暖簾を手で払い中へ入った。

「失礼します」

 1歩足を踏み入れた瞬間、全身が
 すでに異世界にいるクセにと思うかもしれないが、そういうレベルの話では無い。
 俺たちは今、間違いなく夢の世界にいるのだ。

「本日はようこそおいでくださいました。
 私、女将のエリザと申します。
 よろしくお願い致します」

「こちらこそお世話になります」

 レトロな雰囲気を醸し出す内装に加え、花柄の浴衣を着た綺麗なエルフの女性たちがお辞儀してお出迎えしてくれた。
 全員が長い金髪なのは、そういう決まりなのだろうか。
 そんなことを考えていると、奥の方から高校生くらいのエルフの女の子が息を切らしながらやってきた。
 その子はソフィを見るなり、視線を逸らすようにお辞儀をした。
 ソフィはその様子を見て、笑っていた。
 何が起こったのかとても気になったが、それより先に聞かなければならないことがある。

「あの~、予約とか何もしてないですけど大丈夫ですかね? 」

 そう、予約だ。
 日本にいた頃、電話予約は当たり前。
 しかし、電話のないこの異世界で通信手段は手紙くらいしかないのだ。
 だからお願い……俺たちを泊まらせてくれ!

「はい、女神様よりお話を伺っておりますのでご心配なく」

 まさかの女神様登場!
 俺は素晴らしいお方と知り合うことが出来たようだ……女神様本当にありがとう。

「そうですか、それは良かったです。
 ちなみに、宿泊券はいつ渡せばいいですか?」

「宿泊券はお帰りになられる際にお渡し下さいませ」

「わかりました」

「それではお部屋へとご案内させていただきます。
 どうぞこちらへ」

 俺たちは女将さんについて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

スクールカースト最底辺の俺、勇者召喚された異世界でクラスの女子どもを見返す

九頭七尾
ファンタジー
名門校として知られる私立天蘭学園。 女子高から共学化したばかりのこの学校に、悠木勇人は「女の子にモテたい!」という不純な動機で合格する。 夢のような学園生活を思い浮かべていた……が、待っていたのは生徒会主導の「男子排除運動」。 酷い差別に耐えかねて次々と男子が辞めていき、気づけば勇人だけになっていた。 そんなある日のこと。突然、勇人は勇者として異世界に召喚されてしまう。…クラスの女子たちがそれに巻き込まれる形で。 スクールカースト最底辺だった彼の逆転劇が、異世界で始まるのだった。

処理中です...