53 / 57
能力が欲しいの?
しおりを挟む
大変だった夜が去り、朝がやってきた。
俺は体をゆっくりと起こす。
「はぁ」
朝一発目、飛び出したのはため息だった。
カーテンを開け、窓の外を見ると、まるで俺を真似したかのような曇り空。
またため息をつき、ベッドの上に寝転がる。
こんな時、よくわからないことを考え、現実逃避するのが人間だ。
ちなみにソースはない。
俺が適当に言っているだけだ。
俺は赤ちゃんのように駄々をこねた。
「あ~もう!
せっかく異世界に来たのに、1つも能力が使えないなんてありえなくない?
何かを犠牲にしてもいいから、最強の能力が欲しい」
この時、夢は忘れていた。
自分が異世界に来た原因が、呟きだったということに。
言霊の力を舐めてはいけない。
そして案の定、何者かがこの呟きに反応した。
「キミ、能力が欲しいの?」
突然聞こえてきたその声は、どこか聞き覚えのある声だった。
でも今はどうでもいい。
これは俺に与えられたチャンスなのだ。
「うん、欲しい!」
「わかった! じゃあ……これあげる!」
その声に合わせ、天井から1粒の飴が落ちてきた。
「それを舐めれば、君も能力が使えるようになる」
「本当か!」
「うん、もちろんだよ。嘘をつくのは嫌いなんだ」
「じゃあ、遠慮なく」
俺はパクッと飴を口に入れた。
飴をゴロゴロとしたで転がし、出来るだけ早く舐め終えようと努力した。
そして1分後、飴は綺麗さっぱり無くなった。
「舐め終わったぜ!
それで、俺が使える能力って一体なんなんだ?」
「キミが使える能力は、光線を放つ能力だよ。
人差し指を立てて、妹の名前を呼べば光線が出るよ」
「光線……だと……。
男のロマン来たぁぁぁぁあ!」
俺は早速外に行き、天に向かって人差し指を立てた。
そして大きな声でこう叫んだ。
「彩!」
すると、指先から真っ黒な光線が天に向かって飛んでいった。
「す、すげぇ……」
「そうだろ、そうだろ~。
ボクが選んだんだから、間違いないよ」
どこから聞こえてきているのか全くわからない不思議な声は、随分と偉そうに話している。
実際かっこいいし、嬉しいし、声の主には感謝しかない。
「この能力が使えてすっごく嬉しいんだけどさ、まさかタダって訳じゃないんだよね?」
「うん、ご名答。
もちろん代償は支払ってもらわなきゃね」
「代償……か。ちなみに内容は?」
「そうだなぁ……明日以降、キミが目覚めることはもうないとかかな」
「それって……」
「そのままの意味だよ」
そのたった一言で、全身に鳥肌がたった。
強さには代償がいる。
水月は厳しい筋トレを続けることで、あの強靭な肉体をキープしている。
それが能力という計り知れない力ともなれば、命と同じくらいの価値になるってわけか。
「それなら……能力はいらないよ」
「へぇ~、それでいいの?」
「ああ、もう死にたくないからな」
俺は立てたままの人差し指を静かに下ろした。
するとその時、拍手する音が聞こえてきた。
「その選択は大正解!
ご褒美に1つ、いい話をしてあげよう」
「おお! ぜひ話してくれ!」
俺は木陰に移動し、その場に寝転がった。
「それじゃあキミに質問。能力は欲しい?」
「あんなこと言われたあとだからな……でも、もらえるならもらっておきたいかな」
「うんうん、キミは素直でいいね。
それじゃあ要素を追加するよ。
さっき言ったみたいに、能力をもらったら明日以降2度と目覚めないとしたら?」
「もらわない」
「つまり明日を生きることの方が、能力を得るよりよっぽど価値があるってことになるね」
「うん。でもさ、それって当たり前なんじゃないのか?」
「うん、当たり前だよ。
生きていなければ、そもそも成立しないからね。
ボクが伝えたいのはね、キミは能力なんて無くても、毎日とても幸せなんじゃないかな? ってこと」
その言葉は、俺の心にとても響いた。
完全に理解できた訳では無いが、言いたいことは伝わった。
「誰だかわからないけど、ありがとう」
「うん、またね」
その直後、強い睡魔に襲われその場で眠りについた。
しばらくして、目が覚めた。
見えている景色からして、自分の部屋のベッドの上だろう。
「おい、お~い。
ずっと1人で寝言を喋っていたが大丈夫か?」
声のする方を見ると、キュレルが心配そうな顔でこちらを見ていた。
耳には俺があげたイヤリングがついている。
「ああ、悪ぃ。
ちょっと変な夢を見ててな」
「そうなのか。問題ないならいいんだ。
そんなことより、今日はお互いに荷物確認をし合わないか?」
「すまん、俺まだ準備出来てないから無理だ」
「なんだと、それなら今すぐやれ」
「はいはい」
キュレルの目の下に、大きなクマが出来ていた。
どうせ、お泊まりが楽しみすぎて寝ずに準備をしていたのだろう。
その後すぐ、旅行カバンの準備をする俺。
それに対し、人のベッドで気持ちよさそうに眠る天使。
声の主が言う通り、生きているだけで毎日が楽しい。
その頃、マンションの屋上では……。
フェンスに手をかける1人の少年。
「本当にキミに出会えて良かったよ。
近いうちに、また遊びに行くからね」
そこには静かに佇むクルルの姿があった。
俺は体をゆっくりと起こす。
「はぁ」
朝一発目、飛び出したのはため息だった。
カーテンを開け、窓の外を見ると、まるで俺を真似したかのような曇り空。
またため息をつき、ベッドの上に寝転がる。
こんな時、よくわからないことを考え、現実逃避するのが人間だ。
ちなみにソースはない。
俺が適当に言っているだけだ。
俺は赤ちゃんのように駄々をこねた。
「あ~もう!
せっかく異世界に来たのに、1つも能力が使えないなんてありえなくない?
何かを犠牲にしてもいいから、最強の能力が欲しい」
この時、夢は忘れていた。
自分が異世界に来た原因が、呟きだったということに。
言霊の力を舐めてはいけない。
そして案の定、何者かがこの呟きに反応した。
「キミ、能力が欲しいの?」
突然聞こえてきたその声は、どこか聞き覚えのある声だった。
でも今はどうでもいい。
これは俺に与えられたチャンスなのだ。
「うん、欲しい!」
「わかった! じゃあ……これあげる!」
その声に合わせ、天井から1粒の飴が落ちてきた。
「それを舐めれば、君も能力が使えるようになる」
「本当か!」
「うん、もちろんだよ。嘘をつくのは嫌いなんだ」
「じゃあ、遠慮なく」
俺はパクッと飴を口に入れた。
飴をゴロゴロとしたで転がし、出来るだけ早く舐め終えようと努力した。
そして1分後、飴は綺麗さっぱり無くなった。
「舐め終わったぜ!
それで、俺が使える能力って一体なんなんだ?」
「キミが使える能力は、光線を放つ能力だよ。
人差し指を立てて、妹の名前を呼べば光線が出るよ」
「光線……だと……。
男のロマン来たぁぁぁぁあ!」
俺は早速外に行き、天に向かって人差し指を立てた。
そして大きな声でこう叫んだ。
「彩!」
すると、指先から真っ黒な光線が天に向かって飛んでいった。
「す、すげぇ……」
「そうだろ、そうだろ~。
ボクが選んだんだから、間違いないよ」
どこから聞こえてきているのか全くわからない不思議な声は、随分と偉そうに話している。
実際かっこいいし、嬉しいし、声の主には感謝しかない。
「この能力が使えてすっごく嬉しいんだけどさ、まさかタダって訳じゃないんだよね?」
「うん、ご名答。
もちろん代償は支払ってもらわなきゃね」
「代償……か。ちなみに内容は?」
「そうだなぁ……明日以降、キミが目覚めることはもうないとかかな」
「それって……」
「そのままの意味だよ」
そのたった一言で、全身に鳥肌がたった。
強さには代償がいる。
水月は厳しい筋トレを続けることで、あの強靭な肉体をキープしている。
それが能力という計り知れない力ともなれば、命と同じくらいの価値になるってわけか。
「それなら……能力はいらないよ」
「へぇ~、それでいいの?」
「ああ、もう死にたくないからな」
俺は立てたままの人差し指を静かに下ろした。
するとその時、拍手する音が聞こえてきた。
「その選択は大正解!
ご褒美に1つ、いい話をしてあげよう」
「おお! ぜひ話してくれ!」
俺は木陰に移動し、その場に寝転がった。
「それじゃあキミに質問。能力は欲しい?」
「あんなこと言われたあとだからな……でも、もらえるならもらっておきたいかな」
「うんうん、キミは素直でいいね。
それじゃあ要素を追加するよ。
さっき言ったみたいに、能力をもらったら明日以降2度と目覚めないとしたら?」
「もらわない」
「つまり明日を生きることの方が、能力を得るよりよっぽど価値があるってことになるね」
「うん。でもさ、それって当たり前なんじゃないのか?」
「うん、当たり前だよ。
生きていなければ、そもそも成立しないからね。
ボクが伝えたいのはね、キミは能力なんて無くても、毎日とても幸せなんじゃないかな? ってこと」
その言葉は、俺の心にとても響いた。
完全に理解できた訳では無いが、言いたいことは伝わった。
「誰だかわからないけど、ありがとう」
「うん、またね」
その直後、強い睡魔に襲われその場で眠りについた。
しばらくして、目が覚めた。
見えている景色からして、自分の部屋のベッドの上だろう。
「おい、お~い。
ずっと1人で寝言を喋っていたが大丈夫か?」
声のする方を見ると、キュレルが心配そうな顔でこちらを見ていた。
耳には俺があげたイヤリングがついている。
「ああ、悪ぃ。
ちょっと変な夢を見ててな」
「そうなのか。問題ないならいいんだ。
そんなことより、今日はお互いに荷物確認をし合わないか?」
「すまん、俺まだ準備出来てないから無理だ」
「なんだと、それなら今すぐやれ」
「はいはい」
キュレルの目の下に、大きなクマが出来ていた。
どうせ、お泊まりが楽しみすぎて寝ずに準備をしていたのだろう。
その後すぐ、旅行カバンの準備をする俺。
それに対し、人のベッドで気持ちよさそうに眠る天使。
声の主が言う通り、生きているだけで毎日が楽しい。
その頃、マンションの屋上では……。
フェンスに手をかける1人の少年。
「本当にキミに出会えて良かったよ。
近いうちに、また遊びに行くからね」
そこには静かに佇むクルルの姿があった。
0
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説


おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる