異世界マンションの管理人

ゆざめ

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俺なりの決意

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 俺はマンションに戻り、水月用の布団を敷いた。

「悪ぃけど、ベッドは俺のもんだから」

「わかってるよ。
 泊めてもらう立場だ、文句はねえ」

 水月の生き方は俺にとって水月鏡花だ。
 憧れることは出来ても、決して触れることは出来ない。

「水月は海を離れてまでしたいことってあるの?」

「特にねえ。
 でも誰かと一緒にいるだけで楽しいし、幸せだと思う」

 この男はいちいちかっこいいことをいいやがる。
 この色男め。

「そっか……。
 俺眠くなってきたわ、そろそろ寝るか」

「ふぁ~……俺ももう限界。
 夢、おやすみ」

「おやすみ」

 二人はすぐ深い眠りについた。
 眠っている水月は幸せそうな笑顔を浮かべていた。
 朝がやってきた。
 眠気の残る体を起こし、カーテンを開ける。
 とても気持ちのいい朝だ。
 まだ眠っている水月を部屋に残し、俺は十六階へ向かった。

「今日は何作ろっかな~」

 俺はいつも、料理をする前に自分の記憶を遡る。
 過去に作ったことのある料理なら、自然とレシピを思い出せるからだ。
 今日も今日とて記憶を遡っていると、肩をトントンされた。

「ん?」

 トントンされた方を見ると、水色のエプロンを着たイムが立っていた。

「へ~、イムって早起きなんだな」

「つまんないです。
 全く驚かないなんて」

 いやいや、正直とても驚いている。
 今まで女の子のエプロン姿なんて見たことがなかった。
 こんなに可愛らしく、魅力的だったとは……。
 だがここはあくまで普通に振る舞う。

「イムとは、一ヶ月以上も一緒にいるからな。
 近くにイムがいることが、俺にとっての当たり前になりつつあるのかもしれない」

 何だこのセリフは!
 まるで口説いてるみたいになってしまった。
 こんなの普通じゃない。

「あ……えーっとな……今のはそういう意味じゃなくて……」

 俺が必死に誤魔化そうとすると、耳を真っ赤にしているイムが視界に入った。
 あれ……これってまさか……。

「ば、馬鹿じゃないですか!
 そんなことより!
 今日は何を作るんですか?」

「それなんだけど、材料が足りないみたいなんだ。
 二人で買い物に行かないか?
 あ、でも二人で買い物って……なんかデートみたいだな!」

 これで確認できる。
 さあ、イムよ。
 勘違いであったと俺に証明してくれ。

「い、いいですよ。
 でも少し待っていてください。
 女の子には準備が必要ですから」

 おっとぉ?

「わ……わかったよ。
 ゆっくりでいいからな、ゆっくりで!
 俺は下で待ってるから」

 俺は逃げ出すように部屋を飛び出した。
 何がどうなっている。
 なぜオッケーされている……?
 イムは俺の事が好きなのか……?

「あ~もう!
 なんにもわかんねえ!」

 俺はエントランスと外を行き来しながら、ずっとそわそわしていた。
 そして気づけば、座禅を組んでいた。

「お待たせしました……って何してるんですか!」

「あ、イム来てたのか。
 これはただの精神統一だ。
 気にすんな」

「はい……」

 イムの服装は、ピンクのワンピースに白いリボンが付いているとてもシンプルなものだった。
 だがしかし、デートという最強の要素と、イムの可愛さが合わさることによりとんでもなく魅力的に見える。
 これが俗に言う、『尊い』というものなのだろう。

「何を買いに行くんですか?」

「お~い。
 聞いてますか?」

「あっ……すまんすまん。
 卵と玉ねぎだ」

「それならあそこのスーパーですね」

 危なかった。
 イムの可愛さに意識を全て持っていかれるところだった。
 デートって……こんな感じなんだ。
 更にここで、イムが追い討ちをかけるように手を握ってきた。

「おいおいどうした?」

 心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。

「この先は人がたくさんいるのであまり大きくない私は、はぐれないようしっかりと夢さんに掴まっておきますね」

「わかったからさ……体はもう少し離して欲しいな」

「え、なんでですか?
 イムがはぐれちゃったら、スラお姉様に怒られますよ?」

 これは本格的にやばい。
 あと十三日で死ぬ理由ってまさか……幸せオーラに締められるとか!
 そう思ってしまうくらい幸せだ。

「わかったよ。
 なら絶対俺のそばを離れんじゃねえぞ」

「はい、わかりました」

 イムは俺の腕に顔をうずめ、バレないように顔を隠した。
 なぜなら今のイムの顔は、誰にも見せられないほど真っ赤だからだ。
 ここで流石の俺も理解した。
 イムは俺に少なからず好感を持っている。
 そうと分かれば俺がとるべき行動はこれだ。

「あれ? 全然人いないじゃん。
 これなら手繋ぐ必要ないな」

「あっ……えっ……」

 俺は無理やり手を振り払った。

「さっさと買って帰るぞ」

「う……うん」

 心が痛む。
 でも十三日後にもっと心が痛むなら、イムのためにもこうするしかない。
 俺とイムは気まずい中買い物を終え、マンションへ帰った。
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