異世界マンションの管理人

ゆざめ

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夜凪の色男②

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「うっ……ここは……どこだ……?」

「おっ、ようやく起きあがったぞ。
 お~い夢、早くこっちへこぬか」

 スラは無理やり俺を引っ張り、水月の元へ連れてきた。
 そしていつものドヤ顔だ。

「あ、ほんとだー。
 生きてたじゃーん」

「むむむ、棒読みであるな。
 我を犯罪者扱いしたのは、夢であろう」

 このスライムは何も分かっていない。

「そりゃそうだろ!
 あんなとんでもないもん撃ちやがって!
 キースが居なきゃ死んでたんだぞ!」

「だから悪かったと言っておるであろう。
 これだから男は仕方ない」

「てめぇええ……」

「まあまあ、結果的に私がいて助かったわけだしさ」

 キースに言われたらこれ以上は何も言えない。
 あれ、そういえばまた何か忘れているような……。

「おい、ここはどこだ?」

 あ、こいつだ。

「ここは俺たちのテントの中だ。
 俺は答えた、お前も質問に答えろ。
 お前はあんな所で一人何をしていた?」

 水月は急に体を起こし、正座をした。

「まずは助けていただき本当にありがとう」

 お前は俺を殺そうとしたし、スラはお前を殺しかけた。
 これってお互い様……っていうのかもわからん!

「それでなぜ俺が一人でいたかだったか。
 それはな……俺が海の王だからだ!」

「それは聞いた」

「そうだった、これは失敬。
 昔から俺たち海の民は、山の民と争っていた。
 みんな一度は聞いたことがあるはずだ。
 遊びに行くなら海か山か、とな」

 確かに聞いたことがある。
 でもそれがなぜ争うことに繋がるんだ?
 それぞれに良さがあるからこそ、海も山もより魅力的に見えるのではないか。

「争いとは一体何をされていたのですか?」

 ヴェントスが聞くと、目を赤くした水月が答えた。

「殺し合いだ」

「あらあら、物騒だこと」

「ああそうさ。
 本当に物騒な話だ」

 ここでイムがとても怖い質問をした。

「水月さんは……何人殺したんですか?」

「それを聞くのか……嬢ちゃん」

「はい。
 答えによってはあなたを……殺します」

 おいおい、待て待て。
 イムが言うと冗談に聞こえないんだが。

「俺は……今までに……」

 ドクッドクッ、ドクッドクッ。
 心臓の音がとてもよく聞こえてくる静けさだ。

「一人も殺していない。
 てか……人を殺すなんてそんな怖いこと出来ないし、第一人を殺そうとしたら水が逃げていくんだよ」

 ということはあの時俺に向かって飛んできた水の塊をかわす必要がなかったということになる。
 なら、この中で一番悪いのはスラということになる。
 本当に可哀想な水月だ。

「おい待てよ。
 今の答えだけじゃ、なんで一人なのかわからない。
 お前以外の全員が死んだのか?」

「いいや、違う。
 俺は海の民を追い出されたんだ」

「と、言いますと?」

 スラは相槌の天才なのかもしれない。

「俺は争うことに反対だった。
 でも俺には、父から受け継いだ海の王という立場があった。
 海の民の意見を聞き入れ、実行に移す立場だ。
 だから俺は争いを承認した。
 たとえ血が流れるとわかっていても、運命から逃れる術はなかったんだ」

「そ、そんな」

 イムは腰から崩れて落ちてしまった。
 無理もない。
 水月の歩んできた人生は、本人にしか理解出来ない悲しみや苦しみに溢れているのだから。

「当然、俺の知っている人は次々と倒れていった。
 だから俺は途中で勇気をだして言ったんだ。
『争いなんてやめて、お互いに手を取り合おう』と。
 でも無駄だった。
 海の民はすぐに、俺を捨てた。
 そして俺を捨てた上でこう言ったんだ。
『お前の優しさは仲間を殺す』ってな」

「それで、その争いはどうなったんだ?」

「イルカに聞いた話では、お互い多くの死者を出したあと終結したらしい」

「あらあら、最悪の結末ね」

「本当にその通りだ。
 でももう終わったことだ。
 今更気にする事じゃない。
 今日は世話になったな、明日もまだこの辺にいるのか?」

「ああ」

 当然だ。
 マンションが海の近くにあるんだから。

「そうか。
 いろいろ話せて楽になった。
 また会おう、友よ」

 そう言って水月は出ていった。

「なんだかすごいお話でしたね」

「うん」

 ヴェントスとキースのテンションが明らかに下がっている。
 綺麗な夕焼けの空、綺麗な海。
 こんな時はこれしかない。

「お前たち、昼から何も食べていないだろ」

「確かにそうね」

「我も腹ぺこである」

「そうだろう、そうだろう」

「夢、何が言いたいの?」

 キースの問に俺は笑顔で答えた。

「俺は今からBBQの準備を始める」

「BBQってなんですか?」

 森のお姫様はBBQを知らないのか。
 本当に文化が違うみたいだ。

「まあとにかくだ。
 準備が終わるまであと二十分くらいかかる。
 そこでだ、みんなで遊んで来たらどうかな?」

 三秒ほどの沈黙の後、スラが言った。

「夢よ……それは良いアイデアだ。
 我はまだ遊び足りんと思っておった階段をおり

「スラお姉様、お供します」

 スラとイムはテントを飛び出していった。

「お~い。
 ソフィもキースもヴェントスも早く来ぬか」

「みんなでビーチバレーしませんか?」

「あらあら、元気がいいわね」

「そうだね。呼ばれちゃったら行くしかないな」

「私も、もっと遊びたいです!」

 綺麗な夕焼けの空、綺麗な海、そして何よりも大切なマンションのみんな。
 楽しそうに遊ぶ彼女たちこそ、俺が大好きなみんなだ。
 結局BBQの準備をするのに四十分もかかってしまった。
 あんなに楽しそうな顔を見せられたら、準備中気が散って仕方がなかったのだ。
 今までの人生でこんなに幸せな理由があっただろうか。
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