異世界マンションの管理人

ゆざめ

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森のお姫様①

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「よし、では行こうか。
 我らがスラスラ冒険隊よ!」

「さすがスラお姉様、よくお似合いです!」

 迷彩柄の服を着たスラは、とても張り切っているように見える。

「あらあら、可愛らしい隊長だこと」

 それに比べてソフィとキースは白と黒のワンピース。
 間違いなくおしゃれ重視だ。

「で……なんで俺が一番したっぱなんだ?」

 なぜならこの並び順は、左から隊長、副隊長、副副隊長、隊員という並びになっているからだ。

「しゃべることを許可した覚えはないぞ。
 では早速出発と行こうか」

 気に食わないが、今俺は隊員。
 逆らうのは筋違いだろう。

 俺一人を先頭にスラ、イム、ソフィ、キースは後をついてきている。
 まるで盾だ。

「それにしてもこの森、なんか不気味だな」

「そうね。
 まるで幽霊かなにか出そうな感じがするわ。
 帰ってお茶でも飲みたい気分」

 この世界でも幽霊という概念は存在し、恐れられていることを知った。

 そんな時、ガサッガサッと茂みから音が聞こえた。
 これはあれだ、なにか出てくるパターンだ。

「きゃぁああああ!」

「ぎゃぁああああ!」

 イムとキースが叫んだ。
 俺はどっしり構えている。

「何が出てきても問題ない!
 さ~出てこい!」

 俺はてっきりクマやイノシシ、ヘビといった、動物が出てくるのだと思っていた。
 それがこれは一体なんだ。
 まるでキースの時と同じだ。

「た……助けて……」

 そこにいたのは、出血している緑の目に、長い緑髪をした少女だった。
 見た目から俺より若いと推測できる。
 決して胸元を見て判断したわけではない。

「ゾ、ゾンビだぁああああ!」

 イムとキースの二人は、まだ叫んでいる。

「は……やく……にげ……て……」

 パタッ。

「おい、しっかりしろ。おい!」

 ソフィが彼女の胸元に耳を当て確認をする。

「心臓はまだ動いているわ」

「すぐに運ぼう!」

 スラは物運びスライムに気絶寸前のイムとキースを、俺は背中に彼女を背負いマンションへ戻った。
 本当に二人は何してるんだか。

 俺たちは設備が充実しているスラとイムの部屋に、彼女を運び込んだ。
 そしてベッドに寝かせた。

「よし、手当てを行う! みんな離れておれ」

 スラが手を振り下ろすと、イムがリモコンのボタンを押した。

 するとベッドが彼女を包み込んだ。

「おい、大丈夫なんだろうな!」

「そう焦るでない。
 焦る男はモテないときく」

 俺は素直に言うことを聞いた。
 もちろん、モテたいからではない。
 彼女が心配だからだ。
 うん、もちろん、多分。

 しばらくすると、ベッドが開き元に戻った。
 彼女についていた血も綺麗さっぱりなくなっている。

「手当て完了である!
 イムよ、ご苦労であった」

「スラお姉様のために頑張りました!」

 そういえばスラはピンピンしている。
 叫び疲れて眠っているキースとは大違いだ。
 そして俺、ソフィ、キースの三人は一旦その場を離れた。

 それから、一時間が経過した。

「あれ……ここは……」

 ようやく彼女が目を覚ました。

「やっと起きましたか、おはようございます。
 ここはとあるマンションの一室です。
 少しの間、待っていてくださいね。
 あ、それと……安全です!」

 俺、ソフィ、キースの元に彼女が目を覚ましたとの連絡が入った。
 連絡といっても物運びスライムが呼びに来ただけだ。
 この世界に電話といった、便利な電子機器はない。

「そういえば……チラシいつ配ればいいんだ!」

 どうせまた解決するまで、マンションは戻らないだろう。
 頑張るしかないと腹を括った。

「邪魔するぞ~」

「おう来たか!
 一番遅かったではないか」

「悪かったって。
 それで様子はどうだ?」

「ふむ。
 暴れもせず、怯えもせず堂々としている」

 もしかしたらあの見た目で、怖い人なのかもと少し心配になった。
 だがそんな心配はすぐに消え去った。
 部屋に入ると、すぐに挨拶された。

「皆さんお揃いのようですね……それでは。
 はじめまして、私はヴェントスと申します。
 この度は倒れているところ、お助けいただき本当にありがとうございました」

「いえいえ。
 それより何があったんですか?」

「ねえ夢、さすがにストレートに聞きすぎ。
 女の子は繊細な生き物だってお姉ちゃん言ってたよ」

 確かにそうだ。
 ズカズカ土足で踏み込んでいい話では無いのかもしれない。

「確かにキースの言う通りだ。
 ヴェントスさんごめん」

「いえ、いいんです。
 情報の無い私は怪しまれても文句は言えません。
 なので、今からちゃんと話しますね。
 実は私……森のお姫様なのです」

 ……。

「えええええええええええええ!」

 俺たちは全員驚きを隠せなかった。
 特に俺の中のお姫様という存在は、物語に出てくる空想上の人物。
 そんなお姫様が今目の前にいる。
 こんなことがあっていいのだろうか。

「すみません、取り乱しました。
 どうして森のお姫様がこんな状態に?」

 答えによっては今すぐ戦うことになるかもしれない。
 お姫様とはそういう存在である。

「実は私……結婚したくないんです!」

 この発言のあとコンマ数秒の出来事だった。

「あらあら、もっと詳しく教えてもらえるかしら」

 ソフィが食いついた。
 それもかなり強く。

「ソフィって恋バナが好きなのか?」

「ええ、大好物よ」

 なんだろう、すごく想像出来る気がする。
 おそらくヴェントスは、今持っている情報を全て吐かされるのだろう。
 お姫様にはキツいと思うけど、がんばってとしか言えない。
 ソフィだけは絶対、敵に回したくない。
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