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第十二話
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次の日の朝。
まず目が覚めてからニオウが確認したのは、昨日まで見ていたのが夢で目覚めれば元の世界の自分の部屋で目覚めたのかどうかということだった。
しかし残念なことに、目が覚めてもニオウが目覚めたのは昨日イコッタから貸し出されたギルドの二階。
いよいよこれが夢でも何でもない現実であるということを思い知らされたような気がして、ベッドから起き上がるや否や深いため息を吐いた。
まだ静かなギルドは人の気配などが一切ないため、自然と部屋から出た足が忍び足となってしまう。
「おはようございまぁ~す……」
階段からそっとロビーを見下ろしてみたが、イコッタの姿はどこにもない。
恐らくだが彼女はカウンターの奥の部屋で寝ているのだろう。まだ起きてくる気配がないため、暫くはそのままそっとしておこうと行動を開始する。
「朝ごはんになりそうなもんって、何かあったっけか……」
リアルでは欠かさず朝ご飯を食べていたため、自然と何か食べるものがないかと保管庫のリスト一覧を眺める。
しかし暫くリストをスクロールしてもなけなしに残ったパンくらいしか見つからなかったため、仕方ないとそれを手にして口にくわえるた。
できれば泊めてもらったお礼にイコッタに朝食でも用意してあげたかったのだが、そう簡単にはいかないようだった。
「……よし、何か売りに行くか」
◇
「おーい、イコッタさん。そろそろ起きる時間だぞ」
「んっ……だれだ……わたしはまだねむいんだぞぉ……」
「ニオウですよ。それより、相談したいこともあるので起きてください」
「におう……にお……ニオウッ!?」
ガバリと勢いよく起き上がったイコッタさんに、おはようございますと挨拶する。
部屋の隅に設けられた、木の板に藁を敷いたような簡素なベッド。
俺が使ったベッドも似たようなものであったが、金がないなら仕方ないだろう。ただ、早いうちに稼いでベッドを買わないと、そのうち疲労で倒れるかもしれん。
「そ、そうだ……うちのギルドに昨日から……夢じゃないんだったか」
「夢にされたら俺が困りますよ。さ、朝ご飯作ってるんで一緒に食べましょう。相談はそれからでもいいですし」
「は? 飯、だと……?」
ほらはやく、と先に部屋から出る。
案内したその場所は、古くなったロビーの一角。
比較的壊れていないイスをニ脚用意し、埃が舞わないようにとある程度の掃除を施したテーブル。しかし、その卓上にはパンに現代で言うところのスクランブルエッグ、そして野菜がワンプレートになった朝食が二人分用意されていた。
「こ、これは……」
「まぁ泊めてもらった恩もありますしね。あ、お金は気にしないでください。今朝早くに商人会館に行って、手持ちの中でも問題のない素材を売ってきましたので、そのお金です」
これについては身分証がなければできないことだったため、昨日のうちに登録を済ませてよかったと思った。
受付を担当してくれた女性は、ここのギルド所属だと明かすと大変驚いていたのだが、次には嬉しそうな様子で俺が持ち込んだ素材を適正価格で買い取ってくれた。
持ち込んだのはゲームでの一般モンスターと呼ばれる雑魚の毛皮なり角なりだったが、旅の途中で討伐した魔物のものだと説明したら簡単に信じてくれたこともありがたい。
そんな経緯で、少ないながらもこの世界のお金を手に入れた俺はギルドに帰る途中で市場により、いくらかの食料を買ってきたのだ。
「あ、余った食材は床下の物置みたいなところに置いています。もし違ったら、保管場所を教えてもらえると助かります」
「野菜類を補完するなら裏庭の井戸水を……待て、そういうことじゃない。その、よく無事だったな?」
途中で額に手を当てて気難しそうな顔をするイコッタさん。
「ああ、大丈夫ですよ。このフード被ったうえで一人称も『私』に変えてます。余程じゃないと俺が男だってバレませんよ」
【隠者の外套】をバサリとはためかせてみせれば、イコッタさんは小さな声で「魔道具か」と呟いた。
「まぁ似たようなものです。これ着てると隠形……俺自身の気配を消す効果と顔の認識をあやふやにできる効果がありますので。まぁ、性別は声からバレることもありますけど、喋らなければいいだけですから。商人会館の受付さんも、ギルドプレート見せただけでだいたいのことをやってくださったので問題なかったですよ」
「そうか……ニオウの親は、ちゃんと君のことを考えていたんだな……」
「はい? 親?」
「いや、何でもない。それにしても別に良かったんだぞ? 困難してもらわなくても、ニオウはもううちの一員なんだ。部屋を使うのは私が許可したんだし、ここまでしもらうとなぁ……」
少しためらいがちであったイコッタさん。
しかし、いまここで遠慮されても用意した料理が無駄になるだけなので、いいからいいからと無理やり席に座ってもらい、その体面に俺も着席する。
なお、途中でこの様子を「夫婦みたいだ……」などと呟いて顔を真っ赤にしていたイコッタさんは、不覚にも可愛いなと思いました。
まず目が覚めてからニオウが確認したのは、昨日まで見ていたのが夢で目覚めれば元の世界の自分の部屋で目覚めたのかどうかということだった。
しかし残念なことに、目が覚めてもニオウが目覚めたのは昨日イコッタから貸し出されたギルドの二階。
いよいよこれが夢でも何でもない現実であるということを思い知らされたような気がして、ベッドから起き上がるや否や深いため息を吐いた。
まだ静かなギルドは人の気配などが一切ないため、自然と部屋から出た足が忍び足となってしまう。
「おはようございまぁ~す……」
階段からそっとロビーを見下ろしてみたが、イコッタの姿はどこにもない。
恐らくだが彼女はカウンターの奥の部屋で寝ているのだろう。まだ起きてくる気配がないため、暫くはそのままそっとしておこうと行動を開始する。
「朝ごはんになりそうなもんって、何かあったっけか……」
リアルでは欠かさず朝ご飯を食べていたため、自然と何か食べるものがないかと保管庫のリスト一覧を眺める。
しかし暫くリストをスクロールしてもなけなしに残ったパンくらいしか見つからなかったため、仕方ないとそれを手にして口にくわえるた。
できれば泊めてもらったお礼にイコッタに朝食でも用意してあげたかったのだが、そう簡単にはいかないようだった。
「……よし、何か売りに行くか」
◇
「おーい、イコッタさん。そろそろ起きる時間だぞ」
「んっ……だれだ……わたしはまだねむいんだぞぉ……」
「ニオウですよ。それより、相談したいこともあるので起きてください」
「におう……にお……ニオウッ!?」
ガバリと勢いよく起き上がったイコッタさんに、おはようございますと挨拶する。
部屋の隅に設けられた、木の板に藁を敷いたような簡素なベッド。
俺が使ったベッドも似たようなものであったが、金がないなら仕方ないだろう。ただ、早いうちに稼いでベッドを買わないと、そのうち疲労で倒れるかもしれん。
「そ、そうだ……うちのギルドに昨日から……夢じゃないんだったか」
「夢にされたら俺が困りますよ。さ、朝ご飯作ってるんで一緒に食べましょう。相談はそれからでもいいですし」
「は? 飯、だと……?」
ほらはやく、と先に部屋から出る。
案内したその場所は、古くなったロビーの一角。
比較的壊れていないイスをニ脚用意し、埃が舞わないようにとある程度の掃除を施したテーブル。しかし、その卓上にはパンに現代で言うところのスクランブルエッグ、そして野菜がワンプレートになった朝食が二人分用意されていた。
「こ、これは……」
「まぁ泊めてもらった恩もありますしね。あ、お金は気にしないでください。今朝早くに商人会館に行って、手持ちの中でも問題のない素材を売ってきましたので、そのお金です」
これについては身分証がなければできないことだったため、昨日のうちに登録を済ませてよかったと思った。
受付を担当してくれた女性は、ここのギルド所属だと明かすと大変驚いていたのだが、次には嬉しそうな様子で俺が持ち込んだ素材を適正価格で買い取ってくれた。
持ち込んだのはゲームでの一般モンスターと呼ばれる雑魚の毛皮なり角なりだったが、旅の途中で討伐した魔物のものだと説明したら簡単に信じてくれたこともありがたい。
そんな経緯で、少ないながらもこの世界のお金を手に入れた俺はギルドに帰る途中で市場により、いくらかの食料を買ってきたのだ。
「あ、余った食材は床下の物置みたいなところに置いています。もし違ったら、保管場所を教えてもらえると助かります」
「野菜類を補完するなら裏庭の井戸水を……待て、そういうことじゃない。その、よく無事だったな?」
途中で額に手を当てて気難しそうな顔をするイコッタさん。
「ああ、大丈夫ですよ。このフード被ったうえで一人称も『私』に変えてます。余程じゃないと俺が男だってバレませんよ」
【隠者の外套】をバサリとはためかせてみせれば、イコッタさんは小さな声で「魔道具か」と呟いた。
「まぁ似たようなものです。これ着てると隠形……俺自身の気配を消す効果と顔の認識をあやふやにできる効果がありますので。まぁ、性別は声からバレることもありますけど、喋らなければいいだけですから。商人会館の受付さんも、ギルドプレート見せただけでだいたいのことをやってくださったので問題なかったですよ」
「そうか……ニオウの親は、ちゃんと君のことを考えていたんだな……」
「はい? 親?」
「いや、何でもない。それにしても別に良かったんだぞ? 困難してもらわなくても、ニオウはもううちの一員なんだ。部屋を使うのは私が許可したんだし、ここまでしもらうとなぁ……」
少しためらいがちであったイコッタさん。
しかし、いまここで遠慮されても用意した料理が無駄になるだけなので、いいからいいからと無理やり席に座ってもらい、その体面に俺も着席する。
なお、途中でこの様子を「夫婦みたいだ……」などと呟いて顔を真っ赤にしていたイコッタさんは、不覚にも可愛いなと思いました。
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