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03ー階層都市長
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目覚ましのアラームもなく、自然に目が開いた。
体の下に、ごわごわした厚手の布が当たる感触。ランタンのうすぼんやりとした明かり。ああ、そうか。昨日はトラックの荷台で寝たんだっけ。折りたたんだ厚手の毛布を荷台に敷いてもらって。
「おはよう、お姫さま」
俺のかたわらに、アッシュが座っていた。寝起きの俺と目が合うと、にこりとほほえむ。
「おはよう……」
眠りから覚めたばかりでまだぼんやりしていた俺は、のろのろと身を起こす。アッシュは、やり手のビジネスマンの、出勤まえの朝のひと時みたいな優雅さで、アルミ製のマグに入った飲み物をすすっていた。
「フェイは……?」
見張りを代わると豪語していたくせに。うっかり眠りこけて公約を果たせなかったのが不覚すぎる。アッシュは目のまえの、こんもりとふくれている毛布を指さした。
「明け方に俺と交代した。もうすこしだけ、寝かせてあげて」
音と気配で起こさないように、ゆっくりとフェイの寝ているところに近づく。潜水の選手みたいに呼吸を止めているんじゃないかと思えるほど、フェイは静かに眠っていた。なにかあったらすぐに動けるようにするためか、眠るときも眼帯はしたままだった。
「いま何時?」
「六時だよ。外に出てみる?」
俺はうなずき、アッシュが荷台の扉をすこし開いてくれたところから、一緒に表に出た。半地下の駐車場の地上とのすき間が開いているところから、わずかに外が見える。
「真っ暗だね。夜明けはまだなんだ」
「これでも日は昇ってるんだよ。一応ね」
これで? 昨晩の夜の光景となんら変わっていないのに。
俺が外の薄暗さを不思議に思ったのを察したのか、アッシュが説明を加えてくれる。
「俺たちのいる階層都市は、その名のとおり何層かに分かれているんだ。いま俺たちがいるのは最下層。だから上の層が覆いになって、日光は遮られちゃうんだよ」
アッシュの指さすほうを見つめてあっと思った。いままで空だと思っていたものをよくよく見てみると、それは天井だった。いくつかの階層が重なっているということで、次の階層の底が、ここからは天井として見えていることになる。
「全部で何階層あるの?」
「五階層だね。ジャヒバルと面会するときには、きっと空が見えるよ。彼のオフィスは市庁舎の最上階――五階層の上に位置しているから」
「そうなんだ。あれ……ってことはひょっとして、昨日通ってきた高速道路まで階層のなかに入ってるってこと?」
「そうだよ。監獄要塞のある辺縁区、それから経済特区まで全部ね」
とんでもないスケールにあぜんとする。世界一大きなショッピングモールの敷地すべてをドームで覆ったとしても、この規模には到底かなわないだろう。
アッシュはズボンのポケットからなにかを取り出す。楕円形のケースに入った歯ブラシセットだった。
「戻ってくる途中のドラッグストアで仕入れておいたから、よかったら使って。駐車場のトイレに洗面台があるよ」
アッシュが申し訳なさそうに後頭部を掻く。
「ごめんね。シャワーが使えない代わりに、せめて口のなかだけでもさっぱりさせてよ」
「ううん、警戒するに越したことはないもんね。じゅうぶんありがたいよ」
予期せず、モーテルの駐車場で夜を明かす羽目になったのだ。俺はいいとしても、アッシュたちはこんなに仕事が長引くなんて想定外だったはずだ。
「俺のほうこそごめんね。本当なら昨日のうちに俺をジャヒバル市長に引き渡して、二人は家でゆっくり眠れたはずなのに」
アッシュが笑顔で首を振る。
「いいや。お姫さまと話せて楽しいから、俺はむしろラッキーだよ。それに俺たちが外に出られるのは仕事の間だけだから、いい気晴らしにもなるし」
「え、そうなの……?」
仕事中しか外を出歩けないなんて。ヨウトゥアはそんなに治安がよくない町なんだろうか。
「うん。これは、俺たちへの罰だから」
――罰。
罰って、なんのこと。
アッシュの目に、憂いの翳りがかかる。アッシュがなんの罪を犯したというんだろう。瞳の憂いは、贖罪なのか。それとも――。
アッシュの視線が示唆する意味をとらえ損ねた俺は、問いかけるのをあきらめた。ありがたく新品の歯ブラシを頂戴して、洗面所へと急ぐ。
安いモーテルの駐車場に併設されたトイレでは、黄色い光を放つ電灯が、いまにも消えそうな様子でジジ、と一定間隔で明滅を繰り返していた。
歯磨きついでに、髪を結びなおす。そうか。寝乱れてぐちゃぐちゃになるから、睡眠時には髪をほどいたほうがいいんだなと、あたりまえのことにいまさら気がつく。長髪の自分の姿は、まだ見慣れない。
トラックに戻ると、アッシュがコーヒーとサンドイッチの朝食を差し出してくれた。アルミのマグに入ったコーヒーから湯気が立ち上っている。近くには携帯用らしき電気ケトルと、空になったミネラルウォーターのペットボトルが。淹れたてみたいでありがたい。
「おはよ、寝過ごした」
荷台に付帯したステップに腰かけて俺たちが朝食にありついていると、なかからフェイが降りてきた。なめくじが這うようにのろのろと覚醒した俺とは違って、いままで起きていたかのように、いつもと変わらない様子だ。目覚めの強さもさすがは元軍人なのかもしれない。
「フェイ、ごめんね。公約を果たせなくて」
朝一番の会話で、見張りを交代できなかったことを謝罪する。
「公約……って、なんのこと?」
本当に見当がつかないみたいで、フェイは流麗な目線を半目気味に俺に向けた。
「あの、見張りを交代するってやつ。俺、うっかり朝まで寝ちゃって起きられなかったよ」
「ああ」
フェイはなんだそんなことか、という軽い調子でうなずく。
「それはそう。だってきみの水に睡眠薬を仕込んでおいたから」
「え……。そうなの……?」
なるほど。それで入眠もスムーズだったわけか。でも、あのパウチの水は密閉されていたはずなのに。いつの間に薬を仕込んだんだろうと首をかしげていると、フェイが笑った。
「嘘だよ」
「あ……嘘か」
簡単にだまされてしまって恥ずかしい。照れ笑いをする俺を、フェイはじっと見つめている。
「ど、どうしたの?」
「いや、べつに」
フェイは目つきがとてもミステリアスだ。フェイとしては何気なく見つめているだけかもしれないけれど、なにか深い示唆が隠れているんじゃないかと勘ぐってしまう。
「ほら、フェイも」
アッシュが投げてよこした歯ブラシの入ったケースを、フェイは見事にキャッチする。
「戻ってくるまでにきみのぶんもコーヒー、淹れておくよ」
「助かる」
洗面所へと向かいつつ、フェイは手短に本日の行動計画を確認する。
「身支度ができたら早めに出発しないと。役所が混む。最悪の場合、窓口で再申請だ」
「あっちの手違いで通行証が無効になったんだ。さすがに融通してくれるでしょ?」
アッシュの楽観に、フェイは歩み去りつつ肩をすくめる。
「あいつら、融通が利かないところも含めて仕事ができないから。まえにあっちのミスで俺の給金振り込みが遅れたのに、問い合わせたら『指定日以外の振り込みはできません』の一点張り」
「それはそれは」
アッシュも思い当たる節があるのか、苦笑いだ。この階層都市の人たちは、いわゆるお役所仕事に苦労をさせられているみたいだった。
朝食を終えると、トラックで役所まえへと乗りつけた。七時過ぎには出発したはずなのに。俺たちのまえにはすでに、数台の車が列を成している。お金持ちの家の玄関にあるみたいな飾りの付いた鉄柵の向こう側までは、そのまま車で乗り入れられるらしい。
昨日も立ち寄ったところだけれど、あらためて確認してみると役所というよりは教会みたいな荘厳な作りだということがわかる。いたるところに、レース編みのような入り組んだ装飾が施されていて、羽根の生えた人とか、蝙蝠の羽根が生えた猿みたいな動物の像まで彫り込んである。
円柱形をした役所は階層を突き破り、上の階層まで伸びている。たぶんこの塔部分の最上階に、ジャヒバル市長がいるんだろう。
まえの車両が続々と役所内へと進んでいく。
俺たちの番が来るまで、十分も待たなかっただろう。守衛所のまえまでやって来るとフェイは窓を開けて、通行証の確認にやってきた守衛に話しかけた。
「ジャヒバル市長からの呼び出しだ。取り次いでもらえないか?」
「通行証」
守衛のおじさんは無慈悲に右手を差し出す。フェイはだまってカードを差し出した。おじさんがバーコードリーダーみたいな読み取り機をかざすと、ブザー音が鳴った。
おじさんが肩をすくめる。
「無効だよ。裏門にまわって、再申請してくんな」
「そちらのミスで登録漏れになってる。本当なら昨晩、ジャヒバルと面会予定だったのを、朝まで待ったんだ。秘書に電話するなり、なんとかしてくれ。いまから申請窓口に何時間も並ぶのはごめんだ」
食い下がるフェイに対して、おじさんはあきらかに面倒くさそうな顔をした。おじさんがなにか言いかけたところで、電話が鳴った。
「おっと」
守衛のおじさんは懐から携帯電話を取り出す。
「はいはい、守衛室。はいはい。はい……? しょ、承知しました……!」
それまで気だるそうにしていたのに。おじさんは急にしゃちほこばって背筋を伸ばすと、電話を切った。
「市長特例だ。通っていいとさ」
おじさんはぐい、と親指を進行方向に向ける。
俺たちは通行を許された。トラックをゆっくりと、市役所の駐車場まで進める。
「ジャヒバル市長が連絡してくれたんだね。なんだか、話のわかる人みたいでよかった」
市長には俺たちの事情が伝わっていて、これ以上の不便をかけないように取り計らってくれたんだろう。後部座席から半身を乗り出しつつ同意を求めたものの、フェイは苦い顔で、アッシュは困ったようにほほえんでいる。
あ、あれ? 俺の抱いた市長への印象とは、すこし違ったものを抱いているみだいだ。
「ジャヒバルはなにを考えているんだか。正直、俺は苦手だな」
「おっ、奇遇だねえ。人を得意、苦手で分類するのはあんまり得意じゃないけど……。でも俺も、市長のお相手はあんまり得意じゃないな」
ずいぶんと持ってまわった言いまわしで、アッシュも同調する。
「警戒したほうがいい人なの?」
フェイとアッシュに依頼して、俺をひそかに監獄要塞から連れ出した人。俺に会いたがっている人。俺に面会したがるのは、必ずしも好意的な理由からじゃないかもしれない。いまさらながら気づいて、緊張がつのってくる。
「悪い人ではない……と思う。けど、どこか得体が知れない」
「得体が知れない……」
このあとで俺は、フェイがつぶやいたジャヒバル市長についての不穏な人物評が正しいことを、いやというほど実感することになる。
トラックを駐車場に止めて、俺たちは車両を降りた。
市庁舎のなかは無人だった。
まるで街灯のような感じで、あちこちに担当課の行きさきを示す案内表が床からにょきりと生えている。俺たちのまえに並んでいた人たちはとっくに、それぞれ用がある窓口へと向かったあとなのだろう。
入り口の正面にエレベーターホールがある。チン、と音を立てて、複数あるエレベーターの一台が開いた。まるで俺たちの到来を待ちかまえていたかのように。
「乗れってさ」
フェイが俺たちを先導する。
「大丈夫。市長に取って食べられそうになったら、俺が守ってあげるよ」
アッシュが肩をぽんと叩いて勇気づけてくれた。
「うん、ありがと。俺は食べてもおいしくないよって、伝えてくれる?」
俺は若干こわばりつつも冗談交じりのコメントを返し、エレベーターへと乗り込んだ。
階数ボタンは二つしかない。いまいる階と行きさきの二つだけだ。きっと市長室直行ってことなんだろう。フェイが上階行きのボタンを押した。
階数は表示されていない。五階層の最上部にあるという市長の部屋に行き着くには一体、何階ぶんを上昇するんだろう。
エレベーターが静かに動き出す。上昇していることがわからないほどのなめらかさだけれど、なんとなく体がずんと重たくなり、途中から耳の奥がツーンと詰まる感じがした。
気圧変化に重力。朝食のコーヒーとサンドイッチ。ここでは朝日は昇らないけれど、夜は明ける。
ひとつひとつ、俺の世界との共通項を見つける。そのたびにすこし、安心する。
たまにひとつ、ふたつ、俺の世界とは異なる点を見つける。そのたびに寄る辺がないような思いがして、不安になる。
チン、と音が鳴り、扉が開いた。
目に強烈な光が飛び込んできて、まぶしい。とっさに、手でひさしを作ってまぶたにかざした。
扉が開くと、大きな部屋と直結していた。廊下はなく、仕切りもなく、一フロアが丸ごとひとつの部屋になっている。広い床の一面に、サーモンピンクの絨毯が敷かれていた。
エレベーターの真向かいは全面ガラス張りだ。展望室にあるみたいな床から天井までの巨大な窓の奥に、色彩の冴え渡る青空が見えた。これまで夜の世界にいたところから急に、朝の世界にやってきた。
凄烈な朝の光にもすこしずつ、目が慣れてくる。
窓を背にする格好で、どっしりとした木製のデスクに人が腰かけていた。両手の指を組んで、手の甲をあごに載せている。隣には眼鏡姿の男性がいた。えんじ色のスーツでいかにも、仕事のできる秘書といった感じがする。
「やあ、いらっしゃい」
机に座っていた人が立ち上がり、俺たちのほうに歩んでくる。
ゆるくウェーブのかかった金髪に、青い目。シャツにはハンカチーフのような大きなタイが付き、シックな紺のスーツを着こなしている。
「はじめまして。階層都市ヨウトゥアの都市長をしているジャヒバル・ティダイリです。いまが三期目。あ、でもこの任期中に都市法を改正して、四期目以降もずっと再選される予定だよ。よろしくね」
ジャヒバル市長は、ひと息にしゃべり、右手を差し出した。俺はびっくりして手を握るタイミングが一拍、遅れた。
目のまえの人が、ジャヒバル市長!? どう年かさに見積もっても、十四、五歳くらいの少年にしか見えないのに。……市長の任期って普通、短くても二年はあるものだよな……? だったらこの人、一体いまいくつなんだろう?
「ようこそ、シュニャ。それと、フェイとアッシュもご苦労だったね。まあ立ち話もなんだから、座ろうよ」
ジャヒバル市長は部屋の隅にある応接用のソファーを指さすと、俺の腕を取って歩き出した。たまにしか会えない親戚のお兄さんに会えてはしゃいでいるような人なつこさで、びっくりする。
「カガミ、お茶を頼むよ。僕のはミルクティー。フェイはストレート。アッシュはレモンだったよね。きみはなにがいい?」
面識のあるフェイとアッシュの好みは把握済みらしい。市長はにこりと笑って俺を見上げる。
「あ……。じゃあ俺もミルクティーをお願いします」
「よろしい。ではカガミ、ミルクティーをもうひとつ追加だ」
「かしこまりました」
カガミさんは一礼すると、しずしずと下がり、エレベーターから見て左にあるドアの向こう側へと消えた。
ソファーにはジャヒバル市長、その向かいに俺が腰かけ、俺の右隣にはフェイが座った。市長の隣にはアッシュが。むっつりと押し黙ったフェイが俺の隣に棒立ちになり、頑としてその場をゆずろうとしなかったせいだ。絶対に市長と隣り合いたくない、という固い意志を感じる。うーん、フェイはよほど市長のことが苦手らしい。
応接用のテーブルの端に、チェスボードが載っていた。ああ、チェスもこちらの世界にあるんだな、と思う。駒もすべてそろい、あるべき位置に配置されていた。
壁紙に付着した、もう落とせないしみを見て見ぬ振りをするように。俺は視界の端に映るボードを、なるべく意識しないようにつとめた。
「シュニャの名前は?」
ジャヒバル市長が好奇に目を輝かせながら、半身を乗り出してくる。くすみの混ざらない金髪に、青い目。人形のように端正な顔立ち。本当になんというか……可憐な人、と形容するのがふさわしい。でも市長というよりは、聖歌隊の中心で美声を披露しているほうがしっくり来る気がする。
「……ソラです。七色ソラ。市長はどうして、俺をシュニャと呼ぶんですか?」
「それはね、きみがシュニャだからだよ」
禅問答のようなやり取りに困惑する俺に市長はにこりと笑いかけ、ソファーに深々と座りなおした。
「昨日の件を受けて確信した。きみは、間違いなくシュニャだ」
心臓がどきりとした。
――昨日の件。きっと、俺たちが空間移転したことを指しての発言だ。昨晩、俺たちの身になにが起こったのかを、市長は知っている。
「だったら、どうして昨日のうちに面会に通さなかったんだ。そこまで把握しているのなら、通行証のエラーに気づいていただろう」
平静な口調ながら、やや険のある目つきでフェイが市長を責める。
「そんなに怒らないでよ、フェイ。あ、ほら。お茶が来たよ」
タイミングよく、お盆を手にしたカガミさんが戻ってきた。ポットは三つだ。俺と市長のミルクティー。フェイのストレートティー。それから、アッシュのレモンティー。
「飲み方によって一番適した茶葉で淹れているんだよ。せっかくだから、紅茶はおいしく飲みたいよね」
わざわざポット三つを使い分けた理由を教えてくれた市長は、紅茶に相当、こだわりがあるらしい。
「さて、まずはこれを観てもらおうか」
ジャヒバル市長が手のひらサイズのリモコンを押す。部屋のカーテンが自動で閉まった。明かりも消えて、応接セットの真横の天井から、するするとスクリーンが降りてくる。
映し出された映像を観て、俺たちはあっと息をのんだ。昨日の夜のハイウェイ。激しく車両をぶつけ合いながら進む二台のトラック。突如として、そのうちの一台が消失した……!
市長は一度そこで再生を止めると、巻き戻して今度はスロー再生にする。
「これがきみたちの乗っていたトラックだよ。ご覧のとおり、種も仕掛けもないのに一瞬のうちにその場から消えている。……瞬間移動したんだ」
続いて市長はべつの映像へと画面を切り替える。交差点を俯瞰して撮影された白黒映像だ。なにもなかったところに、一台のトラックが急遽、空中から放り出されてあらわれる。トラックは、大きく蛇行しながら停止した。
「刮目すべきは、それぞれの映像が監視カメラに収められた時間だね」
ジャヒバル市長は面白そうに声を弾ませながら、二つの映像を左右に並べる。映像の右下に表示された時刻を左右交互に指さした。
「トラックが消えた時刻と再び出現した時刻。二つの時刻には、一秒のずれもない」
二つの数字はたしかに、ぴたりと一致している。
「きみたちはたしかに、空間移転をした。シュニャの力を使ってね」
監視カメラに映像がはっきりと残されている。客観的に見てあらためて、俺たち三人が経験した瞬間移動は集団幻覚じゃなくて、たしかに起こったことなのだと実感できた。
「ソラ、これできみがシュニャだとはっきりした。映像がその証拠だよ」
ジャヒバル市長は自信ありげに断言する。俺は気になっていたことを市長に尋ねた。
「市長が俺をシュニャだと信じる根拠はわかりました。でも、俺は本当にシュニャなんですか? だってたった一回、空間移転に成功しただけなのに」
それも自力で成し遂げたものなのか、確証がない。
「仮に俺がシュニャだとして。俺はどうしてこの世界にやって来て、どうして監獄に収監されていたんでしょうか?」
「それはね」
ジャヒバル市長はじらすかのように、俺のカップにおかわりを注ぎ、ついでに自分のカップにも紅茶を補給してから続ける。
「きみを監獄要塞に収監したのは僕なんだ」
「市長が?」
アッシュがおどろきで軽く目を見開く。うーん、着古した風合いのブルゾンとスラックス姿なのに。ソファーにもたれて長い両脚を組み優雅に紅茶を味わう姿には、まるで貴族の昼下がりみたいな高貴さがただよっている。
「あなたは、なにをどこまで知っているんだ」
フェイが市長をにらみつける。隣に座っていると、ピリピリと皮膚を刺激する怒りの波動が感じられた。それはそうだろう。詳細を知らされずに俺を迎えに行かされたところで、謎の追っ手に襲撃された。一刻も早く市長に面会したいのに通行証が無効だったせいで、落ち着かない気分で夜を明かしたのだ。なんだか市長に翻弄された気分なのかもしれない。
「まあまあ、フェイはすぐ怒るんだから。順を追って話すよ」
天使の笑みでフェイを軽くいなして、ジャヒバル市長は詳細に入る。
「三年まえ。僕とカガミは、市庁舎のまえで倒れているきみを見つけた」
ミルクをかき混ぜたスプーンの柄で、市長はぴっと俺を指す。
「ため込んだ承認業務に倦み、気分転換に夜の散歩がしたいと市長が仰せでしたので」
市長の横に控えているカガミさんが静かに言い添える。宿題に飽きて遊びはじめてしまった怠惰を両親に咎められた子どもみたいだ。気まずそうな笑みを浮かべた市長はさきを続ける。
「倒れているきみをひと目見て、この人は異世界からやって来たんだと直感した。きみはスーツを着て鞄を持っていたけれど、その形状が僕の見知ったものとはどことなく違う感じがしたんだ。似て非なるもの。この世界には存在するはずのないもの。違う世界からやって来たきみなら僕の言いたいこと、なんとなくわかるんじゃない?」
市長に振られて、俺はうなずく。高速道路に、自動車に、ビル群。はじめてこの世界にやってきたときに目に飛び込んできたものたち。俺のよく見知ったものと同じでありながら、どこか現実離れしていて、俺の知っている世界と地続きではない感覚をたしかに覚えた。
「僕とカガミはきみをオフィスに連れ帰ると、すぐに住民登録データの照会をかけた。ここだけじゃなく、ほかの都市の記録もすべてね。結果、きみに該当するものはなかった」
アッシュが軽く目を剥いている。
「ほかの都市って……。まさか、ハッキングしたってことですか」
「うーん、それは最高機密事項だから話せないな」
口ではそうごまかしつつ、にやにやと含み笑いをしたジャヒバル市長の顔には「ハッキングをしました」とはっきりと書かれている。
「……ずいぶんと危ない橋を渡る。発覚していたら、ほかの市長たちがだまっていないぞ。特に可動都市長は。もっとも残忍な方法であなたを処刑しかねない」
意趣返しのつもりなのか、フェイがジャヒバル市長を脅す。そ、そんな鬼みたいな市長もいるのかとおののいた。
「ふふ、まあ僕の腕はたしかだからね。痕跡なんていっさい残さないよ」
堂々とハッキングの事実を認め、フェイの脅しにも軽く肩をすくめただけの市長だった。「僕が調べまわっていることをほかの市長たちには嗅ぎつけられたくなかったんだ。それに、真正面から情報開示請求をしたってことわられるのが関の山だし」
「ハッキングまでしないと、情報を見せてもらえないってことなんですか」
隣町の役場にちょっと電話をしたら、親切に教えてくれるのとはわけが違うのか。うーん、もしかしたら、俺の個人情報保護への意識が低すぎるのかもしれない。
「まあね。この世界になじみのないシュニャのために解説すると、ニルヤは高度に発展した地方都市の自治制度によって統治されているんだよ。ただし自治制度が発達しすぎた結果、都市はお互いに独立、不可侵状態。各都市は秘密主義で、あまり内情をさらしたがらない」
「そうなんですか。俺のいたところでは、姉妹都市って言って、親善関係を結んでいるところもあったんですけど」
ここでは、都市のひとつひとつが国家に相当するレベルなのかもしれない。しかも、そのどれもが鎖国中。
「ちょっと話が逸れちゃうんですけど、ニルヤには同じような都市がいくつあるんですか?」
「五十の都市があるよ。まずはきみのいる階層都市ヨウトゥア。ここから近いのは水聖都市のミジチと、可動都市のユヌム。でも一部の都市以外は僕もほとんど実情がわからないんだ。なにせここから遠くて」
「昨日、機械大戦の話をしただろ? 連合軍はここから近い二十の都市が合同で形成したんだ。あとの都市は連合軍が事に当たってくれてラッキーだと思っていたのかもね」
市長の発言にかぶせてフェイが軽く説明を付け足したあとで、市長は話を元の軌道に戻す。
「各都市にきみの記録は見当たらない。服装が僕の見知ったものとは違う。それで確信した。きみは異世界からやってきたシュニャだ。でも、きみは一向に目覚める気配がなかった。もし階層都市にシュニャがいると知れたら、ほかの都市長たちが奪いにかかるかもしれない。だから僕は、とりあえずきみが目覚めるまで監獄要塞でかくまうことにしたんだ。監獄要塞のセキュリティは盤石で、脱獄は不可能。裏を返すと、外からの侵入にも強いということになる。シュニャを守るための、世界一安全なゆりかごだね」
俺がどうして収監されていたのかはわかった。それにしてもジャヒバル市長はわずかな情報から、異邦人をシュニャと断定するのがやけに早い気がする。それにフェイとアッシュもだ。空間移転の直後から俺をシュニャだと信じて疑わなかった。
「俺が異世界からやって来たのだとしても。どうしてみんな、俺のことをすぐにシュニャだと思えたんでしょうか」
「ニルヤにはそういう伝承があるんだよ。広く信じられている伝承が」
しばらく俺と市長のやり取りを見守っていたアッシュが口を開く。
「バグを起こした世界に、異世界から顕現したシュニャが降り立つ。シュニャはマスターシステムへのアクセスを復活させ、再び世界に平穏をもたらしてくれるのだと」
なるほど。市長も、フェイも、アッシュもその言い伝えを根拠に、シュニャの存在を信じているわけか。
「ニルヤの人たちはけっこう信心深いんですね。俺なんかより、ずっと」
大概の日本人のご多分に漏れず、俺も特定の宗教を信仰していない。神を信じれば仏にだってすがるところがある。
「そうだね。まあ実際、ここもマスターシステムのバグで不具合が起こっているから。言い伝えは本当のことだと思えるし、シュニャにすがりたくもなるよ」
「不具合って、まさか環境汚染……ですか?」
ヨウトゥアの高度に発展した都市の様子から、そう思った。
「いや、ニルヤのエネルギーはクリーンだよ。廃棄物も適切に分解されているし」
アッシュがにこりと笑って否定する。
「じゃ、じゃあ……。食料危機とか?」
ヨウトゥアは五階層に渡る巨大な都市で、人口がかなり多そうだ。
「近くに巨大農場があるから。すくなくとも階層都市に住む三億人は食うに困らないよ」
食料問題についてはフェイが答えてくれる。
「じゃあ……」
すがるように市長を見つめた。
ジャヒバル市長は「暗いね」と言って手元のリモコンを操り、スクリーンを上げてカーテンを開いた。部屋をまばゆい光が満たす。
「都市の呪いについては、シュニャに話した?」
ジャヒバルの問いに、フェイとアッシュはそろって首を振る。
「そうか。じゃ、僕から説明しよう。いまの都市機能は不完全なものでね。都市長をシステムの媒介として、なんとか機能する状態なんだ」
「媒介……ですか」
人がシステムに組み込まれる仕組みがよく理解できない。眉間に皺を刻んだ俺を見て、ジャヒバル市長がくすりと笑う。
「わかりやすく言うと、都市長を失った都市は崩壊するんだ。だから都市長は都市を離れられない。それを僕たちは都市の呪いって呼んでいる」
まるで人柱あるいは生け贄だ。システムの話なのにオカルトめいたことを、ジャヒバル市長は平然と口にする。
「ジャヒバル市長はここを離れられないんですか?」
「そうだよ。都市長の名義登録をするときに、一緒に生体データを基幹システムに登録する。だから僕の居場所は、システムに筒抜けなんだ。階層都市内部の移動なら、まだ許容範囲内。それでも、基幹システムが置かれた市庁舎の近くはあまり離れられない。離れるほど、都市のどこかでシステムやネットワークに異常が発生するようになる。影響するのが交通システムなら一大事だ」
「……それは……なんというかものすごく……」
ジャヒバル市長は嘘泣きの顔を作ってうなずく。
「不便だよお。ついでに、階層都市は各階層部分を開閉できるはずなんだけど。これもマスターシステムへのアクセスが閉ざされてコントロールできなくなっている。唯一、すべての階層を貫く市庁舎内を通らないと、階層間の行き来もままならない」
「じゃあ同じ都市に住んでいるのに、違う階層の人とはまるで出会えないんですね」
「そうだね。普通に暮らしていたら一生、すれ違うことはないんじゃないかな」
一枚に何億人もの人を乗せて、びくともしないほど頑丈な階層が重なり合っている構造体。テクノロジーが進化しすぎた結果、俺の世界では起こりえない問題に直面している。
「マスターシステムへのアクセスさえ復活できれば、バグを修復できるんだけどね。その鍵が、きみだよ」
「……俺、ですか?」
ジャヒバル市長が天使の笑みを浮かべる。
「そう。きみはこの世界を救うためにやってきたんだよ。ニルヤに伝わる伝承に従ってね」
また伝承の話だ。
「異世界からシュニャが顕現するという伝承には続きがある。シュニャは都市長の番いになって、マスターシステムへの鍵となるそうだよ。番いに選ばれた都市長を、マスターシステムの王として。だから、ソラ」
ジャヒバル市長は、上着のポケットからなにかの箱を取り出すと、俺の隣にひざまづいた。ビロードみたいなしっとりした質感の布が張られた、手のひらサイズの箱を開く。なかには大きな宝石の付いた指輪が入っていた。
「どうかこの僕、ジャヒバル・ティダイリの花嫁になってください」
「え……」
大粒の宝石が光る指輪と、はにかんだジャヒバル市長の顔。その隣で、未熟な果物の渋さを味わっているみたいな表情で、「あちゃー」と額に手のひらを押し当てているアッシュの顔と、わずかにこめかみを引きつらせているフェイの顔。それぞれの顔をゆっくりと一巡したあとで俺は……。
「ふえええええ!?」
この世界にやってきて以来、一番の大声が出た。
「ちょっ、待ってください……!」
市長は俺の隣にひざまづき、指輪を差し出したままだ。自分の恋愛ごとには疎い俺でもさすがにわかる。これ、あきらかなプロポーズだよな? それも市長は、日本人の俺は照れてしまっておよそしないであろう、クラシカルな姿勢で愛を請う。
「あの、この世界の花嫁とはどういう概念を指すんでしょうか」
俺が早とちりしたのかもしれないと思い、念のため確認しておく。
「結婚式を挙げる女性という意味だよ」
市長が爽やかに断言するのに、膝からくずおれそうになった。
うん、わかってはいた。ニルヤの言語は、俺の話す言語と同一だ。シュニャのような固有名詞はともかくとして、ある単語が、俺の知る意味とはべつの意味に置き変わっているということは、これまでのところなかった。
「ジャヒバル市長。返事は保留ということです」
あぜんとした俺がなにも返答できずにいるのを、カガミさんが好意的に解釈して市長に告げる。
「えー、そうなの?」
どうしてプロポーズが受諾されないのか。不可解極まりないといった表情で、市長が立ち上がった。
「あのねえ。どうして出会って正味二時間も経過していない相手に突然結婚を申し込んで、なんの疑問も持たずに受け入れてもらえると思うんです?」
アッシュがまっとうな突っ込みを入れるのに、市長は当然の顔をして言い放つ。
「だって、僕らが結ばれるのは運命だからだよ。出会った時間の長さは関係ない」
「……ソラが困っているだろう。あなたの感情の機微への疎さは、人の神経を逆なでするとまえから言っているんだけどな」
フェイが厳しい顔をしながら、ややきつめのフレーバーを加えて俺の困惑を代弁してくれる。
「一度仕切りなおしです。市長」
カガミさんがそっと市長の肩に手を添えて、着席させる。市長は悠然とソファーに腰かけると、指輪の収められた小箱を渋々ポケットにしまった。
「ソラさま、おどろかせてしまったことをお詫び申し上げます。さきほどのタイミングは、私にも予想外でした」
「あ、いえ……」
カガミさんに深々と頭を下げられて、俺は恐縮して立ち上がり頭を下げる。
ジャヒバル市長はプロポーズが玉砕(?)したあととは思えない余裕の態度だった。
「僕はニルヤの伝承を成就させたいだけなんだけどなあ。都市長とシュニャが番えば、都市機能が回復し、都市の呪いも消える。番うというのはすなわち、都市長とシュニャが結婚することだと僕は解釈している。だから、ソラ」
市長が右手を差し出す。
「僕と結婚して、一緒にこの世界を救おう」
どうしてシュニャが都市長と結婚すると、マスターシステムへのアクセスが可能になるのか。
市長は俺が男でもかまわないのか。
そもそも、俺は本当にシュニャなのか。
いろいろと疑問はある。それに疑問を解消したからといって、すぐにイエスと言える話でもない。
「あの……。すみません。俺は……」
どう伝えようか迷い、すなおに心に浮かんだままを、しゃべる。
「システムの不具合のせいで、ジャヒバル市長がここを離れられなかったり、都市の機構が動かせない不便さは、解消できたらいいなと思います」
この世界でまともに言葉を交わしたのは、フェイ、アッシュ、市長、それからカガミさんくらいなものだ。それ以外の人たちと、これまで触れあう機会はなかった。
でも、たとえ見知らぬ世界であっても、この世界で生きる人たちにとってはここが故郷だ。自分の生きる場所を失ってほしくないと強く思う。人として普遍的に持っていて当然の、他人を思いやる気持ちから。
「だから俺が力になれるのなら、協力したいです。でも、そのために俺はジャヒバル市長と、その……け、結婚するとか。それで都市の機能が元に戻るはずだとか。まだ、わからないことだらけで……」
フェイ、アッシュ、ジャヒバル市長が、俺に視線を注ぐ。始終にこにことして、のらりくらりと追求をかわす態度から、どこかとらえどころのなかった市長でさえも、唇を引き結んで真摯に俺の話を受け止めてくれていた。
「それに、俺は元の世界に戻りたい、です。だからもし本当に俺がシュニャだとしても、俺がこの世界の神さまとしてずっと居続けるのは難しい……と思います。この世界を救って、それで俺も元の世界に戻れる方法があるといいんですけど。なんだか、うまく言えなくてすみません」
俺が助けられる可能性があるこの世界の人たちを見捨てているようで、薄情に聞こえてしまっただろうか。
ニルヤに飛ばされてからすでに三年近くが経過している。もとの世界ではきっと、俺の捜索願いが出されただろう。翌日出社してくるはずの社員が、会社に姿をあらわさなかったのだから。なしのつぶてなので捜索は、一年も経たないうちに打ち切られただろうか。戻れるのにあと何年かかるのだろうと考えると、気が重くなる。
俺の心が不安で毛羽立つのをなだめるように。隣からそっと手が伸びてきた。フェイが俺の手に手を重ねて、優しく握りしめた。
その手のぬくもりにはっとして、視線を上げた。
「……ソラは悪くないよ。だれだって、家に帰りたいよね」
フェイの声が優しい。あたたかな手は帰郷を望む気持ちと、罪悪感との間で板挟みになった俺の気持ちをなぐさめてくれる。
「市長。なにか方法はないんですか。システムへのアクセス権だけを獲得して、ソラは元の世界に戻れるようにする方法が」
アッシュがジャヒバル市長に尋ねる。アッシュも、俺の気持ちをおもんばかってくれている。
「ふーむ」
ジャヒバル市長は鼻を鳴らした。答えに詰まって呻吟しているというよりは、一定の答えにたどり着いていて、それをどう披露しようか思案しているといった様子だった。
「まず、そもそもの前提からいこうか。ソラがシュニャだと確定したわけではない」
「どうして!?」
フェイとアッシュの同時突っ込みが入る。これには俺もおどろいた。さっきまで俺がシュニャだと言い張っていたのに。それで結婚まで申し込んだのに。
「もちろん、僕はソラがシュニャだと信じているよ。個人的な願望も含めてね。でも、あくまでもこれまでの事象から客観的に判断するに、その蓋然性が極めて高いってだけのこと。確固たる証拠はない」
市長はあくまでも冷静に分析する。
「訊くけれど、ソラ。空間移転の力は自在に使えるのかな?」
「いえ……。やれと言われてもできません」
「でしょう?」
市長は得心したようにうなずく。
「ソラの空間移転能力は、非常に不安定なものだ。昨日はたまたま、防衛本能から力を発揮できたんだと考えられる。ソラが空間移転の力を使ったのは、最初にこの世界にやってきたときと、昨日の夜の二回だと思われているけど、それだって憶測でしかないよ。最初はほかの都市にいて、移転の力を使ってヨウトゥアにたどり着いたのかもしれないし」
なるほど。市長に指摘されるまで、その発想はなかった。
ニルヤに飛ばされて最初にたどり着いたのはヨウトゥアだとばかり思っていたけれど、もしかしたらほかの都市も経由していたのかもしれない。すると俺がニルヤにやってきたのは、ひょっとすると三年よりもまえになるのか――なんてことは、いまは考えたくない。
「つまり言いたかったのはね、ソラがいつ空間移転の力を使えるかは本人にすらわからないってことなんだ。そんな人を、時間と空間を自在に渡るシュニャだと断定していいのか? すこし尚早な気もするね」
「あなたの言いたいことはわかった。ソラをシュニャだと信じる気持ちはあっても、シュニャたるには資格が不足しているんじゃないかってことだろ?」
「そういうこと」
フェイの質問に答え、市長はカガミさんに目配せをする。それを合図にカガミさんは部屋の隅に移動し、携帯電話を片手にどこかに電話をかけはじめた。
「まずはソラがシュニャだと確定させる必要がある。世界を救うにしても、ソラが元の世界に戻るとしても、話はそこからだ」
小声で電話をしていたカガミさんは、しばらくすると戻ってきた。
「ソラがシュニャなら、シュニャを依り代としてシステムへのアクセス権を手にする方法を考える。まだ仮説の域を出ないけれど、番いの伝承をうまいこと解釈してシステムの裏をかき、必ずしも結婚という形を取らなくても番いだと認めさせる方法があるはずなんだ。僕にアクセス権が手に入ったら、ソラは元の世界に帰れる。なにせ空間移転の力があるんだからね。自力で戻れるよ。もちろん移転さきを自在に選べるよう、力の使い方を学ぶ必要はあるけどね」
伝承の解釈で、システムの裏をかいくぐる方法か。この世界では、システムの操作に抽象的な信仰心が絶妙に入り交じり、とらえどころのないものになっている。
「もしソラがシュニャでなかったとしても、まずは安心して。こうして出会ったのもなにかの縁だ。この世界にいる間はヨウトゥアで面倒を見るし、なんとかして元の世界に戻れるように手を尽くすよ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて、安心しました」
「うんうん。結婚する気になった?」
「いえ……それは……」
おお。話の流れから危うく、イエスと言わされるところだった。また悪い冗談を、と頭に血が昇ったのか、フェイが市長をぎろりとにらみつける。
市長は話を戻す。
「ソラがシュニャでなかった場合――プロセスには工夫の余地ありだけど、解は見えているんだ。この世界に顕現したべつのシュニャを見つけて、一緒に元の世界に帰ってもらえばいい」
ジャヒバル市長の提案に納得して、俺は息を深く吐いた。俺以外の、本物のシュニャがいる。
俺がシュニャではなかったとして。俺以外の本物のシュニャがきっといるはず。俺には妙な確信があった。現に空間移転を成し遂げた人間がすでに一人、ここにいる。俺にできたのなら、俺以上の精度で同じことができる人がすでにこの世界にいてもおかしくない。むしろ俺はその人の空間移転に引っ張られて、たまたま移転してしまっただけなのかもしれない。なんだか、そんな気がしていた。
「でも市長。ソラがシュニャであることをどうやって確定させる?」
フェイが問う。市長がちゃんと俺のことを考えてくれているとわかったからなのか、ジャヒバル市長に対する言葉のとげとげしさが薄れたみたいだ。
「ひとつ、方法がある。――実は今日、きみたちに来てもらった本題はここからなんだ」
これだけ長々と話して、まだここからが本題とは。俺たち三人は一様に、目を丸くした。市長は一体何枚、手札を隠し持っているんだろう。
「水聖都市ミジチ――。そこにシュニャを見極める心眼の持ち主がいる。ソラにはその人の元を訪ねて、自分がシュニャなのかどうか確認してきてもらいたい」
「ミジチか。なるべくシステムに頼らず、旧時代の生活を営む人たちのコミュニティですよね」
「そうそう」
アッシュの質問に、ジャヒバル市長がうなずく。俺の世界にも、電気もガスも使わない、中世さながらの生活様式を守って暮らしている集団がいる。似たようなものかな、と想像する。
「ミジチの都市長は代々世襲で選ばれる。それも、シュニャ判定の心眼を持つ人が選ばれるそうだよ。本当はその人にヨウトゥアまでお越しいただけたら話が早いんだけど、都市長は都市を離れられない。オンライン会議でも判定してもらえますかってお手紙で尋ねたら、直接会わないと判定できないって言われちゃった」
市長がぺろりと舌を出す。文明から遠ざかって暮らしている人たちみたいなので、手紙は文字どおり紙で取り交わしたものと想像される。
「なので、僕としては非常に気が進まないのだけれど。ソラ自身に水聖都市に行ってもらう。いいかな、ソラ?」
「は、はい……」
ジャヒバル市長の笑顔は無言の圧力だ。俺は深く考えるまえに返事をしていた。
でも、自分がシュニャかどうか。俺自身が一番知りたい。返事をした事後になってしまったものの、俺が自分でたしかめるべきことだと身が引き締まる。
「ソラに砂地を渡らせるのか。あそこには――」
フェイが尋ねる。卵膜のようにうっすらとした緊張感を全身にまとわせていた。
「砂地に棲む人がいるね。でも水聖都市に行くには、あそこを通るしかない。でなければ何十日もかかる道のりを、大まわりしていくことになる」
市長が言うのに、フェイがふうと鼻から息を吐く。言いたいことはあるけれど、言っても仕方がないので飲み込んだという感じだ。
「あの……」
俺は質問を差し挟む。
「水聖都市までは、車で移動ですか?」
「そうだよ。飛翔体は目立つからね。車のほうが安全」
「飛翔体は空を飛ぶ機械のことですよね? なにか野生動物みたいなのに狙われるってことですか?」
砂地に棲む人と呼称される獰猛な動物が徘徊しているのかもしれない。飛行機を狙うということはあるいは、鳥類か。
「……必ずしも襲われるとは限らないけれど。警戒するに越したことはないってことだよ」
なにに襲われるのか。ジャヒバル市長は、はっきりとは答えてくれなかった。
「だったら……。フェイとアッシュに、送迎をお願いするのはだめでしょうか?」
市長が目を見開く。俺が要請するなんて想像もしていなかったのだろう。心底、おどろいているという感じだった。
「あ、ごめんね。二人の意志を確認せずにこんなこと言って。でも――」
二人は謎の追っ手から俺を夜通し守り、市長の元に連れてきてくれた。初対面の俺に食事や毛布を提供してくれた。二人が話し相手になってくれたから俺は異世界での最初の夜を、必要以上の不安にかられることなく明かすことができたんだ。
「はじめてこの世界にやって来て、二人と出会って。二人に守ってもらって、俺はすごく安心でした。正直、まだこの階層都市のこともよく知らないうちに、ほかの都市に行くのは不安があります。でも、二人がそばにいてくれるなら安心して確認に行けると思うんです」
「……すまない、ソラ。それはできない」
市長がなにか言うまえに、フェイからことわられてしまった。すこし残念に思ったのと、フェイの都合を無視して頼んでしまったことで、気分を害しただろうかと心配になる。
「あ、そ、そうだよね……。いや、ごめんね。二人にも都合があるのに勝手にこんなこと言って……」
これ以上、異世界からやってきた素性不明の人間にわずらわされたくない、という気持ちからの謝絶だとしたら、すこし悲しい。でも、IDカードが無効になっているという想定外のトラブルに見舞われたのに、俺の世話を面倒くさがる様子は皆無だった。二人に限って、これ以上俺にかかわりたくないとは思っていないはず。そう信じている。
俺が悲しい顔をしたからか、フェイはすこしだけあせったように訂正する。
「いや、違うんだ。ことわるのは、きみの想像した理由からじゃない。俺たちはこの都市を出られないんだ」
「出られない……?」
「二人が囚人だからだよ」
俺の問いに対して、ジャヒバル市長がナイフのような鋭いひと言を差し挟む。
「囚人……? だって二人は監獄要塞には、いないのに……」
監獄要塞と都市を往復するクリーニング業務が生業だとは言っていた。もしかして、それが二人の刑務作業で、作業中は特別に外出が許されているってことなんだろうか。
「監獄要塞は重罪人専用の刑務所だからね。軽犯罪社用の収監施設はほかにもあるんだよ」
ジャヒバル市長が苦笑交じりに答える。
「二人はね、戦争犯罪者なんだ。機械大戦のことは聞いたんだよね?」
俺は小さくうなずく。長く続き、二年まえにようやく終戦を迎えた、宇宙から飛来した異星人との戦い。
「宇宙のかなたから飛来した機械人たちは、よりにもよってヨウトゥア周辺から侵攻をはじめた。僕たちはヨウトゥア、ユヌムの軍を中心とした複数都市による連合軍を結成して、対処に当たったんだ。連合軍には多くの戦死者が出た。兵士のおよそ半数を失ってね。都市部が戦地になることはなかったから、戦死者が軍人に限定されていたのは不幸中の幸いだったけど。それでも、これだけの死者数ですんでよかったとはまったく思えないよ」
「半分……」
俺は戦争を経験したことがない。それでも市長の沈痛な面持ちから、想像を絶する悲惨な出来事だったのだろうと推し量る。
「……終戦間際になって、軍の内部で妙な噂が立つようになった。どうして機械人たちにニルヤが狙われたのか。外敵殲滅部隊に所属していた兵士のなかに、敵兵と通じて侵略を手引きした裏切り者がいるからなんじゃないか。想定より多くの死者が出たのも、こちらの内部情報が漏れていたからじゃないか、と」
フェイがぽつりと付け足したひと言に胸を衝かれる。
「そんな……。裏切り者は……見つかったの?」
俺の問いにアッシュが首を振り、答える。
「犯人は見つからない。つまり、あのとき外敵殲滅部隊に所属していた全員が容疑者のまま。戦後、都市長同士の合議で、疑わしきは罰することになった」
「連合軍は解体。殲滅部隊の人たちはそれぞれの都市に戻され、罰を受けることになった。けれど罪が確定していない段階で厳罰を与えるのもそれはそれで、人道にもとる。折衷案として、容疑者は監獄への収監はまぬがれる代わり集合住宅に軟禁。都市の奉仕活動に従事することで、対価に賃金が支払われることになった」
ジャヒバル市長の補足説明も足される。フェイとアッシュは懲役刑として市の業務に従事していることがわかった。
「殲滅部隊の退役軍人は、辺縁都市の集合住宅に住むよう指定されている。奉仕活動のとき以外は自由に外出もできないんだよね」
アッシュが眉毛をハの字にしてそうコメントした。外出できるのは仕事のときだけで、それが自分たちへの罰なのだと、アッシュが憂いを帯びて発言していたのはそういうわけだったのか。
「だから、ソラ。残念だけれど二人を外に出すわけにはいかないんだ」
そのときチン、とエレベーターの開く音がして、部屋に人が入ってきた。全部で四人いる。皆、ヘルメットをかぶり、迷彩服のような作業着姿で、厚みのあるベストを着用していた。
「水聖都市までは彼らが護衛するよ。だから安心して出かけてきて」
護衛の一人があごを軽く動かし、俺に立ち上がるようにうながす。皆、ヘルメットを深々とかぶっている。初対面なのに、俺に顔を見せてくれる気もないみたいだった。
この人たちと一緒に水聖都市まで行くのか。突如としてあらわれた警備隊に性急に出発をうながされて、途端に不安にかられる。
俺がもたもたしていたせいか。警備員の一人が俺の腕をつかんで、無理やり立たせようとした。
「痛……」
二の腕に食い込む手が痛くて、思わず顔をしかめた。
とても乱暴だと思った。この人たちにとっては俺を連れて行くのが、単なる仕事だから仕方がないのだろう。でもこんなふうに粗雑に扱われるなんて、道中でもないがしろにされそうで気分がふさいだ。
次の瞬間、信じられないことが起こった。
フェイとアッシュが俊敏に立ち上がったかと思うと、フェイは俺の腕をつかんだ警備員を羽交い締めにして腕を締め上げる。アッシュは加勢に出ようとしたべつの一人の両腕を背中でねじりあげて、あっという間に拘束してしまった。
「ソラに乱暴に触れるな。腕を折られたいか」
ぞくっとするほど冷たい声で、フェイが警備員を脅迫する。
「他人へのいたわりに欠けた態度は、見過ごせないね」
あいかわらずおだやかな声と表情だけれど、手に込めた力はいっさい加減せずにアッシュが言う。
「はいはい。見事な手際だったね。でも、もう手を離したほうがいいよ。このままだと、この人たちが骨折しちゃうから」
ぱんぱん、と手を叩いて市長が仲裁し、ようやく二人は警備員二名の拘束を解いた。警備員は早足でソファーから離れ、仲間の元へと逃げていく。
「いやいや。退役したとはいえ、二人とも俊敏さはまったくおとろえていないね」
いままでの攻防などなかったかのようにのんきなジャヒバル市長の声で、場の緊張がふっとほどけた。
「そういえば忘れていたんだけど。二年と四か月ほどまえに都市法を改正したんだった。外部からの要請があり都市長が許可する場合は、服役囚を都市外部での奉仕活動に当たらせることができるってね」
俺と同様、フェイとアッシュも目を見開いている。その目に希望の光を灯して。
「外部の人間であるソラが、フェイとアッシュを指名した。あとは僕の許可さえあればいい。ということで、フェイとアッシュ。きみたちが希望するのなら、ソラの水聖都市行脚の送迎係兼護衛役として奉仕任務を与えるよ。どうする?」
「もちろん」「望むところだ」
二人同時に頼もしい返事を返してくれた。
「決まりだね」
ジャヒバル市長はにっこりとほほえんで、カガミさんに命じて護衛たちをエレベーターの奥へと下がらせる。エレベーターは静かに、闖入者たちを下の階へと運び出した。
「出発は明日の昼にしよう。それまでに必要なものは手配しておくよ。昨日はろくに休めず疲れただろう。宿を用意するから、出発まえに英気を養って」
ジャヒバル市長はどこかへ電話を入れて、短いやり取りを交わした。三人、一泊と聞こえてきたので、宿泊さきに連絡を入れてくれたのだと思われる。フロアごと貸し切り、なんて言葉まで聞こえてきた。
「よしよし。部屋が確保できたよ。ここに向かって」
ジャヒバル市長は紙に住所とホテル名を書き付けたメモをアッシュに渡す。
「それときみたちが不在の間に、昨晩あらわれた謎の追っ手についても正体を調べておくよ。ひょっとしたら、僕がシュニャをかくまっていることを察知した可動都市長の差し金かもしれないし」
明日の十一時に市庁舎一階の駐車場まで来るようにと時間と場所を指定されてから、俺たちはジャヒバル市長のオフィスを退出した。市長室へと上がってきたときと同様、またエレベーターに乗って地上へと戻っていく。日の光とはまたしばらく、お別れだ。
エレベーターが動き出してしばらくすると、アッシュとフェイが二人同時にため息を吐いた。
「やられたねえ」
「まったくだ」
そう言って、今度は二人同時にふっと苦笑した。
「ああ。さっきの警備の人たち、だよね……? たしかに、ちょっと異様な雰囲気だった」
そういえば、ありがとうと言っていなかった。
「お礼が遅れてごめんね。あの人たちから、俺を守ってくれてありがとう。二人が俺のために動いてくれて、俺、うれしかった」
二人はまぶしいものを見つめるときみたいに、うっすらと目を細めてほほえむ。
「お姫さまを手荒に扱う不届きものには、当然鉄槌を下すべきだからね。でも、俺たちがやられたって言ったのは、べつの意味でだよ」
「アッシュの言うとおり。ジャヒバル市長にしてやられたってこと」
「市長に?」
フェイの発言に首をかしげる。ジャヒバル市長は、水聖都市に行ってほしいという依頼のカードを最後の最後まで隠し持っていた。フェイが警戒していたとおり、考えの読めない人ではあるけれど、してやられたとまでは思わなかった。
「俺たちがきみの送迎係になるところまで、全部あの人の計算だ。きみが言い出さなくても、俺たちから申し出るように仕向けただろうな」
フェイの分析についていけないでいると、アッシュが横から解説を加える。
「ほら、改正都市法を思い出すタイミングが妙じゃなかった? 『二年と四か月まえ』なんて正確な時期まで覚えていたくせに。改正内容を忘れていたはずがない。あの警備員にきみを無理やり連れていこうとするふりをさせて、俺とフェイがどう出るか観察していたんだよ」
「結果として――俺たちは合格。あの連中からちゃんときみを守ることができた。護衛として能力じゅうぶんと評価されたんだよ」
「仕込み……だったってこと? あの人たちが?」
態度がやや強引だと思ったのは否めないけれど、フェイとアッシュを試していたさくらだとは思わなかった。
「仕込みといえば。最初からぜんぶ仕込みだったんだよ」
フェイの言葉の真意を聞き出すまえに、ずうん、と体に感じる重力が一瞬重たくなる。チンと音を立ててエレベーターが開いた。
「あの人、最初から俺たちにきみを水聖都市に送らせるつもりでいたんだよ。でも形式上、外部からの依頼がないと市長特例は出せない。そのために俺たちに監獄要塞に迎えに行かせた。わざとIDを無効にして、俺たちがひと晩、じっくり語らう時間まで作ってね。そうすればきみは俺たちを信用して、ぽっと出の警備員よりは俺たちを選んでくれるだろ?」
「えっ……。IDも仕込みだったってこと?」
「いまからだと、そう考えるのが自然だね」
そう言うフェイは、ジャヒバル市長に裏をかかれたのが面白くなさそうだ。
「あの部屋に入るずっとまえから、俺たちは市長の手のひらで踊らされてたってわけだね。どう? 俺たちが警戒する理由がよくわかったでしょ?」
アッシュの問いかけに、俺はうなずく。
ジャヒバル市長は、卓越したチェスマスターみたいだ。手駒を完璧な位置に配置する。数手さきまで読むどころか、ゲームがどう決するかまで最初からシナリオを描いていて、すべて彼の思いどおりになってしまう。試合の最中は苦しんでいるふりをするから、対戦相手は市長の描いたシナリオどおりに操られていることにすら、気づかない。
「たしかに、おそろしい人かも」
ジャヒバル・ティダイリ。年齢不詳で、天使のような謎めいた人。
悪い人ではないけれど、どこか得体が知れない。フェイの人物評がまさに正鵠を射ていたことを実感しつつ、俺はトラックの後部座席に乗り込んだ。
体の下に、ごわごわした厚手の布が当たる感触。ランタンのうすぼんやりとした明かり。ああ、そうか。昨日はトラックの荷台で寝たんだっけ。折りたたんだ厚手の毛布を荷台に敷いてもらって。
「おはよう、お姫さま」
俺のかたわらに、アッシュが座っていた。寝起きの俺と目が合うと、にこりとほほえむ。
「おはよう……」
眠りから覚めたばかりでまだぼんやりしていた俺は、のろのろと身を起こす。アッシュは、やり手のビジネスマンの、出勤まえの朝のひと時みたいな優雅さで、アルミ製のマグに入った飲み物をすすっていた。
「フェイは……?」
見張りを代わると豪語していたくせに。うっかり眠りこけて公約を果たせなかったのが不覚すぎる。アッシュは目のまえの、こんもりとふくれている毛布を指さした。
「明け方に俺と交代した。もうすこしだけ、寝かせてあげて」
音と気配で起こさないように、ゆっくりとフェイの寝ているところに近づく。潜水の選手みたいに呼吸を止めているんじゃないかと思えるほど、フェイは静かに眠っていた。なにかあったらすぐに動けるようにするためか、眠るときも眼帯はしたままだった。
「いま何時?」
「六時だよ。外に出てみる?」
俺はうなずき、アッシュが荷台の扉をすこし開いてくれたところから、一緒に表に出た。半地下の駐車場の地上とのすき間が開いているところから、わずかに外が見える。
「真っ暗だね。夜明けはまだなんだ」
「これでも日は昇ってるんだよ。一応ね」
これで? 昨晩の夜の光景となんら変わっていないのに。
俺が外の薄暗さを不思議に思ったのを察したのか、アッシュが説明を加えてくれる。
「俺たちのいる階層都市は、その名のとおり何層かに分かれているんだ。いま俺たちがいるのは最下層。だから上の層が覆いになって、日光は遮られちゃうんだよ」
アッシュの指さすほうを見つめてあっと思った。いままで空だと思っていたものをよくよく見てみると、それは天井だった。いくつかの階層が重なっているということで、次の階層の底が、ここからは天井として見えていることになる。
「全部で何階層あるの?」
「五階層だね。ジャヒバルと面会するときには、きっと空が見えるよ。彼のオフィスは市庁舎の最上階――五階層の上に位置しているから」
「そうなんだ。あれ……ってことはひょっとして、昨日通ってきた高速道路まで階層のなかに入ってるってこと?」
「そうだよ。監獄要塞のある辺縁区、それから経済特区まで全部ね」
とんでもないスケールにあぜんとする。世界一大きなショッピングモールの敷地すべてをドームで覆ったとしても、この規模には到底かなわないだろう。
アッシュはズボンのポケットからなにかを取り出す。楕円形のケースに入った歯ブラシセットだった。
「戻ってくる途中のドラッグストアで仕入れておいたから、よかったら使って。駐車場のトイレに洗面台があるよ」
アッシュが申し訳なさそうに後頭部を掻く。
「ごめんね。シャワーが使えない代わりに、せめて口のなかだけでもさっぱりさせてよ」
「ううん、警戒するに越したことはないもんね。じゅうぶんありがたいよ」
予期せず、モーテルの駐車場で夜を明かす羽目になったのだ。俺はいいとしても、アッシュたちはこんなに仕事が長引くなんて想定外だったはずだ。
「俺のほうこそごめんね。本当なら昨日のうちに俺をジャヒバル市長に引き渡して、二人は家でゆっくり眠れたはずなのに」
アッシュが笑顔で首を振る。
「いいや。お姫さまと話せて楽しいから、俺はむしろラッキーだよ。それに俺たちが外に出られるのは仕事の間だけだから、いい気晴らしにもなるし」
「え、そうなの……?」
仕事中しか外を出歩けないなんて。ヨウトゥアはそんなに治安がよくない町なんだろうか。
「うん。これは、俺たちへの罰だから」
――罰。
罰って、なんのこと。
アッシュの目に、憂いの翳りがかかる。アッシュがなんの罪を犯したというんだろう。瞳の憂いは、贖罪なのか。それとも――。
アッシュの視線が示唆する意味をとらえ損ねた俺は、問いかけるのをあきらめた。ありがたく新品の歯ブラシを頂戴して、洗面所へと急ぐ。
安いモーテルの駐車場に併設されたトイレでは、黄色い光を放つ電灯が、いまにも消えそうな様子でジジ、と一定間隔で明滅を繰り返していた。
歯磨きついでに、髪を結びなおす。そうか。寝乱れてぐちゃぐちゃになるから、睡眠時には髪をほどいたほうがいいんだなと、あたりまえのことにいまさら気がつく。長髪の自分の姿は、まだ見慣れない。
トラックに戻ると、アッシュがコーヒーとサンドイッチの朝食を差し出してくれた。アルミのマグに入ったコーヒーから湯気が立ち上っている。近くには携帯用らしき電気ケトルと、空になったミネラルウォーターのペットボトルが。淹れたてみたいでありがたい。
「おはよ、寝過ごした」
荷台に付帯したステップに腰かけて俺たちが朝食にありついていると、なかからフェイが降りてきた。なめくじが這うようにのろのろと覚醒した俺とは違って、いままで起きていたかのように、いつもと変わらない様子だ。目覚めの強さもさすがは元軍人なのかもしれない。
「フェイ、ごめんね。公約を果たせなくて」
朝一番の会話で、見張りを交代できなかったことを謝罪する。
「公約……って、なんのこと?」
本当に見当がつかないみたいで、フェイは流麗な目線を半目気味に俺に向けた。
「あの、見張りを交代するってやつ。俺、うっかり朝まで寝ちゃって起きられなかったよ」
「ああ」
フェイはなんだそんなことか、という軽い調子でうなずく。
「それはそう。だってきみの水に睡眠薬を仕込んでおいたから」
「え……。そうなの……?」
なるほど。それで入眠もスムーズだったわけか。でも、あのパウチの水は密閉されていたはずなのに。いつの間に薬を仕込んだんだろうと首をかしげていると、フェイが笑った。
「嘘だよ」
「あ……嘘か」
簡単にだまされてしまって恥ずかしい。照れ笑いをする俺を、フェイはじっと見つめている。
「ど、どうしたの?」
「いや、べつに」
フェイは目つきがとてもミステリアスだ。フェイとしては何気なく見つめているだけかもしれないけれど、なにか深い示唆が隠れているんじゃないかと勘ぐってしまう。
「ほら、フェイも」
アッシュが投げてよこした歯ブラシの入ったケースを、フェイは見事にキャッチする。
「戻ってくるまでにきみのぶんもコーヒー、淹れておくよ」
「助かる」
洗面所へと向かいつつ、フェイは手短に本日の行動計画を確認する。
「身支度ができたら早めに出発しないと。役所が混む。最悪の場合、窓口で再申請だ」
「あっちの手違いで通行証が無効になったんだ。さすがに融通してくれるでしょ?」
アッシュの楽観に、フェイは歩み去りつつ肩をすくめる。
「あいつら、融通が利かないところも含めて仕事ができないから。まえにあっちのミスで俺の給金振り込みが遅れたのに、問い合わせたら『指定日以外の振り込みはできません』の一点張り」
「それはそれは」
アッシュも思い当たる節があるのか、苦笑いだ。この階層都市の人たちは、いわゆるお役所仕事に苦労をさせられているみたいだった。
朝食を終えると、トラックで役所まえへと乗りつけた。七時過ぎには出発したはずなのに。俺たちのまえにはすでに、数台の車が列を成している。お金持ちの家の玄関にあるみたいな飾りの付いた鉄柵の向こう側までは、そのまま車で乗り入れられるらしい。
昨日も立ち寄ったところだけれど、あらためて確認してみると役所というよりは教会みたいな荘厳な作りだということがわかる。いたるところに、レース編みのような入り組んだ装飾が施されていて、羽根の生えた人とか、蝙蝠の羽根が生えた猿みたいな動物の像まで彫り込んである。
円柱形をした役所は階層を突き破り、上の階層まで伸びている。たぶんこの塔部分の最上階に、ジャヒバル市長がいるんだろう。
まえの車両が続々と役所内へと進んでいく。
俺たちの番が来るまで、十分も待たなかっただろう。守衛所のまえまでやって来るとフェイは窓を開けて、通行証の確認にやってきた守衛に話しかけた。
「ジャヒバル市長からの呼び出しだ。取り次いでもらえないか?」
「通行証」
守衛のおじさんは無慈悲に右手を差し出す。フェイはだまってカードを差し出した。おじさんがバーコードリーダーみたいな読み取り機をかざすと、ブザー音が鳴った。
おじさんが肩をすくめる。
「無効だよ。裏門にまわって、再申請してくんな」
「そちらのミスで登録漏れになってる。本当なら昨晩、ジャヒバルと面会予定だったのを、朝まで待ったんだ。秘書に電話するなり、なんとかしてくれ。いまから申請窓口に何時間も並ぶのはごめんだ」
食い下がるフェイに対して、おじさんはあきらかに面倒くさそうな顔をした。おじさんがなにか言いかけたところで、電話が鳴った。
「おっと」
守衛のおじさんは懐から携帯電話を取り出す。
「はいはい、守衛室。はいはい。はい……? しょ、承知しました……!」
それまで気だるそうにしていたのに。おじさんは急にしゃちほこばって背筋を伸ばすと、電話を切った。
「市長特例だ。通っていいとさ」
おじさんはぐい、と親指を進行方向に向ける。
俺たちは通行を許された。トラックをゆっくりと、市役所の駐車場まで進める。
「ジャヒバル市長が連絡してくれたんだね。なんだか、話のわかる人みたいでよかった」
市長には俺たちの事情が伝わっていて、これ以上の不便をかけないように取り計らってくれたんだろう。後部座席から半身を乗り出しつつ同意を求めたものの、フェイは苦い顔で、アッシュは困ったようにほほえんでいる。
あ、あれ? 俺の抱いた市長への印象とは、すこし違ったものを抱いているみだいだ。
「ジャヒバルはなにを考えているんだか。正直、俺は苦手だな」
「おっ、奇遇だねえ。人を得意、苦手で分類するのはあんまり得意じゃないけど……。でも俺も、市長のお相手はあんまり得意じゃないな」
ずいぶんと持ってまわった言いまわしで、アッシュも同調する。
「警戒したほうがいい人なの?」
フェイとアッシュに依頼して、俺をひそかに監獄要塞から連れ出した人。俺に会いたがっている人。俺に面会したがるのは、必ずしも好意的な理由からじゃないかもしれない。いまさらながら気づいて、緊張がつのってくる。
「悪い人ではない……と思う。けど、どこか得体が知れない」
「得体が知れない……」
このあとで俺は、フェイがつぶやいたジャヒバル市長についての不穏な人物評が正しいことを、いやというほど実感することになる。
トラックを駐車場に止めて、俺たちは車両を降りた。
市庁舎のなかは無人だった。
まるで街灯のような感じで、あちこちに担当課の行きさきを示す案内表が床からにょきりと生えている。俺たちのまえに並んでいた人たちはとっくに、それぞれ用がある窓口へと向かったあとなのだろう。
入り口の正面にエレベーターホールがある。チン、と音を立てて、複数あるエレベーターの一台が開いた。まるで俺たちの到来を待ちかまえていたかのように。
「乗れってさ」
フェイが俺たちを先導する。
「大丈夫。市長に取って食べられそうになったら、俺が守ってあげるよ」
アッシュが肩をぽんと叩いて勇気づけてくれた。
「うん、ありがと。俺は食べてもおいしくないよって、伝えてくれる?」
俺は若干こわばりつつも冗談交じりのコメントを返し、エレベーターへと乗り込んだ。
階数ボタンは二つしかない。いまいる階と行きさきの二つだけだ。きっと市長室直行ってことなんだろう。フェイが上階行きのボタンを押した。
階数は表示されていない。五階層の最上部にあるという市長の部屋に行き着くには一体、何階ぶんを上昇するんだろう。
エレベーターが静かに動き出す。上昇していることがわからないほどのなめらかさだけれど、なんとなく体がずんと重たくなり、途中から耳の奥がツーンと詰まる感じがした。
気圧変化に重力。朝食のコーヒーとサンドイッチ。ここでは朝日は昇らないけれど、夜は明ける。
ひとつひとつ、俺の世界との共通項を見つける。そのたびにすこし、安心する。
たまにひとつ、ふたつ、俺の世界とは異なる点を見つける。そのたびに寄る辺がないような思いがして、不安になる。
チン、と音が鳴り、扉が開いた。
目に強烈な光が飛び込んできて、まぶしい。とっさに、手でひさしを作ってまぶたにかざした。
扉が開くと、大きな部屋と直結していた。廊下はなく、仕切りもなく、一フロアが丸ごとひとつの部屋になっている。広い床の一面に、サーモンピンクの絨毯が敷かれていた。
エレベーターの真向かいは全面ガラス張りだ。展望室にあるみたいな床から天井までの巨大な窓の奥に、色彩の冴え渡る青空が見えた。これまで夜の世界にいたところから急に、朝の世界にやってきた。
凄烈な朝の光にもすこしずつ、目が慣れてくる。
窓を背にする格好で、どっしりとした木製のデスクに人が腰かけていた。両手の指を組んで、手の甲をあごに載せている。隣には眼鏡姿の男性がいた。えんじ色のスーツでいかにも、仕事のできる秘書といった感じがする。
「やあ、いらっしゃい」
机に座っていた人が立ち上がり、俺たちのほうに歩んでくる。
ゆるくウェーブのかかった金髪に、青い目。シャツにはハンカチーフのような大きなタイが付き、シックな紺のスーツを着こなしている。
「はじめまして。階層都市ヨウトゥアの都市長をしているジャヒバル・ティダイリです。いまが三期目。あ、でもこの任期中に都市法を改正して、四期目以降もずっと再選される予定だよ。よろしくね」
ジャヒバル市長は、ひと息にしゃべり、右手を差し出した。俺はびっくりして手を握るタイミングが一拍、遅れた。
目のまえの人が、ジャヒバル市長!? どう年かさに見積もっても、十四、五歳くらいの少年にしか見えないのに。……市長の任期って普通、短くても二年はあるものだよな……? だったらこの人、一体いまいくつなんだろう?
「ようこそ、シュニャ。それと、フェイとアッシュもご苦労だったね。まあ立ち話もなんだから、座ろうよ」
ジャヒバル市長は部屋の隅にある応接用のソファーを指さすと、俺の腕を取って歩き出した。たまにしか会えない親戚のお兄さんに会えてはしゃいでいるような人なつこさで、びっくりする。
「カガミ、お茶を頼むよ。僕のはミルクティー。フェイはストレート。アッシュはレモンだったよね。きみはなにがいい?」
面識のあるフェイとアッシュの好みは把握済みらしい。市長はにこりと笑って俺を見上げる。
「あ……。じゃあ俺もミルクティーをお願いします」
「よろしい。ではカガミ、ミルクティーをもうひとつ追加だ」
「かしこまりました」
カガミさんは一礼すると、しずしずと下がり、エレベーターから見て左にあるドアの向こう側へと消えた。
ソファーにはジャヒバル市長、その向かいに俺が腰かけ、俺の右隣にはフェイが座った。市長の隣にはアッシュが。むっつりと押し黙ったフェイが俺の隣に棒立ちになり、頑としてその場をゆずろうとしなかったせいだ。絶対に市長と隣り合いたくない、という固い意志を感じる。うーん、フェイはよほど市長のことが苦手らしい。
応接用のテーブルの端に、チェスボードが載っていた。ああ、チェスもこちらの世界にあるんだな、と思う。駒もすべてそろい、あるべき位置に配置されていた。
壁紙に付着した、もう落とせないしみを見て見ぬ振りをするように。俺は視界の端に映るボードを、なるべく意識しないようにつとめた。
「シュニャの名前は?」
ジャヒバル市長が好奇に目を輝かせながら、半身を乗り出してくる。くすみの混ざらない金髪に、青い目。人形のように端正な顔立ち。本当になんというか……可憐な人、と形容するのがふさわしい。でも市長というよりは、聖歌隊の中心で美声を披露しているほうがしっくり来る気がする。
「……ソラです。七色ソラ。市長はどうして、俺をシュニャと呼ぶんですか?」
「それはね、きみがシュニャだからだよ」
禅問答のようなやり取りに困惑する俺に市長はにこりと笑いかけ、ソファーに深々と座りなおした。
「昨日の件を受けて確信した。きみは、間違いなくシュニャだ」
心臓がどきりとした。
――昨日の件。きっと、俺たちが空間移転したことを指しての発言だ。昨晩、俺たちの身になにが起こったのかを、市長は知っている。
「だったら、どうして昨日のうちに面会に通さなかったんだ。そこまで把握しているのなら、通行証のエラーに気づいていただろう」
平静な口調ながら、やや険のある目つきでフェイが市長を責める。
「そんなに怒らないでよ、フェイ。あ、ほら。お茶が来たよ」
タイミングよく、お盆を手にしたカガミさんが戻ってきた。ポットは三つだ。俺と市長のミルクティー。フェイのストレートティー。それから、アッシュのレモンティー。
「飲み方によって一番適した茶葉で淹れているんだよ。せっかくだから、紅茶はおいしく飲みたいよね」
わざわざポット三つを使い分けた理由を教えてくれた市長は、紅茶に相当、こだわりがあるらしい。
「さて、まずはこれを観てもらおうか」
ジャヒバル市長が手のひらサイズのリモコンを押す。部屋のカーテンが自動で閉まった。明かりも消えて、応接セットの真横の天井から、するするとスクリーンが降りてくる。
映し出された映像を観て、俺たちはあっと息をのんだ。昨日の夜のハイウェイ。激しく車両をぶつけ合いながら進む二台のトラック。突如として、そのうちの一台が消失した……!
市長は一度そこで再生を止めると、巻き戻して今度はスロー再生にする。
「これがきみたちの乗っていたトラックだよ。ご覧のとおり、種も仕掛けもないのに一瞬のうちにその場から消えている。……瞬間移動したんだ」
続いて市長はべつの映像へと画面を切り替える。交差点を俯瞰して撮影された白黒映像だ。なにもなかったところに、一台のトラックが急遽、空中から放り出されてあらわれる。トラックは、大きく蛇行しながら停止した。
「刮目すべきは、それぞれの映像が監視カメラに収められた時間だね」
ジャヒバル市長は面白そうに声を弾ませながら、二つの映像を左右に並べる。映像の右下に表示された時刻を左右交互に指さした。
「トラックが消えた時刻と再び出現した時刻。二つの時刻には、一秒のずれもない」
二つの数字はたしかに、ぴたりと一致している。
「きみたちはたしかに、空間移転をした。シュニャの力を使ってね」
監視カメラに映像がはっきりと残されている。客観的に見てあらためて、俺たち三人が経験した瞬間移動は集団幻覚じゃなくて、たしかに起こったことなのだと実感できた。
「ソラ、これできみがシュニャだとはっきりした。映像がその証拠だよ」
ジャヒバル市長は自信ありげに断言する。俺は気になっていたことを市長に尋ねた。
「市長が俺をシュニャだと信じる根拠はわかりました。でも、俺は本当にシュニャなんですか? だってたった一回、空間移転に成功しただけなのに」
それも自力で成し遂げたものなのか、確証がない。
「仮に俺がシュニャだとして。俺はどうしてこの世界にやって来て、どうして監獄に収監されていたんでしょうか?」
「それはね」
ジャヒバル市長はじらすかのように、俺のカップにおかわりを注ぎ、ついでに自分のカップにも紅茶を補給してから続ける。
「きみを監獄要塞に収監したのは僕なんだ」
「市長が?」
アッシュがおどろきで軽く目を見開く。うーん、着古した風合いのブルゾンとスラックス姿なのに。ソファーにもたれて長い両脚を組み優雅に紅茶を味わう姿には、まるで貴族の昼下がりみたいな高貴さがただよっている。
「あなたは、なにをどこまで知っているんだ」
フェイが市長をにらみつける。隣に座っていると、ピリピリと皮膚を刺激する怒りの波動が感じられた。それはそうだろう。詳細を知らされずに俺を迎えに行かされたところで、謎の追っ手に襲撃された。一刻も早く市長に面会したいのに通行証が無効だったせいで、落ち着かない気分で夜を明かしたのだ。なんだか市長に翻弄された気分なのかもしれない。
「まあまあ、フェイはすぐ怒るんだから。順を追って話すよ」
天使の笑みでフェイを軽くいなして、ジャヒバル市長は詳細に入る。
「三年まえ。僕とカガミは、市庁舎のまえで倒れているきみを見つけた」
ミルクをかき混ぜたスプーンの柄で、市長はぴっと俺を指す。
「ため込んだ承認業務に倦み、気分転換に夜の散歩がしたいと市長が仰せでしたので」
市長の横に控えているカガミさんが静かに言い添える。宿題に飽きて遊びはじめてしまった怠惰を両親に咎められた子どもみたいだ。気まずそうな笑みを浮かべた市長はさきを続ける。
「倒れているきみをひと目見て、この人は異世界からやって来たんだと直感した。きみはスーツを着て鞄を持っていたけれど、その形状が僕の見知ったものとはどことなく違う感じがしたんだ。似て非なるもの。この世界には存在するはずのないもの。違う世界からやって来たきみなら僕の言いたいこと、なんとなくわかるんじゃない?」
市長に振られて、俺はうなずく。高速道路に、自動車に、ビル群。はじめてこの世界にやってきたときに目に飛び込んできたものたち。俺のよく見知ったものと同じでありながら、どこか現実離れしていて、俺の知っている世界と地続きではない感覚をたしかに覚えた。
「僕とカガミはきみをオフィスに連れ帰ると、すぐに住民登録データの照会をかけた。ここだけじゃなく、ほかの都市の記録もすべてね。結果、きみに該当するものはなかった」
アッシュが軽く目を剥いている。
「ほかの都市って……。まさか、ハッキングしたってことですか」
「うーん、それは最高機密事項だから話せないな」
口ではそうごまかしつつ、にやにやと含み笑いをしたジャヒバル市長の顔には「ハッキングをしました」とはっきりと書かれている。
「……ずいぶんと危ない橋を渡る。発覚していたら、ほかの市長たちがだまっていないぞ。特に可動都市長は。もっとも残忍な方法であなたを処刑しかねない」
意趣返しのつもりなのか、フェイがジャヒバル市長を脅す。そ、そんな鬼みたいな市長もいるのかとおののいた。
「ふふ、まあ僕の腕はたしかだからね。痕跡なんていっさい残さないよ」
堂々とハッキングの事実を認め、フェイの脅しにも軽く肩をすくめただけの市長だった。「僕が調べまわっていることをほかの市長たちには嗅ぎつけられたくなかったんだ。それに、真正面から情報開示請求をしたってことわられるのが関の山だし」
「ハッキングまでしないと、情報を見せてもらえないってことなんですか」
隣町の役場にちょっと電話をしたら、親切に教えてくれるのとはわけが違うのか。うーん、もしかしたら、俺の個人情報保護への意識が低すぎるのかもしれない。
「まあね。この世界になじみのないシュニャのために解説すると、ニルヤは高度に発展した地方都市の自治制度によって統治されているんだよ。ただし自治制度が発達しすぎた結果、都市はお互いに独立、不可侵状態。各都市は秘密主義で、あまり内情をさらしたがらない」
「そうなんですか。俺のいたところでは、姉妹都市って言って、親善関係を結んでいるところもあったんですけど」
ここでは、都市のひとつひとつが国家に相当するレベルなのかもしれない。しかも、そのどれもが鎖国中。
「ちょっと話が逸れちゃうんですけど、ニルヤには同じような都市がいくつあるんですか?」
「五十の都市があるよ。まずはきみのいる階層都市ヨウトゥア。ここから近いのは水聖都市のミジチと、可動都市のユヌム。でも一部の都市以外は僕もほとんど実情がわからないんだ。なにせここから遠くて」
「昨日、機械大戦の話をしただろ? 連合軍はここから近い二十の都市が合同で形成したんだ。あとの都市は連合軍が事に当たってくれてラッキーだと思っていたのかもね」
市長の発言にかぶせてフェイが軽く説明を付け足したあとで、市長は話を元の軌道に戻す。
「各都市にきみの記録は見当たらない。服装が僕の見知ったものとは違う。それで確信した。きみは異世界からやってきたシュニャだ。でも、きみは一向に目覚める気配がなかった。もし階層都市にシュニャがいると知れたら、ほかの都市長たちが奪いにかかるかもしれない。だから僕は、とりあえずきみが目覚めるまで監獄要塞でかくまうことにしたんだ。監獄要塞のセキュリティは盤石で、脱獄は不可能。裏を返すと、外からの侵入にも強いということになる。シュニャを守るための、世界一安全なゆりかごだね」
俺がどうして収監されていたのかはわかった。それにしてもジャヒバル市長はわずかな情報から、異邦人をシュニャと断定するのがやけに早い気がする。それにフェイとアッシュもだ。空間移転の直後から俺をシュニャだと信じて疑わなかった。
「俺が異世界からやって来たのだとしても。どうしてみんな、俺のことをすぐにシュニャだと思えたんでしょうか」
「ニルヤにはそういう伝承があるんだよ。広く信じられている伝承が」
しばらく俺と市長のやり取りを見守っていたアッシュが口を開く。
「バグを起こした世界に、異世界から顕現したシュニャが降り立つ。シュニャはマスターシステムへのアクセスを復活させ、再び世界に平穏をもたらしてくれるのだと」
なるほど。市長も、フェイも、アッシュもその言い伝えを根拠に、シュニャの存在を信じているわけか。
「ニルヤの人たちはけっこう信心深いんですね。俺なんかより、ずっと」
大概の日本人のご多分に漏れず、俺も特定の宗教を信仰していない。神を信じれば仏にだってすがるところがある。
「そうだね。まあ実際、ここもマスターシステムのバグで不具合が起こっているから。言い伝えは本当のことだと思えるし、シュニャにすがりたくもなるよ」
「不具合って、まさか環境汚染……ですか?」
ヨウトゥアの高度に発展した都市の様子から、そう思った。
「いや、ニルヤのエネルギーはクリーンだよ。廃棄物も適切に分解されているし」
アッシュがにこりと笑って否定する。
「じゃ、じゃあ……。食料危機とか?」
ヨウトゥアは五階層に渡る巨大な都市で、人口がかなり多そうだ。
「近くに巨大農場があるから。すくなくとも階層都市に住む三億人は食うに困らないよ」
食料問題についてはフェイが答えてくれる。
「じゃあ……」
すがるように市長を見つめた。
ジャヒバル市長は「暗いね」と言って手元のリモコンを操り、スクリーンを上げてカーテンを開いた。部屋をまばゆい光が満たす。
「都市の呪いについては、シュニャに話した?」
ジャヒバルの問いに、フェイとアッシュはそろって首を振る。
「そうか。じゃ、僕から説明しよう。いまの都市機能は不完全なものでね。都市長をシステムの媒介として、なんとか機能する状態なんだ」
「媒介……ですか」
人がシステムに組み込まれる仕組みがよく理解できない。眉間に皺を刻んだ俺を見て、ジャヒバル市長がくすりと笑う。
「わかりやすく言うと、都市長を失った都市は崩壊するんだ。だから都市長は都市を離れられない。それを僕たちは都市の呪いって呼んでいる」
まるで人柱あるいは生け贄だ。システムの話なのにオカルトめいたことを、ジャヒバル市長は平然と口にする。
「ジャヒバル市長はここを離れられないんですか?」
「そうだよ。都市長の名義登録をするときに、一緒に生体データを基幹システムに登録する。だから僕の居場所は、システムに筒抜けなんだ。階層都市内部の移動なら、まだ許容範囲内。それでも、基幹システムが置かれた市庁舎の近くはあまり離れられない。離れるほど、都市のどこかでシステムやネットワークに異常が発生するようになる。影響するのが交通システムなら一大事だ」
「……それは……なんというかものすごく……」
ジャヒバル市長は嘘泣きの顔を作ってうなずく。
「不便だよお。ついでに、階層都市は各階層部分を開閉できるはずなんだけど。これもマスターシステムへのアクセスが閉ざされてコントロールできなくなっている。唯一、すべての階層を貫く市庁舎内を通らないと、階層間の行き来もままならない」
「じゃあ同じ都市に住んでいるのに、違う階層の人とはまるで出会えないんですね」
「そうだね。普通に暮らしていたら一生、すれ違うことはないんじゃないかな」
一枚に何億人もの人を乗せて、びくともしないほど頑丈な階層が重なり合っている構造体。テクノロジーが進化しすぎた結果、俺の世界では起こりえない問題に直面している。
「マスターシステムへのアクセスさえ復活できれば、バグを修復できるんだけどね。その鍵が、きみだよ」
「……俺、ですか?」
ジャヒバル市長が天使の笑みを浮かべる。
「そう。きみはこの世界を救うためにやってきたんだよ。ニルヤに伝わる伝承に従ってね」
また伝承の話だ。
「異世界からシュニャが顕現するという伝承には続きがある。シュニャは都市長の番いになって、マスターシステムへの鍵となるそうだよ。番いに選ばれた都市長を、マスターシステムの王として。だから、ソラ」
ジャヒバル市長は、上着のポケットからなにかの箱を取り出すと、俺の隣にひざまづいた。ビロードみたいなしっとりした質感の布が張られた、手のひらサイズの箱を開く。なかには大きな宝石の付いた指輪が入っていた。
「どうかこの僕、ジャヒバル・ティダイリの花嫁になってください」
「え……」
大粒の宝石が光る指輪と、はにかんだジャヒバル市長の顔。その隣で、未熟な果物の渋さを味わっているみたいな表情で、「あちゃー」と額に手のひらを押し当てているアッシュの顔と、わずかにこめかみを引きつらせているフェイの顔。それぞれの顔をゆっくりと一巡したあとで俺は……。
「ふえええええ!?」
この世界にやってきて以来、一番の大声が出た。
「ちょっ、待ってください……!」
市長は俺の隣にひざまづき、指輪を差し出したままだ。自分の恋愛ごとには疎い俺でもさすがにわかる。これ、あきらかなプロポーズだよな? それも市長は、日本人の俺は照れてしまっておよそしないであろう、クラシカルな姿勢で愛を請う。
「あの、この世界の花嫁とはどういう概念を指すんでしょうか」
俺が早とちりしたのかもしれないと思い、念のため確認しておく。
「結婚式を挙げる女性という意味だよ」
市長が爽やかに断言するのに、膝からくずおれそうになった。
うん、わかってはいた。ニルヤの言語は、俺の話す言語と同一だ。シュニャのような固有名詞はともかくとして、ある単語が、俺の知る意味とはべつの意味に置き変わっているということは、これまでのところなかった。
「ジャヒバル市長。返事は保留ということです」
あぜんとした俺がなにも返答できずにいるのを、カガミさんが好意的に解釈して市長に告げる。
「えー、そうなの?」
どうしてプロポーズが受諾されないのか。不可解極まりないといった表情で、市長が立ち上がった。
「あのねえ。どうして出会って正味二時間も経過していない相手に突然結婚を申し込んで、なんの疑問も持たずに受け入れてもらえると思うんです?」
アッシュがまっとうな突っ込みを入れるのに、市長は当然の顔をして言い放つ。
「だって、僕らが結ばれるのは運命だからだよ。出会った時間の長さは関係ない」
「……ソラが困っているだろう。あなたの感情の機微への疎さは、人の神経を逆なでするとまえから言っているんだけどな」
フェイが厳しい顔をしながら、ややきつめのフレーバーを加えて俺の困惑を代弁してくれる。
「一度仕切りなおしです。市長」
カガミさんがそっと市長の肩に手を添えて、着席させる。市長は悠然とソファーに腰かけると、指輪の収められた小箱を渋々ポケットにしまった。
「ソラさま、おどろかせてしまったことをお詫び申し上げます。さきほどのタイミングは、私にも予想外でした」
「あ、いえ……」
カガミさんに深々と頭を下げられて、俺は恐縮して立ち上がり頭を下げる。
ジャヒバル市長はプロポーズが玉砕(?)したあととは思えない余裕の態度だった。
「僕はニルヤの伝承を成就させたいだけなんだけどなあ。都市長とシュニャが番えば、都市機能が回復し、都市の呪いも消える。番うというのはすなわち、都市長とシュニャが結婚することだと僕は解釈している。だから、ソラ」
市長が右手を差し出す。
「僕と結婚して、一緒にこの世界を救おう」
どうしてシュニャが都市長と結婚すると、マスターシステムへのアクセスが可能になるのか。
市長は俺が男でもかまわないのか。
そもそも、俺は本当にシュニャなのか。
いろいろと疑問はある。それに疑問を解消したからといって、すぐにイエスと言える話でもない。
「あの……。すみません。俺は……」
どう伝えようか迷い、すなおに心に浮かんだままを、しゃべる。
「システムの不具合のせいで、ジャヒバル市長がここを離れられなかったり、都市の機構が動かせない不便さは、解消できたらいいなと思います」
この世界でまともに言葉を交わしたのは、フェイ、アッシュ、市長、それからカガミさんくらいなものだ。それ以外の人たちと、これまで触れあう機会はなかった。
でも、たとえ見知らぬ世界であっても、この世界で生きる人たちにとってはここが故郷だ。自分の生きる場所を失ってほしくないと強く思う。人として普遍的に持っていて当然の、他人を思いやる気持ちから。
「だから俺が力になれるのなら、協力したいです。でも、そのために俺はジャヒバル市長と、その……け、結婚するとか。それで都市の機能が元に戻るはずだとか。まだ、わからないことだらけで……」
フェイ、アッシュ、ジャヒバル市長が、俺に視線を注ぐ。始終にこにことして、のらりくらりと追求をかわす態度から、どこかとらえどころのなかった市長でさえも、唇を引き結んで真摯に俺の話を受け止めてくれていた。
「それに、俺は元の世界に戻りたい、です。だからもし本当に俺がシュニャだとしても、俺がこの世界の神さまとしてずっと居続けるのは難しい……と思います。この世界を救って、それで俺も元の世界に戻れる方法があるといいんですけど。なんだか、うまく言えなくてすみません」
俺が助けられる可能性があるこの世界の人たちを見捨てているようで、薄情に聞こえてしまっただろうか。
ニルヤに飛ばされてからすでに三年近くが経過している。もとの世界ではきっと、俺の捜索願いが出されただろう。翌日出社してくるはずの社員が、会社に姿をあらわさなかったのだから。なしのつぶてなので捜索は、一年も経たないうちに打ち切られただろうか。戻れるのにあと何年かかるのだろうと考えると、気が重くなる。
俺の心が不安で毛羽立つのをなだめるように。隣からそっと手が伸びてきた。フェイが俺の手に手を重ねて、優しく握りしめた。
その手のぬくもりにはっとして、視線を上げた。
「……ソラは悪くないよ。だれだって、家に帰りたいよね」
フェイの声が優しい。あたたかな手は帰郷を望む気持ちと、罪悪感との間で板挟みになった俺の気持ちをなぐさめてくれる。
「市長。なにか方法はないんですか。システムへのアクセス権だけを獲得して、ソラは元の世界に戻れるようにする方法が」
アッシュがジャヒバル市長に尋ねる。アッシュも、俺の気持ちをおもんばかってくれている。
「ふーむ」
ジャヒバル市長は鼻を鳴らした。答えに詰まって呻吟しているというよりは、一定の答えにたどり着いていて、それをどう披露しようか思案しているといった様子だった。
「まず、そもそもの前提からいこうか。ソラがシュニャだと確定したわけではない」
「どうして!?」
フェイとアッシュの同時突っ込みが入る。これには俺もおどろいた。さっきまで俺がシュニャだと言い張っていたのに。それで結婚まで申し込んだのに。
「もちろん、僕はソラがシュニャだと信じているよ。個人的な願望も含めてね。でも、あくまでもこれまでの事象から客観的に判断するに、その蓋然性が極めて高いってだけのこと。確固たる証拠はない」
市長はあくまでも冷静に分析する。
「訊くけれど、ソラ。空間移転の力は自在に使えるのかな?」
「いえ……。やれと言われてもできません」
「でしょう?」
市長は得心したようにうなずく。
「ソラの空間移転能力は、非常に不安定なものだ。昨日はたまたま、防衛本能から力を発揮できたんだと考えられる。ソラが空間移転の力を使ったのは、最初にこの世界にやってきたときと、昨日の夜の二回だと思われているけど、それだって憶測でしかないよ。最初はほかの都市にいて、移転の力を使ってヨウトゥアにたどり着いたのかもしれないし」
なるほど。市長に指摘されるまで、その発想はなかった。
ニルヤに飛ばされて最初にたどり着いたのはヨウトゥアだとばかり思っていたけれど、もしかしたらほかの都市も経由していたのかもしれない。すると俺がニルヤにやってきたのは、ひょっとすると三年よりもまえになるのか――なんてことは、いまは考えたくない。
「つまり言いたかったのはね、ソラがいつ空間移転の力を使えるかは本人にすらわからないってことなんだ。そんな人を、時間と空間を自在に渡るシュニャだと断定していいのか? すこし尚早な気もするね」
「あなたの言いたいことはわかった。ソラをシュニャだと信じる気持ちはあっても、シュニャたるには資格が不足しているんじゃないかってことだろ?」
「そういうこと」
フェイの質問に答え、市長はカガミさんに目配せをする。それを合図にカガミさんは部屋の隅に移動し、携帯電話を片手にどこかに電話をかけはじめた。
「まずはソラがシュニャだと確定させる必要がある。世界を救うにしても、ソラが元の世界に戻るとしても、話はそこからだ」
小声で電話をしていたカガミさんは、しばらくすると戻ってきた。
「ソラがシュニャなら、シュニャを依り代としてシステムへのアクセス権を手にする方法を考える。まだ仮説の域を出ないけれど、番いの伝承をうまいこと解釈してシステムの裏をかき、必ずしも結婚という形を取らなくても番いだと認めさせる方法があるはずなんだ。僕にアクセス権が手に入ったら、ソラは元の世界に帰れる。なにせ空間移転の力があるんだからね。自力で戻れるよ。もちろん移転さきを自在に選べるよう、力の使い方を学ぶ必要はあるけどね」
伝承の解釈で、システムの裏をかいくぐる方法か。この世界では、システムの操作に抽象的な信仰心が絶妙に入り交じり、とらえどころのないものになっている。
「もしソラがシュニャでなかったとしても、まずは安心して。こうして出会ったのもなにかの縁だ。この世界にいる間はヨウトゥアで面倒を見るし、なんとかして元の世界に戻れるように手を尽くすよ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて、安心しました」
「うんうん。結婚する気になった?」
「いえ……それは……」
おお。話の流れから危うく、イエスと言わされるところだった。また悪い冗談を、と頭に血が昇ったのか、フェイが市長をぎろりとにらみつける。
市長は話を戻す。
「ソラがシュニャでなかった場合――プロセスには工夫の余地ありだけど、解は見えているんだ。この世界に顕現したべつのシュニャを見つけて、一緒に元の世界に帰ってもらえばいい」
ジャヒバル市長の提案に納得して、俺は息を深く吐いた。俺以外の、本物のシュニャがいる。
俺がシュニャではなかったとして。俺以外の本物のシュニャがきっといるはず。俺には妙な確信があった。現に空間移転を成し遂げた人間がすでに一人、ここにいる。俺にできたのなら、俺以上の精度で同じことができる人がすでにこの世界にいてもおかしくない。むしろ俺はその人の空間移転に引っ張られて、たまたま移転してしまっただけなのかもしれない。なんだか、そんな気がしていた。
「でも市長。ソラがシュニャであることをどうやって確定させる?」
フェイが問う。市長がちゃんと俺のことを考えてくれているとわかったからなのか、ジャヒバル市長に対する言葉のとげとげしさが薄れたみたいだ。
「ひとつ、方法がある。――実は今日、きみたちに来てもらった本題はここからなんだ」
これだけ長々と話して、まだここからが本題とは。俺たち三人は一様に、目を丸くした。市長は一体何枚、手札を隠し持っているんだろう。
「水聖都市ミジチ――。そこにシュニャを見極める心眼の持ち主がいる。ソラにはその人の元を訪ねて、自分がシュニャなのかどうか確認してきてもらいたい」
「ミジチか。なるべくシステムに頼らず、旧時代の生活を営む人たちのコミュニティですよね」
「そうそう」
アッシュの質問に、ジャヒバル市長がうなずく。俺の世界にも、電気もガスも使わない、中世さながらの生活様式を守って暮らしている集団がいる。似たようなものかな、と想像する。
「ミジチの都市長は代々世襲で選ばれる。それも、シュニャ判定の心眼を持つ人が選ばれるそうだよ。本当はその人にヨウトゥアまでお越しいただけたら話が早いんだけど、都市長は都市を離れられない。オンライン会議でも判定してもらえますかってお手紙で尋ねたら、直接会わないと判定できないって言われちゃった」
市長がぺろりと舌を出す。文明から遠ざかって暮らしている人たちみたいなので、手紙は文字どおり紙で取り交わしたものと想像される。
「なので、僕としては非常に気が進まないのだけれど。ソラ自身に水聖都市に行ってもらう。いいかな、ソラ?」
「は、はい……」
ジャヒバル市長の笑顔は無言の圧力だ。俺は深く考えるまえに返事をしていた。
でも、自分がシュニャかどうか。俺自身が一番知りたい。返事をした事後になってしまったものの、俺が自分でたしかめるべきことだと身が引き締まる。
「ソラに砂地を渡らせるのか。あそこには――」
フェイが尋ねる。卵膜のようにうっすらとした緊張感を全身にまとわせていた。
「砂地に棲む人がいるね。でも水聖都市に行くには、あそこを通るしかない。でなければ何十日もかかる道のりを、大まわりしていくことになる」
市長が言うのに、フェイがふうと鼻から息を吐く。言いたいことはあるけれど、言っても仕方がないので飲み込んだという感じだ。
「あの……」
俺は質問を差し挟む。
「水聖都市までは、車で移動ですか?」
「そうだよ。飛翔体は目立つからね。車のほうが安全」
「飛翔体は空を飛ぶ機械のことですよね? なにか野生動物みたいなのに狙われるってことですか?」
砂地に棲む人と呼称される獰猛な動物が徘徊しているのかもしれない。飛行機を狙うということはあるいは、鳥類か。
「……必ずしも襲われるとは限らないけれど。警戒するに越したことはないってことだよ」
なにに襲われるのか。ジャヒバル市長は、はっきりとは答えてくれなかった。
「だったら……。フェイとアッシュに、送迎をお願いするのはだめでしょうか?」
市長が目を見開く。俺が要請するなんて想像もしていなかったのだろう。心底、おどろいているという感じだった。
「あ、ごめんね。二人の意志を確認せずにこんなこと言って。でも――」
二人は謎の追っ手から俺を夜通し守り、市長の元に連れてきてくれた。初対面の俺に食事や毛布を提供してくれた。二人が話し相手になってくれたから俺は異世界での最初の夜を、必要以上の不安にかられることなく明かすことができたんだ。
「はじめてこの世界にやって来て、二人と出会って。二人に守ってもらって、俺はすごく安心でした。正直、まだこの階層都市のこともよく知らないうちに、ほかの都市に行くのは不安があります。でも、二人がそばにいてくれるなら安心して確認に行けると思うんです」
「……すまない、ソラ。それはできない」
市長がなにか言うまえに、フェイからことわられてしまった。すこし残念に思ったのと、フェイの都合を無視して頼んでしまったことで、気分を害しただろうかと心配になる。
「あ、そ、そうだよね……。いや、ごめんね。二人にも都合があるのに勝手にこんなこと言って……」
これ以上、異世界からやってきた素性不明の人間にわずらわされたくない、という気持ちからの謝絶だとしたら、すこし悲しい。でも、IDカードが無効になっているという想定外のトラブルに見舞われたのに、俺の世話を面倒くさがる様子は皆無だった。二人に限って、これ以上俺にかかわりたくないとは思っていないはず。そう信じている。
俺が悲しい顔をしたからか、フェイはすこしだけあせったように訂正する。
「いや、違うんだ。ことわるのは、きみの想像した理由からじゃない。俺たちはこの都市を出られないんだ」
「出られない……?」
「二人が囚人だからだよ」
俺の問いに対して、ジャヒバル市長がナイフのような鋭いひと言を差し挟む。
「囚人……? だって二人は監獄要塞には、いないのに……」
監獄要塞と都市を往復するクリーニング業務が生業だとは言っていた。もしかして、それが二人の刑務作業で、作業中は特別に外出が許されているってことなんだろうか。
「監獄要塞は重罪人専用の刑務所だからね。軽犯罪社用の収監施設はほかにもあるんだよ」
ジャヒバル市長が苦笑交じりに答える。
「二人はね、戦争犯罪者なんだ。機械大戦のことは聞いたんだよね?」
俺は小さくうなずく。長く続き、二年まえにようやく終戦を迎えた、宇宙から飛来した異星人との戦い。
「宇宙のかなたから飛来した機械人たちは、よりにもよってヨウトゥア周辺から侵攻をはじめた。僕たちはヨウトゥア、ユヌムの軍を中心とした複数都市による連合軍を結成して、対処に当たったんだ。連合軍には多くの戦死者が出た。兵士のおよそ半数を失ってね。都市部が戦地になることはなかったから、戦死者が軍人に限定されていたのは不幸中の幸いだったけど。それでも、これだけの死者数ですんでよかったとはまったく思えないよ」
「半分……」
俺は戦争を経験したことがない。それでも市長の沈痛な面持ちから、想像を絶する悲惨な出来事だったのだろうと推し量る。
「……終戦間際になって、軍の内部で妙な噂が立つようになった。どうして機械人たちにニルヤが狙われたのか。外敵殲滅部隊に所属していた兵士のなかに、敵兵と通じて侵略を手引きした裏切り者がいるからなんじゃないか。想定より多くの死者が出たのも、こちらの内部情報が漏れていたからじゃないか、と」
フェイがぽつりと付け足したひと言に胸を衝かれる。
「そんな……。裏切り者は……見つかったの?」
俺の問いにアッシュが首を振り、答える。
「犯人は見つからない。つまり、あのとき外敵殲滅部隊に所属していた全員が容疑者のまま。戦後、都市長同士の合議で、疑わしきは罰することになった」
「連合軍は解体。殲滅部隊の人たちはそれぞれの都市に戻され、罰を受けることになった。けれど罪が確定していない段階で厳罰を与えるのもそれはそれで、人道にもとる。折衷案として、容疑者は監獄への収監はまぬがれる代わり集合住宅に軟禁。都市の奉仕活動に従事することで、対価に賃金が支払われることになった」
ジャヒバル市長の補足説明も足される。フェイとアッシュは懲役刑として市の業務に従事していることがわかった。
「殲滅部隊の退役軍人は、辺縁都市の集合住宅に住むよう指定されている。奉仕活動のとき以外は自由に外出もできないんだよね」
アッシュが眉毛をハの字にしてそうコメントした。外出できるのは仕事のときだけで、それが自分たちへの罰なのだと、アッシュが憂いを帯びて発言していたのはそういうわけだったのか。
「だから、ソラ。残念だけれど二人を外に出すわけにはいかないんだ」
そのときチン、とエレベーターの開く音がして、部屋に人が入ってきた。全部で四人いる。皆、ヘルメットをかぶり、迷彩服のような作業着姿で、厚みのあるベストを着用していた。
「水聖都市までは彼らが護衛するよ。だから安心して出かけてきて」
護衛の一人があごを軽く動かし、俺に立ち上がるようにうながす。皆、ヘルメットを深々とかぶっている。初対面なのに、俺に顔を見せてくれる気もないみたいだった。
この人たちと一緒に水聖都市まで行くのか。突如としてあらわれた警備隊に性急に出発をうながされて、途端に不安にかられる。
俺がもたもたしていたせいか。警備員の一人が俺の腕をつかんで、無理やり立たせようとした。
「痛……」
二の腕に食い込む手が痛くて、思わず顔をしかめた。
とても乱暴だと思った。この人たちにとっては俺を連れて行くのが、単なる仕事だから仕方がないのだろう。でもこんなふうに粗雑に扱われるなんて、道中でもないがしろにされそうで気分がふさいだ。
次の瞬間、信じられないことが起こった。
フェイとアッシュが俊敏に立ち上がったかと思うと、フェイは俺の腕をつかんだ警備員を羽交い締めにして腕を締め上げる。アッシュは加勢に出ようとしたべつの一人の両腕を背中でねじりあげて、あっという間に拘束してしまった。
「ソラに乱暴に触れるな。腕を折られたいか」
ぞくっとするほど冷たい声で、フェイが警備員を脅迫する。
「他人へのいたわりに欠けた態度は、見過ごせないね」
あいかわらずおだやかな声と表情だけれど、手に込めた力はいっさい加減せずにアッシュが言う。
「はいはい。見事な手際だったね。でも、もう手を離したほうがいいよ。このままだと、この人たちが骨折しちゃうから」
ぱんぱん、と手を叩いて市長が仲裁し、ようやく二人は警備員二名の拘束を解いた。警備員は早足でソファーから離れ、仲間の元へと逃げていく。
「いやいや。退役したとはいえ、二人とも俊敏さはまったくおとろえていないね」
いままでの攻防などなかったかのようにのんきなジャヒバル市長の声で、場の緊張がふっとほどけた。
「そういえば忘れていたんだけど。二年と四か月ほどまえに都市法を改正したんだった。外部からの要請があり都市長が許可する場合は、服役囚を都市外部での奉仕活動に当たらせることができるってね」
俺と同様、フェイとアッシュも目を見開いている。その目に希望の光を灯して。
「外部の人間であるソラが、フェイとアッシュを指名した。あとは僕の許可さえあればいい。ということで、フェイとアッシュ。きみたちが希望するのなら、ソラの水聖都市行脚の送迎係兼護衛役として奉仕任務を与えるよ。どうする?」
「もちろん」「望むところだ」
二人同時に頼もしい返事を返してくれた。
「決まりだね」
ジャヒバル市長はにっこりとほほえんで、カガミさんに命じて護衛たちをエレベーターの奥へと下がらせる。エレベーターは静かに、闖入者たちを下の階へと運び出した。
「出発は明日の昼にしよう。それまでに必要なものは手配しておくよ。昨日はろくに休めず疲れただろう。宿を用意するから、出発まえに英気を養って」
ジャヒバル市長はどこかへ電話を入れて、短いやり取りを交わした。三人、一泊と聞こえてきたので、宿泊さきに連絡を入れてくれたのだと思われる。フロアごと貸し切り、なんて言葉まで聞こえてきた。
「よしよし。部屋が確保できたよ。ここに向かって」
ジャヒバル市長は紙に住所とホテル名を書き付けたメモをアッシュに渡す。
「それときみたちが不在の間に、昨晩あらわれた謎の追っ手についても正体を調べておくよ。ひょっとしたら、僕がシュニャをかくまっていることを察知した可動都市長の差し金かもしれないし」
明日の十一時に市庁舎一階の駐車場まで来るようにと時間と場所を指定されてから、俺たちはジャヒバル市長のオフィスを退出した。市長室へと上がってきたときと同様、またエレベーターに乗って地上へと戻っていく。日の光とはまたしばらく、お別れだ。
エレベーターが動き出してしばらくすると、アッシュとフェイが二人同時にため息を吐いた。
「やられたねえ」
「まったくだ」
そう言って、今度は二人同時にふっと苦笑した。
「ああ。さっきの警備の人たち、だよね……? たしかに、ちょっと異様な雰囲気だった」
そういえば、ありがとうと言っていなかった。
「お礼が遅れてごめんね。あの人たちから、俺を守ってくれてありがとう。二人が俺のために動いてくれて、俺、うれしかった」
二人はまぶしいものを見つめるときみたいに、うっすらと目を細めてほほえむ。
「お姫さまを手荒に扱う不届きものには、当然鉄槌を下すべきだからね。でも、俺たちがやられたって言ったのは、べつの意味でだよ」
「アッシュの言うとおり。ジャヒバル市長にしてやられたってこと」
「市長に?」
フェイの発言に首をかしげる。ジャヒバル市長は、水聖都市に行ってほしいという依頼のカードを最後の最後まで隠し持っていた。フェイが警戒していたとおり、考えの読めない人ではあるけれど、してやられたとまでは思わなかった。
「俺たちがきみの送迎係になるところまで、全部あの人の計算だ。きみが言い出さなくても、俺たちから申し出るように仕向けただろうな」
フェイの分析についていけないでいると、アッシュが横から解説を加える。
「ほら、改正都市法を思い出すタイミングが妙じゃなかった? 『二年と四か月まえ』なんて正確な時期まで覚えていたくせに。改正内容を忘れていたはずがない。あの警備員にきみを無理やり連れていこうとするふりをさせて、俺とフェイがどう出るか観察していたんだよ」
「結果として――俺たちは合格。あの連中からちゃんときみを守ることができた。護衛として能力じゅうぶんと評価されたんだよ」
「仕込み……だったってこと? あの人たちが?」
態度がやや強引だと思ったのは否めないけれど、フェイとアッシュを試していたさくらだとは思わなかった。
「仕込みといえば。最初からぜんぶ仕込みだったんだよ」
フェイの言葉の真意を聞き出すまえに、ずうん、と体に感じる重力が一瞬重たくなる。チンと音を立ててエレベーターが開いた。
「あの人、最初から俺たちにきみを水聖都市に送らせるつもりでいたんだよ。でも形式上、外部からの依頼がないと市長特例は出せない。そのために俺たちに監獄要塞に迎えに行かせた。わざとIDを無効にして、俺たちがひと晩、じっくり語らう時間まで作ってね。そうすればきみは俺たちを信用して、ぽっと出の警備員よりは俺たちを選んでくれるだろ?」
「えっ……。IDも仕込みだったってこと?」
「いまからだと、そう考えるのが自然だね」
そう言うフェイは、ジャヒバル市長に裏をかかれたのが面白くなさそうだ。
「あの部屋に入るずっとまえから、俺たちは市長の手のひらで踊らされてたってわけだね。どう? 俺たちが警戒する理由がよくわかったでしょ?」
アッシュの問いかけに、俺はうなずく。
ジャヒバル市長は、卓越したチェスマスターみたいだ。手駒を完璧な位置に配置する。数手さきまで読むどころか、ゲームがどう決するかまで最初からシナリオを描いていて、すべて彼の思いどおりになってしまう。試合の最中は苦しんでいるふりをするから、対戦相手は市長の描いたシナリオどおりに操られていることにすら、気づかない。
「たしかに、おそろしい人かも」
ジャヒバル・ティダイリ。年齢不詳で、天使のような謎めいた人。
悪い人ではないけれど、どこか得体が知れない。フェイの人物評がまさに正鵠を射ていたことを実感しつつ、俺はトラックの後部座席に乗り込んだ。
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