新 或る実験の記録

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「三浦さん、背後関係にある海外の製薬会社やアメリカなどには手出しは出来ないでしょうが、実行犯はどうなりましたか?
拘束できたんですか?」

吉岡先生は、深刻な表情を浮かべて言った。


「いや、残念ながら。

実行犯の特定をして、その行方を追っていましたが、なかなかややこしい事になってましてね。」


「ややこしい?」


「ええ。
背後にいるのが米国なんですから、匿ったりする事はあり得る話でした。
ただ、大使館に逃げ込ませるなんて事はないと思ってましたが。」


「大使館に?」


「いえ、さすがにそれはないです。

実行犯は今、米軍基地内にいます。」


「米軍基地?」


「ええ。大使館と違って、その場所自体が外国という扱いではありませんが、捜査するにあたってはなかなかハードルが高くて、こちらも手出ししにくい。」


「じゃあ、泣き寝入りですか?」


「いや、ここまで事実関係が明らかになっているということは、それだけで抑止力になります。

向こうが何らかの情報、つまりこの性転換薬の不備について世間に出してこようとも、その出所をこちらが掴んでいますので。」


「つまり、表には出てこないと?」


「まあ、当面は大丈夫でしょう。
日本政府も頼りにはなりませんが、あらゆる外交チャンネルを使って抗議しているところです。

後はマスコミにリークされるのを注意しなければなりませんがね。」


「そうですか…」


「我々は今後も犯人を追います。

こんな状況ですが、お二人も希望を捨てずに頑張りましょう。」

三浦さんは、そう言い残して去っていった。


しばらくの間、吉岡先生もワタシもその場から動けずに、無言で座っていたが、先生は

「乃亜ちゃん
色々巻き込んでしまって、ごめんね。」

と、申し訳なさげに言ってきた。


「いえ…ワタシは大丈夫です。」


「三浦さんが言った通り、ワタシも当分の間は危険はないと思ってる。

だから安心して」


「はい。
でも、ワタシも吉岡先生も不利ですよね」


「不利?」


「だって、欠陥のある性転換薬で女性になってしまったんですもの。

ワタシ達については、改良した新薬が間に合わず、欠陥のあるカラダのまま実験を行おうとしている。

多分、改良薬が使われる次の実験が始まったらお払い箱になるんじゃないかなあ。

世間の目を気にして、何食わぬ顔で実験は続けて、結婚、出産はしなきゃならないとは思いますけど。」


「…」

多分、ワタシが思っていることは吉岡先生もわかっているんだろう。
それに対しては何も答えなかった。


「吉岡先生
ワタシが心配してるのは、貞操観念が保てるかどうかです。」


「貞操観念?」


「まあ、欠陥のある薬だけど出産はフツーに出来ると思います。

でも、この感じやすいカラダが問題で…

結局、ワタシ達は相手が誰でも良くて、一度スイッチが入ってしまえば、どんな相手とでもセックスできちゃうし、満足してしまうんです。

こんなカラダで特定の男性と幸せに暮らす事なんて多分出来ないと思います。」


「…」


核心を突いてしまったのか、吉岡先生は何も言葉を発しなかった。
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