新 或る実験の記録

無為の日々

ワタシを除く九名がセンターを卒業し、次のステップに移行した。

ワタシについては、性転換して男性になっているであろう涼音が研修を終えるまで何もすることがないので、毎日がヒマだ。ヒマすぎる。

吉岡先生も基本はセンター勤務なので、九名のシェアハウスでの生活にはノータッチだ。

つまり、次の性転換候補者がやって来るまでは、吉岡先生もワタシ同様にヒマを持て余している。

本来なら休みなので、自宅に帰るところだが、例の事件が起きたが為に、センターに留まっている。
気の毒な事で…

そういうわけで、ワタシは毎日吉岡先生の部屋を訪ねていき、談笑したり、相談したりしている。


今日も午前中から吉岡先生と話し込んでいた。


「先生はワタシ達を拉致監禁した犯人のバックに一体誰がいると思いますか？」


「うーん

正直言って皆目見当もつかないわ。

警察や公安の人が言ってたように、国内の勢力であるということは何となくだけど、わかるけどね。」


「でも、ワタシ達の痴態を録画されでるわけですし、それが表に出される前に何とか捕まえてほしいですね。」


「そうね。

じゃないと、今回の被験者である九名の将来にも関わってくるから。」


「ええ。ホントに…

あ、先生

女性から男性への被験者十名は順調なんでしょうか。」


「うん…

いえ、ワタシも管轄外だからちゃんと聞いてないんだけど、あなたのカノジョも含めて無事に性転換が済み、今は男性として生きていく上で最低限必要な事を学んでる最中よ。」


「あの、ワタシ達みたいに性転換薬による副作用はあるんですか」


「女性から男性になる場合は、体力が落ちてしまったりって事はないみたいよ。
逆に力が漲る感覚になるって」


「へえ、いいなあ。」


「ただ、肉体的な事より、内面的な変化に対する矯正をしていかなければならないかもね。」


「内面？」


「ワタシもちゃんと聞いたわけじゃないから、確かな事は言えないけど、女性から男性になると、性格が粗野になったり、怒りっぽくなったり、躁状態になったりと、色々あるみたい。」


「ワタシ達は鬱になるのに、躁状態になるんですか。
不思議ですね。」


「まあ簡単に言えば、エストロゲンとテストロンの作用の違いっていうのかな
それが表面に顕著に出ちゃう感じね。」


「そっか…
早く涼音に会ってみたいなあ

どんな感じになってるんだろう…」
　

「あと三ヶ月したら、乃亜ちゃん達の時のように一時的に外に出ていいってことになると思うの。
一週間の予定で。

そのときに面会が許されると思うよ」


あと三ヶ月…

長すぎる…