新 或る実験の記録

絶望の花

ファイン製薬の北見さんと厚生労働省の芹沢さんの話は、ワタシ達を絶望的な気持ちにさせるのには十分すぎるくらいだった。


三浦さんも、話を聞いて以降は口数が減ってしまった。

しかし、事件はすでに起きてしまっている。

善後策を検討しないわけにはいかなかった。


警視庁の木村さんがここで、ようやく話に入ってきた。


「犯人側にこのプロジェクトの欠陥に纏わる情報を握られてしまった今
今後、世間に対してか、こちらに対してかはまだわかりませんが、何らかの動きがあるのは確実です。」


「そうでしょうね。
外に出さなければ、拉致してまでして苦労して得た情報が宝の持ち腐れになる。」


三浦さんも同意した。


「下手したら、このプロジェクトが潰されてしまいますよ。

我々が恐れているのはマスコミであり、世論なんですから。
テレビや週刊誌で面白おかしく報じられた上に、今いる十人の被験者自体が欠陥品の烙印を押されて、野に放り出される。」


えっ、女にされた上に、欠陥人間として生きていかなければならないなんて…


「芹沢さん、どうなんですか

政府側の人間として、あなたの考えをお聞かせ下さい。」


「勿論、このプロジェクトは日本の国運を賭けたものですし、失敗は許されません。

今回の事が明るみに出た場合、今センターにいる合計二十名は、欠陥品による性転換というレッテルが貼られてしまう事になります。しかし、今の性転換薬でも、妊娠、出産については今後出てくる再改良版と比べても、その効能に一切遜色はありません。

ですから、菅原さん
あなた方には大変申し訳ない事をしましたが、実験についてはこれまで通り行いますし、何ら変更はありません。

その点は安心なさって下さい。」


安心しろって…
よく言うよ


「倫理的な面からしても、今回の実験はかなりムリがあったんだ。

いっそのこと中止して、今の二十名には再性転換してもらい、元の性に戻すっていうのは？」

三浦さんは、あまりにもまともな質問をしたが、即座に北見さんは否定した。


「もう、遅いです。

男性から女性になった十名については、かなり期間が経過しているという事で、再性転換しても、脳を元に戻す事は現段階では不可能です。
つまり、体は男性に戻れても心は女のままという状態になってしまうのです。

そして、最近、女性から男性になった十名についても、いくら期間が短いからといって、再性転換した場合、脳が影響を受けていないという保証はどこにもありません。」


北見さんの話に、吉岡先生は何も言わずに深刻な表情を浮かべている…


もう、全てがサイアクだわ