新 或る実験の記録

飼い主

「我々は、この性転換プロジェクトが失敗だったと、内外に知らせることを目的として動いています。」


「何のために？」

リーダー格の男に質問する吉岡先生…

相変わらず毅然とした態度で臨んでいた。


「何のために…か

それは、私にはわかりませんねえ
クライアントの意向だという事以外は。」


やはり…
どこかの国に雇われたのか…または企業か…


「失敗だったと証明するのに何故ワタシ達を拉致してきたの？

それだったら、他にやるべき事があるんじゃないの！

ファイン製薬のネットワークシステムに侵入するとか」


「まあ、そうですね

吉岡さん。
でもね、ワタシ達はプロジェクトそのものを潰してしまおうとまでは思っていないんですよ。」


「どういうこと？」


「今ここにいるお嬢さん達が無事に妊娠、出産をすると、この日本型性転換プロジェクトは、世界に先駆けて成功した事になります。

そうなると、現在国の内外で行われている、他社による実験は意味のないものとなり、その差を埋める事はほぼ不可能となります。」


「それでワタシ達を邪魔しようと？

でも、お生憎様
この実験に穴はないわ。
まもなく第一回目の実験が終了し、全世界にその成功のニュースが大々的に報じられる事でしょう。」

吉岡先生は淡々と語った。


「ほう

相当自信がお有りのようだ。

しかし、あなたの言う通り、本当に穴がないんでしょうか。

我々はそうは思っていません。

いや、あなた自身もそう思っているはずだ。」


「何をバカな事を！
そんなものあるはずが…」


「ありますよ。

だったら、今からそれを証明しましょう。

そのためにこんな所まで来ていただいてるのですから。」

リーダー格の男はニヤリと笑い、サングラスとマスクを外した。


顔を見せたぞ…
なんて大胆不敵なヤツなんだ。

ワタシの見立てでは、このリーダー格の男は、年齢三十代後半から四十代前半
口調は穏やかだが、その目つきは切れ長でやたらと鋭い。
まあ、一般人ではないな。

やはり、反社？


「吉岡さん。
これから我々がこの薬の重大な欠陥を指摘しましょう。

そうだなあ、誰がいいか…

キミにしよう。」

男は近くに全裸で座らされている絵里を指名した。

絵里は他のメンバーと同様に、ここに来てからずっとシクシク泣いていたが、いきなりの指名に、ビクンとして、思わず顔を上げた。


一体何をされるんだろう…

ワタシには見当もつかなかった。
しかし、吉岡先生は違った。

さっきまでとは違い、明らかに焦った表情に変わっていたのだ。

吉岡先生には、これから起きる事が把握できているようだった。