新 或る実験の記録

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吉岡センター長が講義を終えて出て行った後も、ワタシ達はその場に残り、話を続けた。

女十人が一斉に喋り出すと、やはりうるさい。



「でもさあ、先生の話聞いたら、これからのスケジュールって、けっこうハードだと思わない?

まだ心の部分でついて行けてない自分がいるわ。」


月村が言うと、リーダーの重岡は大きく頷いた。

「そうね。
まだ心とカラダのバランスが取れていないような気がするわね。

それはそうと、名前はもう決めた?」

「えっ、名前ですか?」

ワタシが重岡に聞き返すと

「そう、名前

もうすぐ改名するんだよ。
知らなかった?」

「はい…」


「ワタシなんて晃誠だし、この外見に見合った名前にしないと、世の中に出ていけないわ。」


「そうね。

ここへの入所が決まった段階で髪を伸ばしとくように言われたから、髪型はすぐになんとかなる感じだけど、戸籍の変更はねえ

性別と名前の変更は必須だよね」

本田はそう言って笑った。


そうか…

改名か…

ワタシはどうしようかなあ

ワタシの大好きな涼音の名前をいただこうかな…

いや、それも何か違うよね。


「そんな事よりさあ、このプロジェクトを巡る変な噂って聞いたことない?」

中島が急に声を潜めて言った。

「えーっ、知らないー」

十和田が言うと、中島はさらにヒソヒソ声で話を続けた。


「この性転換プロジェクトって、吉岡先生の拉致事件にもあったように、悪い噂ばかり聞くじゃん。」


「そうだね」


「あのときは、老齢者人口の間引きなんて事も続けて起きたから、余計に印象が悪くなったって聞いたけど。」

「そうね。
政治家が絡んでたし…
っていうか、現職の総理大臣がその犯罪行為に手を出したっていうヤバイ事件だったよね。」

皆が口々に意見すると、中島は一々頷き、そしてまた話し始めた。

「ワタシ、こう見えても性転換する前は警察官だったのよ。」

「えっ、中島さんて警官だったの?

吉岡先生と同じじゃないの」

重岡が驚いて聞くと、中島は頷いた。

「性転換プロジェクトが正式に発足するって発表された後、それに纏わる事件ていうか、変な事が立て続けに起きてね。」

「そうなの?」

「ええ。
ワタシみたいな末端の者が耳にするくらいだから、相当だよ。」

「具体的には、どういう事?」


「ワタシもよくはわからないけど、ただ一つ言える事は…
このプロジェクトの成功を望んでいない人達が存在するってことかしら。」

中島の言葉に、皆は言葉を失った。

成功を望まない人?

そんなのいるのかなあ。

ワタシは俄かに信じがたいと思いつつ、話を聞いていたが、それが本当の事だったと思い知る出来事が起きたのだった…
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