或る実験の記録

社是

事の真相に辿り着くにはやはり中野の口を割らせない事にはどうにもならないというのはよくわかった。

しかし、現実問題として不可能であろう。
いくら中野に従順にしていても、この事件の闇は深そうだ…

しかし、研究本部の連中は些か甘いところがあって、私がいるところでも、けっこう大事な話をしたりする。

やはり本丸に向かう前に少しでもここで情報収集をした方が得策か

私は堀口を飲みに誘わせるように持っていき、上手く外で会う事が出来た。

この堀口という男は真面目を絵に描いたような男で、飲みの席でも仕事の話を熱心にする。

「吉岡さん
例えば今、二十歳の人が100万人いるとします。
男女比半々として女性は50万人です。

日本の出生率を1.0とした場合、生まれてくる子供の数は単純に考えて何人になります？」

「50万人ですか？」

「そうです。つまり、この年代の人たちは50万人しか出産しません。

このペースがつづくと、25万、12万5千、6万2千5百と半減し続けるんです。

こう考えると、人口の減少のスピードが恐ろしく早いという事がわかりますよね。」


「恐ろしいですね。」


「先進国と呼ばれるような国は軒並み2.0を切っていますので、どこも安泰とは言えないですが、日本や韓国はその度合いが酷くて、何かしらの手を打たないと国が成り立たなくなるのも時間の問題です。」


「そうですね」


「少子化対策が効果を示さなかった事で、その責務は我々のような民間に託されたんです。
その一つが性転換の研究であり、もう一つのRH-3計画です。」


「RH-3計画？」

「あっ…」

堀口はしまったという顔をしたが、ここを逃す手はない。

「堀口さん。多分、私の事を信用していただいてないとは思うんですけど、私も今はファイン製薬の一員として役に立ちたいと思っていますし、この体だって研究のためなら差し出して、どんな風にされてもいいって思ってるんです。

でも、その根本のところが知らされてないと、私自身、何をしているのか、役に立っているのかもさっぱりわかりませんし…」


「吉岡さん…」


「ごめんなさい

そんな事を堀口さんに言っても困っちゃいますよね

もう一軒行きましょ。」


そう、もう一軒とは…