或る実験の記録

同僚

私はファイン製薬にまんまと入社する事ができ、今日で三日目を迎える。

三日目にして初めて、昼休みに美優がコンタクトを取ってきた。

LINEで呼び出され、会社の前にある公園に行くと、美優がベンチに座っていた。

「美優」

美優は顔を上げ、私を見るとニヤッと笑った｡  


「何よ、ナオ
またキレイになったんじゃない？」
　

「そんなことないわ。

横、座っていい？」

美優は頷き、少し体をずらして私のスペースを作ってくれた。
　

「それにしても、アンタ
上手くやったわね。ウチの会社に入るなんてね。」

「背に腹はかえられないからね。」

「まあ、いいわ。
で、どうなの？
高山から言われた件は」


「ううん。まだ、全然…」


「入社三日目だもんね、ムリもないわ。」

「美優の方はどうなの？」

「そうね。

例の性転換薬は手に入れられそうよ。」

「すごいじゃない！」

「やっぱり、非正規ルートを使っての治験をやるみたいで、わりと簡単にいただけると思うよ

ただ、もう一つのプロジェクトについての話が全然こっちに伝わってこない。

ワタシも色々動いてんだけどね、性転換薬どころのガードの固さじゃないわ。

ヒントすら掴めてない。」


「そのプロジェクトのキーマンていうか、どこの部署が中心となってるかもわかんない？」

「そこは何となくわかる。

多分、研究本部の中の、そうね
バイオ医薬研究部かバイオロジー基礎研究部が怪しいわね。
いえ、間違いないと思う。」

「ありがとう」


「ナオ、あんた
またカラダを武器にして近づこうとしてる？」
　　

「だって、私にはそれしかないんだもん。」　　
　

「ワタシがこんな事言うのもおかしな話なんだけど、あなたも結婚前の女性には変わりないんだから、もっと自分を大切にしなさいよ。」


「ご忠告ありがとうね。

でも、元男だし、その辺の貞操観念はあまりないんだよ。」


「そんなものなのかなあ」

「そんなものよ。
じゃあ、そろそろお仕事に戻るね。

美優もあんまり無理しないようにね。」

私がそう言うと、美優はまた意味ありげな笑みを浮かべ、片手を挙げた。

美優って利害が一致してるうちは良いけど、敵に回すと厄介だよなあ…