或る実験の記録

フロイライン

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密使

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高山は私とその中年女性を交互に見て

「二人は面識があったんだったね。
紹介しなくてもいいか。」

と、言った。

「いえ、私は存じ上げませんけど」

本当に知らない人だったので、そう言うと、高山は笑った。

「このおばさんは伊藤先生だよ。
キミに注射をバカ打ちされたらしいね。」   

「えっ」

すると、中年女性は私を睨みつけた。

「よくもやってくれたな!
吉岡奈緒!お前のせいでもうめちゃくちゃだ!」

声は甲高くなってるけど、たしかに面影はある。

へえ、中年男が性転換するとこんなふうになるのか


「まあまあ、伊藤先生
やり返そうにも今は非力で何も手出し出来ませんよ」

高山は笑いながら言うと、伊藤の胸を後ろから両手で揉んだ。

「や、やめろ!バカ

あっ、あっ、あんっ!」

激しく抵抗していた伊藤だったが、すぐに変な喘ぎ声を出し始めた。
その気持ちはよくわかる。

「二人とも、ここは手打ちということで、ね?」

高山は私と伊藤を座らせると、お茶の準備をしながらそう言った。


「高山さん、一体どういうつもりなんですか?」

腑に落ちない私は、高山を詰問しようとしたが、高山は手で制して、私と伊藤にお茶を差し出した。

「奈緒君
キミの言いたい事はよくわかる。だが、事態はあまり良くない方に転んでるのは間違いない。」

「どういう事ですか?」

「君達が伊藤先生を監禁して全部吐かせた事で、風向きが変わってしまってね。
伊藤先生は粛正され、キミのお仲間や私も同じようにされる可能性があるんだよ。」

「じゃあ、私もって事ですね」

「いや、キミは安全だよ。行動制限はかけられることがあるかもしれないがね。」

「なんで、私だけが安全だと言えるんですか?」


「キミはこの計画のアダムとイブのような存在だからさ。」

「よくわかりません。」

「まあ、そのうちわかってくる。
そうですよね?伊藤先生」

「ああ。そうだ
お前は多分この先何があっても命の保証はされるだろう」

「そこで、あらためてキミにお願いしたい事がある。」

「なんですか?」

「ファイン製薬に潜入し、開発中の薬を入手して欲しい。」

「そんなの無理に決まってるじゃないですか。
ファイン製薬なら、創業家の伊藤先生が適任じゃないんですか?」

「私はダメだ。
創業家といっても今は名ばかりで、実権は社長一派が持っている。」

「どう考えても無理です」

「一人でやれといってるのではない。
青木君にも協力させる。」

「美優が?」

「ああ。青木君は出世の為なら何でもすると言っていたのは覚えていると思うが、全ては金のため。
出世=金。逆に言えば金さえ手に入れば、出世なんてどうでもいいということだよ。」

「たしかに美優はファイン製薬の社員ですから、動きようがあると思いますが、私は向こうにとっては言うことを聞かないテロリストみたいなものです。
私に出来ることなんてありまさんよ。」

「わかってないな。
キミはこの計画の肝となる人間なんだよ。
言っただろ?アダムとイブだって。

ファイン製薬の社長に会い、恭順の姿勢を示せ。
それだけで、相手の考えもガラッと変わるはずだ。」


高山は自信ありげに言ってのけた。

「それで、私が手に入れなければならない開発中の薬とは?」

「性転換薬さ

女から男にする方のな。」

高山は伊藤に視線を送りつつそう言った。
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