或る実験の記録

フロイライン

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あれだけ各方面に圧力がかかり、辿り着くことも糾弾することもほぼ不可能だった伊藤の罪が、あっさりと表面化した。

それも一日も経たないうちに

何かある。
伊藤は切られた?

では、誰に?

伊藤よりも権力を持っている者がいる?


わからない…

何が何だかさっぱりわからない。


私はテレビに映し出される拉致事件のときの映像と、伊藤の顔写真を見ながら、考えをまとめようとしたが、何も結論付けることは出来なかった。

沢渡さんが言ったように、今まで以上に何か自分達の身に危険が迫ってるような気がしてならない。

ここは自重した方がいいのか?

いや、今もどこかに潜伏してると思われる石津さんの事も心配だし、私が止まるわけにはいかない。


それでも二週間は何も出来ずに、周りの様子を見ることしか出来なかった。

何の進展もなくすごした無為の日々は、結局自分自身をイライラさせ焦りばかりを呼んだに過ぎなかった。

よし、今日から動こう!

そう決めた私は身支度を整えると、家を出てファイン製薬に向かった。

そこしか思いつかなかったのだ。


でも、家を出た直後からただならぬ何かを感じる。
尾行されてる?

やはりマークされてるのか…

よし、次の角を曲がったら一気に走り出そう。

そう考えていたまさにそのとき、まあまあのスピードで走ってきた車が横付けしてきた。

そして、助手席の窓が開くと、運転席の方から

「早く乗れ!」

と、いう声がした。

覗き込むと…

「高山!」

だった。

私をこんな体にした憎き男
でも、何故だか、私は高山に言われた通り、車に乗り込んだ。
乗るべきだと考えたのだ。

高山は私を車に乗せると、急発進した。


「高山、一体どういうつもり?」

私は怒りに包まれながら高山に質問したが、高山は至って冷静な感じで次のように答えた。

「詳しい事は後から話すが、今、君達もそうだが、私も些か立場が悪くなっていてね。
下手したら消されるかもしれない。」

「どういう事?」

「まさか、君達がパンドラの匣を開けるとは思ってもみなかったんでね。」

「私達が?」

「伊藤先生を監禁して全部吐かせたんだってね。」

「そうよ。」

「私はね、純粋なる研究者であって、日本の人口問題がどうなろうと、全く興味がないんだよ。自由に研究が出来る環境が欲しかったから、色々と協力をしたんだがね。


ほら、着いたよ。」


車を走らせる事三十分、着いたのは古ぼけた廃院だった。

「あ、ここは…」

「石津って刑事とここにも来たよね?
私を捜すために…

廃院になっているのを見て諦めて帰っていったけど、ここが私のアジトさ。
青木美優君と一緒にキミを診察するために拉致してきたのもここだよ。」

高山は相変わらず冷たく細い眼光を眼鏡の奥で光らせながら、楽しげに笑った。

「外観は汚いけど、中はキレイにしてあるから心配ないよ。
地下には寝泊まり出来る部屋もあって、なかなか良い物件なんだ。」

高山は裏口から鍵を開けて中に入ると、そのまま地下に通じる階段を降りていった。
私もその後を付いていくと、ドアが出てきた。

そこも鍵がかかっており、高山は別の鍵でドアを開けた。

中は思いの外キレイで、少し広めのホテルの部屋って感じだ。

でも…

私は一瞬、入るのを躊躇してしまった。

部屋の中に人がいたからだ。

中年女性で、デニム姿でスポーティーな感じがする。
キャップを目深にかぶってるからどんな顔かはわかりにくく、髪も短めだ。
でも胸が大きいから男性ではなく女性ということはよくわかった。
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