或る実験の記録

フロイライン

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千載一遇

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チャンスは突然訪れた。
こちらが油断して何も準備出来ていない状況で。

岸辺が慌ただしく走り、接客中のマリアと結衣のところに飛んできて、耳元で何やら話をした。

通路を挟んで隣りのボックスで、ベンチャー系企業の社長を相手にしていた私は、ただならぬ雰囲気を感情じ、視線を受付の方にやった。

(!)

伊藤がいた。
伊藤がボディーガードと二人で入ってきたではないか。

伊藤はVIP席に案内されていった。

どうやら、ナンバー1のマリアさんとナンバー2の結衣さんが付くようだ。

それはそうだよね。

私は納得しながらも、せっかく訪れたチャンスをものに出来ない状況に焦りを感じた。


「もう、なっちゃん、よそ見ばっかりしないでよ」

意識が完全に向こうに行ってる私を見て、ベンチャー系企業の社長の伊丹さんが、少しイラっとして声をかけてきた。

「ごめんなさい!社長

今、あそこを歩いてった方って、民国党の伊藤先生でしょ?
以前に外務大臣をしてた…」


「そんなの知らないよ。
政治家なんてどいつもこいつもロクなもんじゃない。

俺たちが頑張って稼いだ金をドブに捨てるのが奴らの仕事さ。」

「辛辣ですねえ」

「事実だよ、事実

でもなっちゃんて、若いのに政治とかに興味あるんだねー」

「そんな事ないです。
最低限のことしか知らないです。」

私は伊丹のグラスを受け取り、おかわりの水割りを作りながら話した。

それから一時間、私は伊丹さんに付いたままじりじりとした時間を過ごしたが、この後人と会う約束をしてたらしく、ようやく帰ってくれた。


とりあえず私はトイレに行き、沢渡さんに電話を入れ、伊藤が来た事を知らせた。


「そうですか、ついに現れましたか!」


「はい。残念ながら私は付く事が出来てませんけど」


「諦めないで下さい。例のものは持ってますか?」


「勿論持ってきています。」

「わかりました。何か進展があれば教えて下さい。

私の方から愛さんと宮川さんには連絡しておきます。」


「よろしくお願いします」


私は電話を切り、現場に戻った。

まさか、もう帰ってるとかないよね…

私は入口の方に視線を送りながら歩いていると、急に視線が遮られた。

マネージャーの岸辺が私の前に立ちはだかったからだ。

「なつみちゃん!」

「はい?」

「ちょっとヘルプで付いてくれない?」

「どうしてんですか?」

「いや、さっきVIPルームに通したお客様が政治家の方で、、マリアちゃんと結衣ちゃんを付けたんだけど、結衣ちゃんが何か知らないけどお客様を怒らせちゃって、チェンジしろって。」

「えっ」

「いつもはあんなんじゃないんだけど、今日は来た時には既に酔ってらっしゃってて。

多分政治談義でもしたんだと思うんだけど、結衣ちゃんて、ほら、バカじゃない?
変な事言ったんじゃないかなあ。
とにかく、ボクについて来て。紹介するから、くれぐれも粗相のないようにね。
なつみちゃんはその辺は大丈夫だと思うけど。」

「わかりました。」

なんという幸運!

いきなりチャンスが巡って来た!
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