或る実験の記録

核心

「なるほど、ファイン製薬の社長がそんな事を…」

沢渡さんと例のカラオケボックスに入った私は、この一週間に起きた出来事を報告した。

「これ以上、どう動けばいいか…八方塞がりで。」

「ええ。こちらも表立った進展はありません。出版社の方にも圧力が加わってますし。
あそこの編集長は反骨精神のある人なんですが、その人をして私にこの件から手を引いた方がいいと言う。」

「そうなんですか…」

「ですが、やはり伊藤がこの事件の真相を握ってるのは間違いないと思います。

私は伊藤を徹底的にマークしてみます。」

「よろしくお願いします。

ところで沢渡さん、事件の黒幕が前政権党の民国党だとすれば、現政権は信用できる対象となり得るのでしょうか？」

「そうですね。
伊藤を失脚させたのも、友政党が掴んだ情報を元に国会で徹底的にやったからですし、この拉致事件が一応の収束を迎えたのも政権交代をしたからだと思います。
少なくとも、友政党は事件には絡んではいないと思いますよ。」
　

「私が解放されて帰国した時、友政党の人にすごくお世話になったんですが、その方に連絡して協力を請うというのはどうでしょう？」

「それはいけるかもしれませんね。
選挙も近いですし、友政党としても第一野党の民国党を叩ける材料を欲しがってるはずです。」

「わかりました。
早速連絡してみます。」

険しくはあるが、少しだけ進むべき道に光明が見えたような気がした。