或る実験の記録

フロイライン

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黒い世界

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待てど暮らせど石津さんは来なかったが、夜になってようやくインタホーンが鳴った。

私はモニターを見てそれが石津さんだと確認し…

それは石津さんではなかった。
男二人が映し出されてる。

通話ボタンを押し
「はい」
と、言うと、前に立っている方の年長者に見える男が

「西警察署の者です」

と、言い、バッジホルダー式の身分証をかざした。

私とて元警察官である。疑う余地はなかったので解錠した。

刑事二人を玄関に通し、何事かと聞こうとしたが、さっき身分証を提示した方の刑事が神妙な顔をしつつ、私に写真を見せてきた。

「この男をご存知ですね。」

それは石津さんの写真だった。

「はい。石津さん…です」

「最後に会われたのはいつですか?」

「ちょっと待ってください。あなた方が来られた事とご質問の意味がわからないんですけど。」

「吉岡さん、でしたね。
あなたも我々と同じ警察の人間だったので全てをお話しますが、この石津 秋生を殺人容疑の重要参考人として捜しています。」

「殺人?そ、そんなバカな」

「いえ、そう言えるだけの証拠は揃っています。
それに、潔白なら何故姿をくらませて逃げているんでしょうか。」

もう一人の若い方の刑事が後ろから口を挟んだ。

「吉岡さん、石津が最近あなたと行動を共にしていた事は我々も把握しています。
もし、あなたに連絡を取ってきたら必ず警察に知らせて下さい。」

「石津さんが殺人なんてするわけないですし、する理由もありません。
もし、連絡してきたら必ず潔白を証明します。」

「ええ。そうであって欲しいと願ってますよ。
石津とは知らない仲でもないんでね。」  

刑事二人はそれから暫くして帰っていった。


石津さんに限ってそんなことするわけない。何者かに嵌められた?
だとしたら、何のために…

私は考えを巡らせたが一向に答えは出なかった。


そのときだ。

不意に私の携帯が鳴った。

思わず手に取り損なうほど慌てた私だったが、電話の主が石津さんではない事を確認して、気を落とした。

相手は美優だった。


「もしもし」

「あ、ごめん。
今大丈夫?」

「大丈夫だよ。どうしたの?」

「うん。ここのところ仕事が忙しくて全然ナオに会えてなかったから。」

「そんなの仕方ないよ。」

「あのさあ、今から行ってもいいかな?」

美優にそう言われたが、私は石津さんの事が気掛かりで断りたかった。でも、今はどうする事も出来ないし、やっぱり美優の事が好きだったので、その申し入れを受け入れたのだった。
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