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隠蔽
しおりを挟むすべての検査が終了しいつ退院しても良い状態になったが、私は依然として病院内から出ようとはしなかった。
正直なところ、外に出るのがまだ怖かったからだ。
そして、数日後、私の不安が的中することになる。
その日の朝食後、私は談話室でミツルと話をしていた。すると、宮川が慌てた様子で中に入ってきたのである。
大きな目をぎょろつかせ、額から大粒の汗が流れ落ちている。
「大変です!」
宮川のただならぬ様子に私は椅子から立ち上がった。
「宮川さん、そんなに慌てて一体どうしたんですか?」
「あなた達のことがマスコミに知られました!」
「ええっ!! 本当ですか!?」
今回救出されたメンバーの中で、私やミツルのように完全に女性化した人間は、マスコミの格好の餌食になるということで、本人の希望を聞いた上で、安否の公表をまだ控えていた。
世間では、私達みたいな被害者がいるとはまだ誰も知らず、連日報道されていたのは、炭坑で強制労働させられて亡くなってしまった人達についてのことだった。
私の家族や美優も多分私が炭坑で強制労働させられて亡くなったと思い込んでるに違いない。
けれども、こうして生きている以上、いつまでもこうしてはいられないのはわかっている。ただ、今はまだ
心の準備が全く出来ていない。私とミツルは困惑の表情を浮かべて見つめ合った。
宮川が言うには、あれほど箝口令を敷いていたにもかかわらず、先に退院した、ほとんど女性化していなかった連中の誰かがマスコミにリークしたのだと…
「宮川さん、どうしましょう?…」
ミツルが聞くと、宮川は
「私がなんとかしますから、心配しないで下さい!」
と言い残して、その場を去っていった。
その日の昼のワイドショーで、島で女性化されてしまった男達がいるという話題が出たのを皮切りに、ありとあらゆる媒体に私達のことが取り上げられた。
しかし、マスコミは、それ以上新たな情報を得ることが出来なかったのか、次第にその話題は都市伝説の類いに成り下がり
報道される機会も徐々に減ってきていた。
私達はホッと胸をなで下ろした。けれども、私もミツルも、ここでの生活に別れを告げる日が近づいていることを感じていた。
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