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変身
しおりを挟む時刻は午後9時を指し示している。
俺は美咲さんから出してもらったコーヒーを飲みながら、依然として落ち着かない気分で視線をキョロキョロさせていた。
「ユキちゃん、ここに連れて来たのはね、ちょっとお化粧とかしてあげようっと思ったからなの。」
「化粧!?」
「今日会ったばかりだから、ユキちゃんも変に思うかもしれないけど、なんか私嬉しくって。」
「それはどうも…でも僕はそんなに期待してもらうほどの人間じゃないですよ。」
「とにかく私に任せてみて。見たところ、身長も私と同じくらいだから服も合うと思うの。
気に入ったのがあったら持って行ってね。」
うーん 、美咲さんペースだな。もう、なるようになれって感じだ。
「じゃあお願いします…」
俺は美咲さんがいつも使用してると思われる大きな鏡の付いたドレッサー?に座らされ
メイクを施されることになった。
美咲さんは俺の前髪をピンで留めると、手際よく何かわけのわからないものを塗ってきた。それから筆みたいなものとか鉛筆みたいなものを取り出して、まるで俺の顔に絵を描くようにどんどん進めていった。
「視線を上に上げて。」
「あ、はい…」
目の下のところに何か描いてるぞ。
「うん。 良い感じよ」
どうやら化粧が終わり、カツラ? ウィッグ?ってのを俺の頭に被せて完成となったようだ。
俺は出来上がりまでなるべく鏡を見ないようにしていたが
「どう?」
美咲さんに促されてようやく鏡の中にいる自分と視線を合わせた。
「!」
正直言って背中に電気のようなものがビビビッと走った。
「ユキちゃん、やっぱり私の目に狂いはなかったわ。」
「これが、僕… ですか…」
鏡の向こう側には見慣れてきた俺ではなく
女の子がいた。
自分で言うのもアレだけど 、可愛い!
多分美咲さんの腕が良いからだと思うけど。
「私の言った通りでしょ!
感想を聞かせて欲しいわね。」
「ビックリしました… 自分とは思えないですよ。」
美咲さんの強い誘いを受けて、言わば受け身状態で来た俺だけど、この時点で初めて自分からやる気になった。
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