泥々の川

フロイライン

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静かなる日々

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ジローが死んでから、失意の日々を送る久美子だったが、時は過ぎていき二ヶ月が経過した。


今まで通り普通に暮らす事が、ジローへの手向けになると考えていた久美子だったが、仕事をする気にもならず、ジローの遺品を整理したり、残していた飲み屋のツケや、その他支払いなどをしょりしながら日々を過ごしていた。

そんな久美子の状態を心配して、父の誠が生まれて初めて東京に出てきた。



「おう、久美子!」


東京駅のホームでキョロキョロしながら不安そうにしていた誠だったが、久美子の姿を見つけると、急に強気な表情になり、手を挙げて声をかけた。


「お父さん

久しぶりやね。」


「せやなあ。二ヶ月ぶりか、会うの。
葬式に行かれんですまんかったな。

元気にしとったか…

元気なわけないか…」



「うん。
正直言うて、元気はないわ。

でも、いつまでも塞ぎ込んでもいられないし、頑張らないね。」


「おう、その意気や。

ところで例のアレは手に入ったんか?」


「うん。
テレビ局の人に頼んで貰ってきたよ。

今夜のヤクルト阪神戦のチケット」


「おう、でかした!

二十一年ぶりの優勝っちゅう劇的な場面を目に出来るんやから、俺はラッキーや。
もう思い残す事はあらへん。」

「もう、大げさやねんから。

でも、お父さん、元気そうでよかったわ。」


「おう。

俺がこんなこと言うてられんのも、全部お前のおかげやねんもんな。

ホンマにありがとう。」


「お父さんはいつまでも元気でいてね…

ねえ、試合までまだ時間あるし、ご飯でも食べに行けへん?

お父さんもお腹空いてるやろ?」


「そやなあ。
ほな行こか。

何処に行く?」


「新宿にしよっか。」


「名前だけは聞いた事があるわ。

新宿なあ。

大阪で言うたらどの辺りとおんなじや?

梅田か?難波か?」


「お父さん、大阪の人ってすぐそう言うんやけど、東京と大阪は比べもんにならへんねん。

新宿と同等な街なんて、日本中何処探してもあらへんわ。」


「なんや、クソっ

けったくそ悪いなあ。」


誠は大阪人らしいリアクションで久美子を笑わせた。


ずっと塞ぎ込んでいた久美子だったが、父のおかげで少し気分が晴れたのだった。
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