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長い夜
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「ジローさん、遅いなあ。」
久美子は、腕時計を見つめながら呟いた。
「そんなもん、飛行機やろ?
遅れるに決まっとるやないか。
こっちに来るんも阪神高速が混んでたら、全然進まんしな。」
「それもそうね。
先に始めといてって言われてるから、お料理出してもらう?」
「いや、初めて会うわけやし、待っとくわ。
お前もその方がええやろ。」
「うん。
ごめんね、お父さん。
ワタシ、ちょっと店の人に言うてくるわ。
一人遅れてるって。」
「あ、そやな。
段取りっちゅーもんがあるしな。」
久美子は席を立ち、個室を出ていった。
誠は久美子が出ていくと、手元のビールを一口飲んだ。
禁酒してもう何年にもなる誠だったが、久しぶりの酒は、一口飲むごとに内臓に沁みわたるような感覚にとらわれた。
「すいません。
連れの一人がちょっと遅れていて…
もう少しだけ待っていただいてもよろしいですか?」
久美子は、店の女性に申し訳なさそうな表情で言った。
「大丈夫ですよ。
金田さんには昔からご贔屓にしていただいてますからね。」
「ありがとうございます。」
久美子は深々と頭を下げた。
そのとき、前の方から声をかけてくる男性の姿があり、久美子は慌てて顔を上げた。
「いらっしゃいませ。
この店の主人の、川田と申します。」
「あ、すみません。
時間に遅れてしまいまして。」
「いやいや、かまいませんよ。
金田さんとは、三十年来の友人でね。
ずっと懇意にさせてもろてますさかい。」
「そうだったんですね。
それにしても本当に申し訳ございません。
今日は彼だけ東京で、ワタシ達は大阪からだったもので。」
「そうやったんですか
東京から…
新幹線ですか?」
「いえ、飛行機です。」
「飛行機?
えっ…」
「どうかしはったんですか?」
「今、NHKのニュースでやってるんやけど、羽田発伊丹行きの飛行機がレーダーから消えた言うて…」
「えっ!」
「金田さんは何時の飛行機に?」
「18時です…」
「それとちゃうか!
6時12分に羽田を離陸したって。」
久美子は、真っ青になり、気を失いそうになった。
「こっちに来なはれ。
奥の部屋にテレビ置いてあるさかい。」
厨房の脇を抜けると、小さな部屋があり、中にテレビが置かれていた。
川田は、腕組みをしてテレビを見つめる初老の男に声をかけた。
「シゲさん、どないや?」
「こりゃあかんかもなあ。
どっかで墜落してもうたんとちゃうか。」
シゲと呼ばれた男は、難しい顔をして呟いた。
久美子は、腕時計を見つめながら呟いた。
「そんなもん、飛行機やろ?
遅れるに決まっとるやないか。
こっちに来るんも阪神高速が混んでたら、全然進まんしな。」
「それもそうね。
先に始めといてって言われてるから、お料理出してもらう?」
「いや、初めて会うわけやし、待っとくわ。
お前もその方がええやろ。」
「うん。
ごめんね、お父さん。
ワタシ、ちょっと店の人に言うてくるわ。
一人遅れてるって。」
「あ、そやな。
段取りっちゅーもんがあるしな。」
久美子は席を立ち、個室を出ていった。
誠は久美子が出ていくと、手元のビールを一口飲んだ。
禁酒してもう何年にもなる誠だったが、久しぶりの酒は、一口飲むごとに内臓に沁みわたるような感覚にとらわれた。
「すいません。
連れの一人がちょっと遅れていて…
もう少しだけ待っていただいてもよろしいですか?」
久美子は、店の女性に申し訳なさそうな表情で言った。
「大丈夫ですよ。
金田さんには昔からご贔屓にしていただいてますからね。」
「ありがとうございます。」
久美子は深々と頭を下げた。
そのとき、前の方から声をかけてくる男性の姿があり、久美子は慌てて顔を上げた。
「いらっしゃいませ。
この店の主人の、川田と申します。」
「あ、すみません。
時間に遅れてしまいまして。」
「いやいや、かまいませんよ。
金田さんとは、三十年来の友人でね。
ずっと懇意にさせてもろてますさかい。」
「そうだったんですね。
それにしても本当に申し訳ございません。
今日は彼だけ東京で、ワタシ達は大阪からだったもので。」
「そうやったんですか
東京から…
新幹線ですか?」
「いえ、飛行機です。」
「飛行機?
えっ…」
「どうかしはったんですか?」
「今、NHKのニュースでやってるんやけど、羽田発伊丹行きの飛行機がレーダーから消えた言うて…」
「えっ!」
「金田さんは何時の飛行機に?」
「18時です…」
「それとちゃうか!
6時12分に羽田を離陸したって。」
久美子は、真っ青になり、気を失いそうになった。
「こっちに来なはれ。
奥の部屋にテレビ置いてあるさかい。」
厨房の脇を抜けると、小さな部屋があり、中にテレビが置かれていた。
川田は、腕組みをしてテレビを見つめる初老の男に声をかけた。
「シゲさん、どないや?」
「こりゃあかんかもなあ。
どっかで墜落してもうたんとちゃうか。」
シゲと呼ばれた男は、難しい顔をして呟いた。
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