泥々の川

フロイライン

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些細なこと

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「お父さん」


「ん?」


「お父さんは好きな人とかおれへんの?」


「ワシかいな?

そんなんおるかいな。
こんなどうしようもないオッサンのことを誰が好きになるっちゅうねん」


「寂しないん?」



「お前がおるやないか。

さっきも言うたけど、お前がこうしてたまにでも訪ねてきてくれるだけで、俺は幸せや。」


「そう?」


「おう。

それよりも、今日の阪神の試合知ってるか?」


「いや、知らんけど。」


「広島相手に7対0から逆転勝ちや!

これはホンマに優勝するかもしれへんで。」


「へえ、そうやったんや。」


「なんや、久美子
お前興味ないんか。」


「えっ、ワタシ?

そーいえば、野球なんて全然見てへんわ。」


「子供の時、好きやったやないか。」


「あー、そういえば見てたね。

小学校のときは。


江夏とか好きやった記憶があるわ。」


「なんや、もう興味なくなってしもたんか。」


「女として生きるようになってから…

だから十五の時か

それくらいから全然見てないし、興味も湧けへんねん。」


「そうなんか。

お前の体も心も全部変わってしもたんやな。
ワシのせいで…」


「お父さん、その話はもう無しやって言うたやないの。

ワタシ、今の自分のことが好きやし、女として生きていくのも納得出来てるし、ちゃんと男の人のことも好きやもん。

何も後悔なんてしてへんから、そんなん気にせんとって。」


「久美子…

ホンマに申し訳ない。」


「今日、お母さんに会うたら、すごく幸せそうやってん。

だから、お父さんにも幸せになってほしいって思って…

好きな人がおらへんのか、聞いただけよ。」


「ワシはもうそういうのはええわ。

今、一人でおるのも自業自得なわけやし、せめてワシが不幸にした恵理子やお前が少しでも幸せに生きてくれたら、それでええねん。」


「お父さん。
ワタシは幸せよ。

お母さんも幸せやと思うし、これからは自分の幸せだけ考えて生きて。」


「ありがとうな。

久美子。

お前と週に一回会えるんが、ワシにとって最高の喜びや。」

誠はそう言うと、久美子を抱きしめた。


「お父さん…

ホンマ、長生きしてね…」

久美子も父の背中に手を回したが、昔に比べて、かなり痩せてしまっている事に気付き、驚きの表情を浮かべた。

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