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昭和六十年は、久美子にとって忘れられない年となった。
後に来るMr.レディブームの先駆けとなり、この年の番組は、ニューハーフ需要のほとんどを久美子が補った。
類稀なる美貌は、二十代後半に差し掛かろうとも顕在で、ニューハーフ美人枠は、ほぼ久美子のためにあると言っても過言ではなかった。
このような状況になったのは、久美子を脅かすライバルの存在がほぼなかったのが大きいと思われる。
久美子にビジュアル面で対抗できるのは、完全性転換をしていた松永友美子ただ一人であったが、とうの昔に引退しており、久美子を脅かす存在になり得る人材は皆無だった。
久美子は週七本のレギュラー番組と、単発で何本もの番組に出演し、個人事務所という事も相俟って、荒稼ぎしまくった。
そんな忙しい中でも、大阪でテレビとラジオでそれぞれレギュラーを持っており、週に一度は地元に必ず戻るスケジュールとなっていた。
それは、実家の父親を心配して、顔を見るためと、入院中の恭子を見舞う目的があった。
その日も、大阪に着くなり、久美子は、恭子の実家を訪れた。
「こんにちは。」
「久美子ちゃん
こんにちは」
恭子の母、淑子は、久美子を自宅に招き入れながら笑顔を浮かべて挨拶をした。
「久美子ちゃん
昨日テレビ見たわよ。
最近ホントに色んな番組に出てるわね。」
「おかげさまで。」
「これから病院に行くところなの。」
「ワタシもご一緒させていただいてもいいですか。」
「いつもごめんね。」
「いえ、ワタシも実家に帰りたいですし、こうして毎週大阪に戻れて嬉しいです。」
二人は地下鉄の駅に向かって歩き出した。
「恭子さんの様子はどうですか?」
「そうね…
四年もの間、ずっと薬漬けにされてたから、禁断症状が酷くてね…
毎日ホントに辛そうで、見てられないわ。」
「そうですか…
ワタシにさえ会いに来なければ、こんな事には…
本当に申し訳ないです…」
「久美子ちゃんは何も悪くないわ。
あの子も何も連絡せずに勝手に行ったのがいけなかったんだし…
それに、一番悪いのはあの鹿島洸平っていう犯人の男なんだから。
あれは悪魔よ。
私は絶対に許さない。」
「…裁判の方はどうなっていますか。」
「刑事と民事の両方で訴えてて、弁護士さんにお任せしてるんだけど、今回の事件は向こうとしては何も争う事もないし、当然全面的に非を認めているわ。
でも、今さら何をしてもらったってあの子の人生は元には戻らないわ。」
淑子は目に涙を溜め、悔しそうに言った。
後に来るMr.レディブームの先駆けとなり、この年の番組は、ニューハーフ需要のほとんどを久美子が補った。
類稀なる美貌は、二十代後半に差し掛かろうとも顕在で、ニューハーフ美人枠は、ほぼ久美子のためにあると言っても過言ではなかった。
このような状況になったのは、久美子を脅かすライバルの存在がほぼなかったのが大きいと思われる。
久美子にビジュアル面で対抗できるのは、完全性転換をしていた松永友美子ただ一人であったが、とうの昔に引退しており、久美子を脅かす存在になり得る人材は皆無だった。
久美子は週七本のレギュラー番組と、単発で何本もの番組に出演し、個人事務所という事も相俟って、荒稼ぎしまくった。
そんな忙しい中でも、大阪でテレビとラジオでそれぞれレギュラーを持っており、週に一度は地元に必ず戻るスケジュールとなっていた。
それは、実家の父親を心配して、顔を見るためと、入院中の恭子を見舞う目的があった。
その日も、大阪に着くなり、久美子は、恭子の実家を訪れた。
「こんにちは。」
「久美子ちゃん
こんにちは」
恭子の母、淑子は、久美子を自宅に招き入れながら笑顔を浮かべて挨拶をした。
「久美子ちゃん
昨日テレビ見たわよ。
最近ホントに色んな番組に出てるわね。」
「おかげさまで。」
「これから病院に行くところなの。」
「ワタシもご一緒させていただいてもいいですか。」
「いつもごめんね。」
「いえ、ワタシも実家に帰りたいですし、こうして毎週大阪に戻れて嬉しいです。」
二人は地下鉄の駅に向かって歩き出した。
「恭子さんの様子はどうですか?」
「そうね…
四年もの間、ずっと薬漬けにされてたから、禁断症状が酷くてね…
毎日ホントに辛そうで、見てられないわ。」
「そうですか…
ワタシにさえ会いに来なければ、こんな事には…
本当に申し訳ないです…」
「久美子ちゃんは何も悪くないわ。
あの子も何も連絡せずに勝手に行ったのがいけなかったんだし…
それに、一番悪いのはあの鹿島洸平っていう犯人の男なんだから。
あれは悪魔よ。
私は絶対に許さない。」
「…裁判の方はどうなっていますか。」
「刑事と民事の両方で訴えてて、弁護士さんにお任せしてるんだけど、今回の事件は向こうとしては何も争う事もないし、当然全面的に非を認めているわ。
でも、今さら何をしてもらったってあの子の人生は元には戻らないわ。」
淑子は目に涙を溜め、悔しそうに言った。
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