泥々の川

フロイライン

文字の大きさ
上 下
205 / 264

拡がり

しおりを挟む
「八尾さんのおっしゃった通り、今度の生放送で、一般からの情報提供がどれくらいあるか…」

久美子は、ジローとスタジオを出て歩きながら呟くように言った。


「そうだな。
だけど、テレビの力は絶大だよ。今の世の中、テレビを上回る媒体なんて存在しない。
俺も期待できると思う。」

ジローは、久美子を励ますように言い、その肩に手を置いた。


「ジローちゃん、ほんまにありがとう。

ジローちゃんがおれへんかったら、ここまで辿り着く事ができへんかったわ。」


「アホ、礼なんか言われる筋合いなんかないで。
俺がやりたくてやってるねん。」


「何よ、そのヘタな関西弁は。
ひょっとしてバカにしてる?」


「してへんしてへん」


ジローは楽しそうに笑って言った。


「江藤さんの方は進展してるんやろか…」
 

久美子は別行動で調査をする江藤の進捗具合を気にしていた。





江藤は、その日の晩も例のバーに行き、カウンターで、バーテンダーの後藤と話をしていた。


「この店気に入っちゃって、今週はこれで3回目だよね。」


「ありがとうございます。

気に入っていただける要素はそんなにないと思うんですけどね。」


後藤は自嘲気味に言って笑った。


「いや、雰囲気がいいよ。

最近、こうやって落ち着いて飲める店ってのが少なくなったよね。
特に新宿では。」


「まあ、この辺も若者の街に様変わりしましたのでね。

ワイワイ騒げる居酒屋なんかが人気ですよ。」


「アレは俺らみたいな年齢の人間からすると、どうもいただけないなあ。

店入って、横に大学生の集団なんかがいた日にゃあ、目も当てられない。」


「たしかに」

後藤が笑うと、江藤もタバコを吸いながら口元を緩めた。


そのとき、店のドアが開く音がして、客が入ってきた。

江藤は、タバコを灰皿に置き、横目で入口の方を見て、心の中で

(ビンゴ)

と、呟くように言った。


入ってきたのは、先日カップルで来ていた、コウちゃんと呼ばれていた男の方だった。

女は今日はいない。

やはり、ここで新宿龍神会の梁川と会う約束をしているのだ。

江藤はこの状況に、高揚しながらも、少し緊張気味にその時を待った。

ヤクザと二十代の若いサラリーマン

この二人がなぜ結びついているか…

その理由を考えながら…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

交換した性別

廣瀬純七
ファンタジー
幼い頃に魔法で性別を交換した男女の話

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...