泥々の川

フロイライン

文字の大きさ
上 下
198 / 264

Forget-me-not

しおりを挟む
「今日は結構収穫があったな。」

「うん。」


久美子は、ジローの言葉に頷いた。

二人は前日と同様、食事をして帰宅する流れになるかと思われたが


「ジローちゃん、申し訳ないんだけど、先に帰ってもらってもいい?」

久美子が申し訳なさげにジローに言った。


「どうした?」


「ちょっと、ワタシ
行きたいところがあって…」


久美子がそう言うと、ジローは意外な表情を浮かべたが、すぐに、全てを察したようで


「わかった。
俺はちょっと飲んでから帰るわ。

あんまり遅くなるなよ」

と、久美子に言って、新宿の街に消えていった。

久美子はジローの配慮に感謝しつつ、タクシーに乗り、東へ向かった。





目的の場所に着いた久美子は、先程買った花束を地面にそっと置き、静かに手を合わせた。

彼女が訪れていたのは、最愛の陽介が亡くなった現場…
メニーズ事務所の前だった。

まだまだ立ち直れていないという自覚を持つ久美子だったが、日々の忙しさにその身を預けるようにして、意識をそこに持って行かないようにしていた。

しかし、上京してからは、また心の奥底にしまっていた思い出が湧き出てきて、たまらずここに足を運んでしまったのだ。

ここに来たからといって心の傷が癒えるわけではなく、余計に辛い気持ちになる久美子だったが、今、捜している恭子の事で、力を貸してもらえるよう陽介にお願いをした。


久美子はもう一度手を合わせ、そしてその場を離れていった。

しかし、その様子を背後でじっと見ていた男が、すれ違いざまに話しかけてきた。


「すいません

友谷久美子さんですか?」


と…


ビクッとして視線を向ける久美子だったが、その中年男性には全く見覚えがなかった。

少し前までテレビにも出ていたタレントだったのだから、たまに声をかけてくれる人もいる。

久美子は、その類いの人だと思い、笑みを浮かべて会釈をした。


「私は、樹陽介のマネージャーをしていた竹内というものです。」


男はそう自己紹介をした。


「えっ…」


「陽介があなたと付き合っていた事は知っていました。

なんて言っていいのかわかりませんが、今更ですが、こんな事になり、本当に申し訳なく思っています。」


竹内は久美子に深く頭を下げた。


「いえ…

別に竹内さんが悪いわけでは…」



「いや、そうではありません。

自分が担当していたタレント二名が死んでしまったんです。
私の責任です…

全ては私が自分の事しか考えず、彼らの気持ちをわかってやれなかったから…」

竹内は弱々しく久美子にそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...