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優しさの半分は
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「久美子…
そんな事言ったら俺、信じてしまうぞ」
久美子の言葉に、ジローは驚いた様子で聞き返した。
「ええんよ。
ワタシ、ジローちゃん見てたらウチのお父さんとダブってしもて、放っておかれへんのよ。」
「同情してくれてるのか…」
「うーん…
同情ってわけやあらへんけど、ワタシの中のこの感情を上手く口で説明出来へんわ」
「そうか。
それはどっちでもいい。
俺にとっては嬉しい事だよ。」
「ジローちゃんは寂しがり屋さんやいうの、ワタシようわかってたからね」
「久美子には全部お見通しか。
でもな、お前にはお前の人生があるから、添い遂げて欲しいなんて虫のいい事は思っちゃいないんだ。
ただ、せめて俺の財産をお前に相続してもらいたいんだ。」
「ジローちゃん…」
「俺は四人兄弟の末っ子でな
兄貴や姉貴は、もう死んじまってこの世にいない。
子供もいないし、女房に幾ばくかの金を残せればいいと考えていたんだが、俺より先に逝っちまった。
だから、久美子
お前に受け取って欲しいと思ってる。」
「ジローちゃん
気持ちはすごく嬉しいけど、ワタシ…
受け取れないわ。
それに、ワタシは男だしジローちゃんと結婚なんて出来ないわけだから…」
「そんな事はわかってる。
だけど、養子縁組って形を取れば何も問題ねえだろ?」
「養子縁組?」
「ああ。
お前は俺の息子になるんだ。
そして、俺の財産は全部お前が相続する。
これでどうだ?」
「そんな事…」
「じゃないと、俺に向けてくれたお前の優しさに報いる事が出来ねえからな。」
「でも…」
「お前とやりたいとか好きだとかそういう関係は求めちゃいない。
お前という素晴らしい人間と家族になりたい。
ただ、そう思っているだけだよ。」
ジローの思いに、久美子はどう反応していいかわからず、戸惑いの表情を浮かべたが、言葉を返す代わりにジローにしがみつくようにして抱きついた。
二人はまた激しく愛し合い始め、家を出るのが大幅に遅れてしまった。
その頃、江藤は、朝早くから再び新宿の街を訪れ、調査を始めていた。
昨日も感じたが、やはりこの街にヒントがある。
江藤の探偵としてのカンが、彼にそう命じていたのだ。
だが、四年という月日は、そのカンさえ鈍らせるくらいの長さであり…
少しの手がかりさえ見つける事が出来なかった。
江藤はガードレールに寄り掛かり、タバコに火をつけた。
そして、目の前の雑居ビルを見つめていたが…
「江藤さん」
背後から声をかけてきたのは陽次だった。
「陽次さん」
「探したぜ
いやあ、あの後な
ちょっと思い出した事があってな」
陽次は顔を近づけ、小声で話した。
そんな事言ったら俺、信じてしまうぞ」
久美子の言葉に、ジローは驚いた様子で聞き返した。
「ええんよ。
ワタシ、ジローちゃん見てたらウチのお父さんとダブってしもて、放っておかれへんのよ。」
「同情してくれてるのか…」
「うーん…
同情ってわけやあらへんけど、ワタシの中のこの感情を上手く口で説明出来へんわ」
「そうか。
それはどっちでもいい。
俺にとっては嬉しい事だよ。」
「ジローちゃんは寂しがり屋さんやいうの、ワタシようわかってたからね」
「久美子には全部お見通しか。
でもな、お前にはお前の人生があるから、添い遂げて欲しいなんて虫のいい事は思っちゃいないんだ。
ただ、せめて俺の財産をお前に相続してもらいたいんだ。」
「ジローちゃん…」
「俺は四人兄弟の末っ子でな
兄貴や姉貴は、もう死んじまってこの世にいない。
子供もいないし、女房に幾ばくかの金を残せればいいと考えていたんだが、俺より先に逝っちまった。
だから、久美子
お前に受け取って欲しいと思ってる。」
「ジローちゃん
気持ちはすごく嬉しいけど、ワタシ…
受け取れないわ。
それに、ワタシは男だしジローちゃんと結婚なんて出来ないわけだから…」
「そんな事はわかってる。
だけど、養子縁組って形を取れば何も問題ねえだろ?」
「養子縁組?」
「ああ。
お前は俺の息子になるんだ。
そして、俺の財産は全部お前が相続する。
これでどうだ?」
「そんな事…」
「じゃないと、俺に向けてくれたお前の優しさに報いる事が出来ねえからな。」
「でも…」
「お前とやりたいとか好きだとかそういう関係は求めちゃいない。
お前という素晴らしい人間と家族になりたい。
ただ、そう思っているだけだよ。」
ジローの思いに、久美子はどう反応していいかわからず、戸惑いの表情を浮かべたが、言葉を返す代わりにジローにしがみつくようにして抱きついた。
二人はまた激しく愛し合い始め、家を出るのが大幅に遅れてしまった。
その頃、江藤は、朝早くから再び新宿の街を訪れ、調査を始めていた。
昨日も感じたが、やはりこの街にヒントがある。
江藤の探偵としてのカンが、彼にそう命じていたのだ。
だが、四年という月日は、そのカンさえ鈍らせるくらいの長さであり…
少しの手がかりさえ見つける事が出来なかった。
江藤はガードレールに寄り掛かり、タバコに火をつけた。
そして、目の前の雑居ビルを見つめていたが…
「江藤さん」
背後から声をかけてきたのは陽次だった。
「陽次さん」
「探したぜ
いやあ、あの後な
ちょっと思い出した事があってな」
陽次は顔を近づけ、小声で話した。
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