泥々の川

arriving at tokyo

昼過ぎに東京駅に着いた久美子は、以前所属していた京活芸能事務所に行った。


「どうしたんだ？
久美子」

事務所のデスクにいた甲斐が驚いて立ち上がった。


「すいません、甲斐さん
突然お邪魔して」


「いや、それは全然かまわないんだけど、お前大阪に帰ったんじゃなかった？」


「はい。今は大阪に住んでいます。
ワケあって、さっき大阪から東京に着いたところなんです。」


「で、ここに来たってことは、俺に用か？」


「はい。
少しお話を聞いて欲しくて。」


「わかった。
隣の部屋に行こうか。」


甲斐は、久美子を連れて事務所の向かい側にある会議室に入った。



中に入ると、すぐに甲斐の方から話し始めた。

「久美子、俺に用って一体何だ？」


「はい。

あの…事務所で探偵事務所みたいなところと付き合いがないかなって。」


「探偵事務所？」


「はい。」


「探偵事務所の力を借りなきゃならないことがあるのか？」


「そうなんです。」


「わかった。
知らない事もない。
知り合いの探偵事務所を紹介するよ。

久美子、よかったら話してくれないか。
何で探偵の力を借りなきゃいけないのか」


久美子は頷き、恭子の話をした。

そして、彼女の実家から借りてきた、失踪当時の恭子の写真を見せた。


「すごく可愛い子じゃないか。

なるほど、これだけの美貌なら、何かしらの事件に巻き込まれてしまったおそれもあるな。」


「甲斐さん
四年も経ってて警察もまともに動いてくれないのは仕方ないと思ってますが、どこかで無事に生きてくれている可能性が少しでもある限り、何としてでも探したいんです。」


「なるほどな。
探偵事務所の方は任せてもらって大丈夫だよ。

それと、久美子
こっちに何日間いる予定なんだ？」


「とりあえず二週間はいる予定です。
その間、何か手掛かりが掴めればと。」


「ウチに来るか？

ホテル住まいもキツイだろ」


「いえ、それは大丈夫です。
探偵事務所をご紹介いただけるだけで本当に十分です。」


久美子は甲斐に深く頭を下げ、謝意を述べた。