泥々の川

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森本と会話を交わし、その場を去ろうとした久美子だったが、何かを思い出したように引き返してきた。


「森本さん。

恭子の事覚えてる?」


「えっ、恭子ちゃん?

佐野恭子ちゃんかいな。」


「そうそう」


「よう覚えてるで。

あの子、新大阪に久美子ちゃんを見送りに行ってから、面識が出来たっていうか

あれから道で会うてもワシみたいなもんにも話しかけてくれてなあ。

ホンマに優しゅうてええ子やったわ。
まさか、行方不明になってしまうなんてなあ。」


「その事やねんけど、何か覚えてることあれへん?」


「えっ…

覚えてること?」



「何でもええねん」


「うーん…

そういえば、恭子ちゃんが行方不明になる少し前に会うてるんや。」


「えっ?

いつのこと?」


「いつやったか、忘れたけど
冬頃やったわ。

朝早うに、この先の道で会うてな。

どこ行くんか聞いたら、これから東京に行くんや言うてな

そうそう、久美子ちゃんに会いに行くって言うてたわ。」


「やっぱり…」


「あの時は会えたんか?」


「ううん。
会えてへん

東京に行ったってことは、何となくわかってんけど、その先の足取りがさっぱりわからへん。

それに、もう四年も前の事やし。」


「会われへんかったんか…
ワシが会うたんが最後やったとは…


あの日も、久美子ちゃんに会うの楽しみやって言うててな。

でも、東京に着く時間は、久美子ちゃんは生放送の番組に出てて家にはおらんはずやから、テレビ局に直接行って驚かしたろかなって言うてたんやけどなあ。」


「えっ、それホンマ?」


「ホンマや。
ワシみたいなオッサンに若い女の子が話しかけてくれる事なんてめったにないさかい、よう覚えてんねん」


「ありがとう、森本さん。」


久美子は森本に礼を言い、その場から去っていった。


朧げながら、恭子の失踪直前の足取りが見えてきた。


昭和55年12月18日午前11時40分
東京に着いた恭子は、森本の証言の通りだとすれば、新宿に向かった。
そして、生放送中のスタジオに行き、久美子が出てくるのを待っていた。

しかし、久美子がスタジオから出てきた時には、恭子の姿はなかった。

おそらく、スタジオの前で待っている間に何かがあり、行方がわからなくなってしまったのではないか。


まだ、何の確証もなく、手探り状態の話だったが、かなり絞り込むことができた。

この空白の四時間を、調べ上げれば、何か糸口が見えてくるかもしれない。

久美子ははやる気持ちを抑えながら、家への道を歩いていた。
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