泥々の川

フロイライン

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真相の中の深層

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亡くなった高井竜司のマネージャーである竹内謙二は、警察での事情聴取を終え、昼過ぎに赤坂署を出てきた。


竹内は、疲れ果てた顔で駐車場に停めていた車まで歩いてきた。

そして、車に乗ろうとキーを出そうとポケットに手を突っ込んだところで


「竹内さん」


という声が背後からした。


声の主は、陽介だった。


「陽介!

こんなところで何してんだ?」

意外な場所での再会に、竹内は面食らってしまったが、陽介がここに来た理由は、聞かずともわかっていた。


「竜司の事か?」


「ええ。
少し、車の中で話を聞かせてもらってもいいですか。」

陽介は顔を近づけ、小声で言った。

「いや、お前に話す事は、何も…」


「いいんですか?
今から警察に行ってもいいんですよ。

本当は持ってるんですよ、例のものを」


陽介はA4サイズの封筒を竹内に見せた。


「わかったよ。早く乗れ。

俺もそんなに時間がないんだ。
手短に頼む」


「ええ。お時間は取らせませんよ。」


陽介はそう言うと、助手席側のドアを開けて車に乗り込んだ。

竹内も運転席に座ったが、エンジンをかけず、陽介の方を横目で見た。


「陽介、お前が聞きたい事はわかってる。

竜司が何で死んだかって事だろ?」


「ええ。」


「これは、誓って言うが、あの事とは全く関係がない。

竜司は、最近人気が低迷して、落ち込む事が多くてな。

多分、思い詰めるあまり、おかしくなっちまって、衝動的に…」


「竹内さん。

アンタ、一体何を気にしてるんですか。

本当の事を言おうが、出鱈目な話をしようが、どちらにしても喜多村はもみ消してしまう。

だったら別にここで本当の事を言っても何ら影響はないという事です。

わかりますか?」


「陽介…
お前、バカなマネをしようとしてるんじゃねえだろうな。」


「いや、何もしませんよ。
ただ、俺はなんで竜司が死んだか、その真相が知りたいだけです。」


「だから、言っただろ

アイツは…」


竹内が言おうとした瞬間、陽介は竹内の胸ぐらを掴み、顔を近づけて言った。


「竹内、お前に良心はねえのか?

あの時、俺はお前に助けを求めたよなあ。

だが、お前は俺を救ってくれるどころか、喜多村に告げ口をした。
そして、俺は喜多村からさらに酷いことをされたんだ。
忘れたとは言わせねえ。」


「それは、申し訳ない事をしたと思っている…
しかし、俺が…」


「俺の事はいいんだ。
結局は逃げ出せずに、喜多村の行為を拒絶しなかったんだからな。
アンタにも立場があったのもわかってる。

だが、竜司の件は別だ。

ちゃんと話せ!
話さないなら…」


「わかった!

話すっ!

話すよ…」

竹内はそう言うと、眉間に皺を寄せ顔を天井に向けた。
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