泥々の川

フロイライン

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healing

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目黒区にある大きな邸宅が、典子の自宅であった。

甲斐もカチッとスーツ姿で決め、久美子も清楚なワンピース姿で門の前に立っていた。

お手伝いさんに案内された二人は、応接間に通され、横並びに座って典子が来るのを待った。

いつも饒舌な甲斐は、大阪弁禁止により、最近は少し口数が減っていたが、典子の家では極度の緊張からか一切喋らず、膝を汗ばんだ手で握るだけだった。

それを見ていた久美子も緊張してきて、何度も自身の長髪を手で触っていた。

五分ほど待っただろうか、ドアが開き、ようやく典子が入ってきた。


「遅くなってごめんなさいね」


典子がそう言うと、勢いよく立ち上がっていた二人は頭を90度に曲げた。


「この度は、お忙しい中手前共のためにお時間を頂戴しまして、誠に有難うございます。

私は、マネージャーをしております甲斐俊樹と申します。

そして、隣におりますのが、この度京活プロダクションからデビューする事になりました、友谷久美子です」


「友谷久美子と申します。
どうぞよろしくお願い致します。」


甲斐の挨拶に続き、久美子も畏まった口調で再度頭を下げ、挨拶を行った。


典子は、見た感じでは五十歳くらいで、ショートカットで茶髪、化粧はアイシャドウと口紅が濃く、目鼻立ちはハッキリしていた。声は男に比べたら高いが、女としては野太く、喋れば男とわかった。
服装は、体のラインがわかりにくい、ゆったり気味の紫のドレス姿で、とにかく、オーラというか圧がすごかった。


「まあ、そう硬くならないで
お座りなさい。」


「はい。ありがとうございます。」

甲斐は、久美子に目配せして、二人一緒のタイミングで腰掛けた。


「先生、先ほども申し上げましたが、当社のタレント友谷久美子がデビューするにあたり、先生にご挨拶に参った次第であります。

どうか、よろしくお願い致します。」


「ええ、ウワサは聞いてるわ。

大阪にそれは美しいレディーボーイの子がいるってね。

それがあなただったのね?」

典子は久美子の顔をじっと見ながら、穏やかな口調で言った。

久美子はその視線に耐えきれず、恐縮しながら俯いてしまった。


「ねえ、甲斐さんだったかしら?」


「はい」


「ちょっとこの久美子さんと二人にしてくれない?」


「それは、はい。」


甲斐が戸惑いながら了解すると、典子は立ち上がり


「久美子さん
少しワタシとお庭に出ましょ。」


と、優しげな口調で語りかけた。


「はい」


久美子は慌てて立ち上がり、典子の後をついていった。

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