泥々の川

フロイライン

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活動開始

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翌朝、甲斐に連れられて東京事務所に顔を出した久美子は、スタッフに挨拶をして回った。


「この方がこの事務所で一番偉い、工藤部長や。」

奥の一番大きな机に座る工藤を、甲斐が久美子に紹介した。


「友谷久美子と申します。
どうぞよろしくお願いします。」


「工藤です。
よろしく頼みます。」

工藤は頭を七三分けにし、茶色のダブルのスーツを着ていた。
年齢は四十代後半といったところか。
久美子はなかなかダンディな人だという感想を持った。


「久美子ちゃん。
ウチはまだ出来たばかりの新しい事務所で、所属のタレントはまだ君しかいないんだ。

だから気楽に構えてくれたらいいよ。」


「はい。ありがとうございます。」


「それにしても美人だねえ。
実際に見た方がキレイだよ。」


「いえ、とんでもないです。」

久美子は両手をジタバタさせて否定し、頭を下げた。


「甲斐君。」


工藤は甲斐を呼び寄せた。


「はい。何でしょう部長」


「今日はどういうスケジュール?」


「はい。
今日はレッスンと典子さんのところへ」


「あー、そうだねえ。
くれぐれも粗相のないようにしてくれよ。」


「わかりました。」


事務所での顔合わせを終えると、久美子は甲斐の車に乗り、事務所を出た。


「部長が言われたように、ウチは新規参入の弱小事務所だから、最初のうちは久美子も苦労すると思う。
でも、キミの実力とルックスがあればきっと売れるから。」


「はい。頑張ります。

あの、甲斐さん」


「ん?」


「さっき、レッスンの後、典子さんのところへ行くっておっしゃってましたが、典子さんて一体どなたなんです?」


「あー、その事か。
久美子は知らないと思うけど、この芸能界には色々厳しいしきたりがあってね。
例えば先輩への挨拶であったり、細かい事が色々とね。

そんな中で、最もうるさいとされているのが、久美子のいる世界なんだよ。」


「ワタシの?」


「ああ。
レディーボーイ…言葉を選ばずに言うならオカマの世界が。」


「ワタシらの世界…」


「テレビによく出てるのはカルーセル麻紀で、謂わば芸能界のレディーボーイの中では先駆者となっているのは知ってるよな?」


「はい。
それはもう」


「でも、本当のドンは別にいるんだ。」


「それが典子さん?」


「ああ。
たまにテレビにも出てるから、ひょっとしたら久美子も顔見たら、あの人かってなると思うけど。

つまり、その人に仁義通しとかないと、芸能界では生きられなくなるって事だよ。」

甲斐は、そう言うと、ルームミラーに映る久美子の方に視線を向けた。
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