泥々の川

フロイライン

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落葉

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久美子は父に食材を届け、自宅に戻ろうと、道を早足で歩いていた。


四つ角を曲がったところで、ダンボールを広げて座るホームレスがいたので、一層歩みのスピードを上げたのだが…


久美子は、一度通り過ぎてから立ち止まり、再び引き返してきた。


ホームレスは俯いたまま、久美子が見つめている事に気付いてない様子だったが、久美子は視線を切らず、じっと見つめたままでいた。

ここで、ようやくホームレスも久美子の視線に気付き、顔を上げた。


「あっ」

ホームレスは思わず声を上げた。


そして、久美子の方も

「やっぱり…

人違いと思たら、森本さんやないの!」

と、驚いた様子で声を上げた。


「百恵ちゃん…」



「どないしたん?森本さん

こんなとこで…」


「ワシか?

お恥ずかしい話や…
色々あって、今はただの浮浪者や。」


「えっ、何があったんよ」


「そない大そうな話やないねんけど…
勤め先が倒産してもうてな

歳も歳やし、仕事も見つかれへんで…」


「そうやったんやね…」


「まあ、しゃあないわ。
それにしても百恵ちゃん
前も可愛かったけど、さらにべっぴんさんになったなあ。
見違えてしもたわ。」



「レディーボーイも四年やってたら化粧も上手なるって。」


久美子は笑って言った。


「あ、そうそう
京活ロマンポルノに出てたよな、百恵ちゃん。

ダンボール売った金で、ワシ
新世界の映画館で見たんやで。」


「えっ、ホンマ?
嬉しい」


「いやあ、おっぱい見てたらなあ

これをワシが揉んだり吸うたりしてたんかって思て、何か変な感じがしたわ。
夢か現実かわからへんような。」


「いやん、恥ずかしいわあ。」

久美子はしゃがみ込んで森本としばらく談笑していたが、持っていたハンドバッグから財布を出し、一万円札を取り出した。

「森本さん、これで何か食べて」

久美子は森本の手を取り、一万円札を握らせると両手で包み込むようにして握った。


「あかんあかん。
こんなん受け取れんて。」


森本は慌てふためいてその金を返そうとしたが、久美子は手を握ったまま、涙目で言った。

「森本さん。
あなたはワタシの恩人やねん。
右も左もわからん素人で子供のワタシを指名してくれて…
何回も通てくれて。
ホンマ、どれだけ救われたか
あのときの恩は忘れません。
だから、これくらいのお金は受け取って下さい。」


「百恵ちゃん…やっばりこれは…」


森本は首からかけたタオルで汗を拭きながら、どうしても受け取ろうとしなかった。


「あ、それやったら

森本さん、今からウチに来る?

今、阿倍野に住んでんのよ。
こっから歩いて二十分くらいのとこ。

お金受け取れへんねんやったらせめてお風呂入ってご飯だけでも食べてって。」


「えっ、そんなん…

こんな汚いオッサンを…」


「そんなん気にせえへんの。
ホラ、立って」

久美子はあっけらかんと、森本に言ってのけた。

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