泥々の川

胸中

百恵は、恭子を送り届け、駅前まで帰ってくると、既にマキが到着していた。


「どないしたん？

どっか行ってたんか？」


マキは百恵の顔を見て、不思議そうに言った。


「中学の時の同級生の女の子が会いに来てくれたんです。」


「あー、よう話してた恭子ちゃんかいな？」


「そうです。
お父さんがウチの事、ここに立ってるみたいな話をしたらしくて、それで会いに来たって。」


「そやろなあ。
二年間も消息不明の好きな男がおるって聞いたら、こんな物騒な町でも来るわなあ。

でも、アンタの今の姿見てショック受けてたんとちゃうか？」


「そうですねえ。
受けてたと思います。」


「まあ、しゃあないわ。
で、どないしたん？」


「今のウチの状況と、体の状態とか、正直な気持ちを話して帰ってもらいました。」


「それで諦める言うたんか？」


「いえ、ウチを救い出したるって宣言されました。」


「へえーっ

愛は何とかよりも深しやな。」


「ウチの体こんなんやのに、まだ想てくれるやなんて、有難いっていうか申し訳ないっていうか。」


「アンタもタマ無いんやし、女性ホルモンも一生打たなあかん身や。
男として生きる選択肢は万に一つもあらへん。

そんなアンタでも彼女がええって言うんやったら、またそのとき考えたらええわ。

元々アンタは女の子が好きやったんやし。」


「…
姉さん、でも…

今は男の人の方が好きなんです。
正直言うて。

前に女子が好きやった自分の感覚いうのも全然覚えてへんし…」


「変われば変わるもんやなあ。
オメコよりちんちんの方がええのんか？」


「はい。ちんちんの方が好きです」


「まあ、それやったらしゃあないけど。

さて、今日もそのちんちんしゃぶって稼がせてもらおか。」


「はーい」

百恵はそう返事すると、駅から少し離れた電信柱にもたれ掛かって、スタンバイしたのだった。