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恩人
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息子を借金のカタとして大野に引き渡してから一年が経過した。
誠は、自分のせいとはいえ、家計を助け、身の回りのことを全てやってくれていた袮留がいなくなり、何をするにも困窮する事態に陥っていた。
自分が働かなければ金は入ってこないし、酒も買ってきてくれない。
さすがにこのままではいけないと、何度か働いたのだが、そのどれもが長続きせず、酒をあおりながら家で過ごす日々が続いていた。
「なんや、もう無うなってしもたんか。」
誠は、一升瓶を逆さにしたが、滴すら出てこず、たちまち不機嫌になった。
「また大和屋でツケで飲ませてもらおうかいな。」
と、独り言を言いながら、おぼつかない足取りでアパートを出た。
「クソっ!
腹立つ!」
酒屋への道のりを、誠は不機嫌極まりない様子で歩いていた。
酒乱の夫に耐えられず、嫁が逃げ、借金のカタに一人息子を売り飛ばした。
全ては自分の不得の致すところだったが、誠は、わかっていても苛立ちを隠せなかった。
通行人達は頭のおかしい酔っ払いを見て見ぬふりをしながら通り過ぎたが、その中で一人だけが誠に近づいてきた。
誠は、避けられる事には慣れていたが、近寄られることには慣れておらず、思わず身構えた。
だが、よく見てみると、自分の前に立っているのは子供だった。
正確には高校生くらいの少女だった。
「なんや、コラ!」
誠は相手が弱者とわかって凄んでみせたが、少女は怯む事なく話しかけてきた。
「あの、友谷袮留君のお父さんですね?」
と。
久しぶりに音声として聞く息子の名前に、誠はギクっとして、再度少女の顔を見た。
聡明そうで透明感のある美少女だった。
「息子がどないしたんや?」
「袮留君、全然学校に来んようになって、そのまま卒業になってしもて…
もう一年も連絡がつきません。
一体どうしたんですか?」
痛いところを突かれた誠は、明らかに動揺したが、すぐに
「息子は田舎に行ってもたわ。
ワシみたいな酔っ払いに愛想つかしよってな。
爺さん婆さんに面倒見てもろとるやろ。」
と、しゃあしゃあと嘘を並べた。
「そうですか…
連絡先を教えてくれませんか。」
「おいおい、なんで見ず知らずのアンタにそんな事教えなあかんねん。」
「あ、すいません。
ご挨拶が遅れました。
私は、中学三年のとき一緒のクラスだった佐野といいます。」
「佐野さんなあ、見るからに金持ちそうな感じやなあ。
あのな、ワシや袮留みたいな貧乏人と関わっても何もええことあらへん。
早よ往に。」
誠は恭子をあしらい、またヨタヨタと歩き出した。
誠は、自分のせいとはいえ、家計を助け、身の回りのことを全てやってくれていた袮留がいなくなり、何をするにも困窮する事態に陥っていた。
自分が働かなければ金は入ってこないし、酒も買ってきてくれない。
さすがにこのままではいけないと、何度か働いたのだが、そのどれもが長続きせず、酒をあおりながら家で過ごす日々が続いていた。
「なんや、もう無うなってしもたんか。」
誠は、一升瓶を逆さにしたが、滴すら出てこず、たちまち不機嫌になった。
「また大和屋でツケで飲ませてもらおうかいな。」
と、独り言を言いながら、おぼつかない足取りでアパートを出た。
「クソっ!
腹立つ!」
酒屋への道のりを、誠は不機嫌極まりない様子で歩いていた。
酒乱の夫に耐えられず、嫁が逃げ、借金のカタに一人息子を売り飛ばした。
全ては自分の不得の致すところだったが、誠は、わかっていても苛立ちを隠せなかった。
通行人達は頭のおかしい酔っ払いを見て見ぬふりをしながら通り過ぎたが、その中で一人だけが誠に近づいてきた。
誠は、避けられる事には慣れていたが、近寄られることには慣れておらず、思わず身構えた。
だが、よく見てみると、自分の前に立っているのは子供だった。
正確には高校生くらいの少女だった。
「なんや、コラ!」
誠は相手が弱者とわかって凄んでみせたが、少女は怯む事なく話しかけてきた。
「あの、友谷袮留君のお父さんですね?」
と。
久しぶりに音声として聞く息子の名前に、誠はギクっとして、再度少女の顔を見た。
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「息子がどないしたんや?」
「袮留君、全然学校に来んようになって、そのまま卒業になってしもて…
もう一年も連絡がつきません。
一体どうしたんですか?」
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ワシみたいな酔っ払いに愛想つかしよってな。
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「そうですか…
連絡先を教えてくれませんか。」
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「あ、すいません。
ご挨拶が遅れました。
私は、中学三年のとき一緒のクラスだった佐野といいます。」
「佐野さんなあ、見るからに金持ちそうな感じやなあ。
あのな、ワシや袮留みたいな貧乏人と関わっても何もええことあらへん。
早よ往に。」
誠は恭子をあしらい、またヨタヨタと歩き出した。
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