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因果
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お父さんと呼ばれた男は、周りを気にする素振りをしながら、百恵の前に来て
「お前、袮留か?」
と、絞り出すような声で言った。
「そうやで。袮留や
お父さんもお変わりないようで。」
「あ、ああ。
なんとかなあ。
袮留、お前なんで女装してるんや?」
「あ、うん。
ここに連れてこられた翌日に日本橋の病院で、去勢手術されて玉を取られたんや。
それから二週間に一回、女性ホルモンの注射を打ってたら、体つきまで変わってしもたわ。」
「そうなんか…
今は、あれか?
客引いてナニをしとるんか?」
「うん。」
「そうか…」
「でも、もう慣れたわ。
最初は辛かったけど。」
「…
俺もな、やっと仕事見つけたんや。
ほら、住吉の西側で今新しい電車通そうとしとるやろ?
それの作業員や。
昨日からやねんけどな。」
「そうなん。
よかったやん。」
「袮留…
お前にはすまん事したと思てる。
まとまった金が出来たら必ず迎えに行くから、待っとってくれ。」
「お父さん…
ウチ、もうこんな体になってしもたし、戻っても学校も行かれへんし、就職も出来へんと思うねん。
だから、これからもここでお世話になろうと思てる。
一緒に住んでる姉さんもすごい良い人やし。」
「そうか…
今から仕事か?」
「うん。そやで。」
「邪魔して悪かったな。
ほな、ワシ…行くよってに。」
誠はそう言うと、ぎこちない笑みを浮かべてその場から去っていった。
しかし、何メートルか行ったところで
「お父さん!」
と、百恵の声がした。
誠が慌てて振り返ると、百恵が胸を揺らしながら走ってきて、目の前で立ち止まった。
「お父さん
これ、少ないけどビールでも買うて。
でも、あんまり飲み過ぎたらあかんよ」
と、言って、ハンドバッグから財布を出し、五千円札を畳んで、誠に手渡した。
「えっ、いや
こんなん受け取れんわ」
「ええねん、ええねん
ウチ、けっこうお給料もろてんねんで。」
百恵はそう言うと、笑顔で手を振りながら、早足で去っていった。
誠は五千円札を握りしめたまま、自分のせいで男娼となった息子の後ろ姿を見つめていた。
しかし、その姿が見えなくなると。
涙をポロポロ流し、その場に膝をついた。
そして、人目も憚らず、声を上げて泣いたのだった。
「お前、袮留か?」
と、絞り出すような声で言った。
「そうやで。袮留や
お父さんもお変わりないようで。」
「あ、ああ。
なんとかなあ。
袮留、お前なんで女装してるんや?」
「あ、うん。
ここに連れてこられた翌日に日本橋の病院で、去勢手術されて玉を取られたんや。
それから二週間に一回、女性ホルモンの注射を打ってたら、体つきまで変わってしもたわ。」
「そうなんか…
今は、あれか?
客引いてナニをしとるんか?」
「うん。」
「そうか…」
「でも、もう慣れたわ。
最初は辛かったけど。」
「…
俺もな、やっと仕事見つけたんや。
ほら、住吉の西側で今新しい電車通そうとしとるやろ?
それの作業員や。
昨日からやねんけどな。」
「そうなん。
よかったやん。」
「袮留…
お前にはすまん事したと思てる。
まとまった金が出来たら必ず迎えに行くから、待っとってくれ。」
「お父さん…
ウチ、もうこんな体になってしもたし、戻っても学校も行かれへんし、就職も出来へんと思うねん。
だから、これからもここでお世話になろうと思てる。
一緒に住んでる姉さんもすごい良い人やし。」
「そうか…
今から仕事か?」
「うん。そやで。」
「邪魔して悪かったな。
ほな、ワシ…行くよってに。」
誠はそう言うと、ぎこちない笑みを浮かべてその場から去っていった。
しかし、何メートルか行ったところで
「お父さん!」
と、百恵の声がした。
誠が慌てて振り返ると、百恵が胸を揺らしながら走ってきて、目の前で立ち止まった。
「お父さん
これ、少ないけどビールでも買うて。
でも、あんまり飲み過ぎたらあかんよ」
と、言って、ハンドバッグから財布を出し、五千円札を畳んで、誠に手渡した。
「えっ、いや
こんなん受け取れんわ」
「ええねん、ええねん
ウチ、けっこうお給料もろてんねんで。」
百恵はそう言うと、笑顔で手を振りながら、早足で去っていった。
誠は五千円札を握りしめたまま、自分のせいで男娼となった息子の後ろ姿を見つめていた。
しかし、その姿が見えなくなると。
涙をポロポロ流し、その場に膝をついた。
そして、人目も憚らず、声を上げて泣いたのだった。
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