泥々の川

フロイライン

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不等価交換

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「あの、金を出してもらえるんでっか?
ホンマに…」


「ああ、そうや。
アンタら親子が不憫でなあ。
ワシは情に絆されてしもたっちゅうわけや。」


勿論、いくら窮地にいるからといって、話をそのまま鵜呑みにする誠ではなかった。


「大野さん
金を立て替えてもらう条件は何ですか?

それを教えて下さい。」


「なあに、簡単な事や。
ワシにおたくのお坊ちゃんを預けて欲しい。
ただ、それだけの事や。」


「えっ」

袮留と誠は、思わず顔を見合わせた。


「息子を、でっか?」


「せや。

話してへんかったけど、ワシは、いわゆる見せ物小屋っちゅーもんを経営しててな。

ちゅーても、全国の祭りを回って、小屋を出して興行するアレや。
アンタも神社とかで見た事あるやろ?」


「それは、はい。

しかし、ウチの息子は何の芸も出来まへんし、そんなんで役に立ちまんのか?」


「まあ、ウチのような小屋はな、演者だけおってもあかんのや。
補佐したり、裏で色々動き回る人間がおって、初めて成り立ちまんねん。
それに、今の時代、色々煩なってきてなあ。
見せ物小屋だけでは生計が立てれんようになってきとんのや。
色々考えて、それ以外の事業も頑張ってまんねん。」


「そうでっか。

それやったら、どうぞ連れてっておくんなはれ!」


「ちょっと、お父さん!」


黙ってやり取りを聞いていた袮留が、思わず声を上げた。


「袮留、よう聞け。

このままワシがダムに連れてかれたら、役に立たん言うて、すぐに殺されてまうのがオチや。
保険かけられてな。

そんなん、お前もイヤやろ?

なあ!

金が出来たらすぐに助けに行くから、ここは黙って俺の言う事を聞いてくれら頼む!」


「でも…」


「大野さん、契約成立です!

桐島さんに金払てくれますか!」


誠は袮留の言葉などに聞く耳を持たず、大野に縋り付いて懇願した。


「わかった。

それじゃあ、お互いの気が変わらんうちに桐島はんに話しょうか。」


大野は表で待つ桐島を手招きして、再び部屋の中に入れた。


「話はついたんでっか?」


「ええ。
ワシが立て替えさしてもらいまっ。
借用書見せてもらえまっか」

大野がそう言うと、桐島は頷き、若い衆に借用書を持って来させた。


「ほう、九十万でっか。

アンタも金もないのに、ようここまで金借りましたなあ。」


「いえ、ワシが借りたんはその半分にも満たへん額で…」

誠が言うと、桐島が首を横に振った。

「あんさんもわからんお人やなあ。
ワシらヤクザやねんで。

そら、ワシらから金借りたら法外な利息が付くのは想定しとかなあきまへん。」


「まあ、よろしいがな。桐島はん

金は、ほら、これでよろしいな。」


大野はカバンの中から札を取り出し、桐島に手渡した。


桐島はその金を手早く数えると、深く頷いた。

「たしかに、九十万
ぴったりありますわ」

と。
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