泥々の川

フロイライン

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親ガチャ

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「祢留、早よビール買うてこんかいっ!」

父の誠は、祢留を怒鳴りつけた。


「そんな事言うても…
最近どこもウチの家には売ってくれへんし」  


「ドアホっ
大和屋やったら売ってくれるっちゅーねん。
ワシが何も知らんと思たんか!
早よ行けや!」

不精髭にヨレヨレのシャツとハーフパンツを履き、昼から酩酊状態の誠は、祢留を怒鳴りつけた。

「わかったわ
行ってくるし

お金ちょうだい」
 

「んなもんあるかいっ!ボケっ

ツケや、ツケで買うてこい」


祢留は金を貰えないまま、大和屋酒店に向かった。


ため息を何度もつきながら…


友谷祢留は中学三年生で、最近十五の誕生日を迎えたばかりである。

大阪市内の古いアパートに、父と二人で暮らしている。
母は祢留の幼少期に、酔うと暴力を振るう夫に嫌気がさして、買い物に出たまま帰って来なかった。

小さかった祢留は、同居していた誠の母、つまり祢留の祖母に育てられたが、その祖母も昨年他界。
それからは、父と二人でこのアパートで暮らしている。

父は短気な性格で、仕事を転々としており、今は無職である。

酒癖がとにかく悪く、昼間から祢留に酒を買いに行かせるのが日課となっていた。
ここ数日は金も渡さずに、だ。


「すいません。
ツケでビールもらえませんか。」


「なんや、ネルちゃん
またかいな。

お父さんに言うとき。
ツケいうもんはな、ちゃんと毎月精算せんと、すぐに売ってもらわれへんようになるねんで。
先月の分も手付かずで残ったままやないか。」


大和屋の主人は、首を横に振りながら祢留に言った。

「…」

祢留は、そう言われると何も反論できずに黙ってしまった。


しかし


「今回だけやで。

ほら、持っていき。」


主人は、ビール瓶2本を業務用の冷蔵庫から出し、祢留に手渡した。


「ありがとうございます。

助かります。」


祢留は深々と頭を下げて、瓶2本を受け取った。


「大和屋はん、ええんでっか?

今のガキ、友谷のとこの息子やろ?
あっこの親父、とんでもないヤツやで。
多分踏み倒しよるで。」


常連客の男が、カウンターで冷酒を片手にしながら言った。


「ああ。わかってる。

せやけど、ウチがビール渡さんかったら、あの子がどんな目に遭うか容易に想像できまっしゃろ?

うちもあの子と同い年の中学生の娘がおるんや。
それ考えたら不憫でしゃあないねん。
せやから、くれてやったと思わなな。」


大和屋の主人は、ビール二本を抱えて歩く祢留の後ろ姿を見ながら、呟くように言った。
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