タイは若いうちに行け

フロイライン

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路上試験

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「雫ちゃん、猫背になってる。
もっと胸を張って歩くのよ」


広野さんが後ろからワタシに声をかけてきた。

せっかくだから外に出てみようって言ってくれたんだけど、歩き方とか仕草なんかが、まだまだダメみたいで…

特に歩いてる時の姿勢が結構大事で、いつも心がけておかないと、それだけで男だってバレるみたい。

でも、少しずつ良くなってきたようで、30分くらい歩いて、ようやく合格点をもらえた。




「疲れたでしょ?」


「はい…

いえ、大丈夫です」



「ちょっとお茶しよっか」



広野さんは、近くにあったコーヒー店を指差して言った。



「よし、ここもパスできるかテストするよ。

自分で店員さんに注文してね。」

 

「えっ、ヤダ…」


「ヤダじゃないよ。
やってみて」


実地試験か…


発声練習でそれなりの手応えはあるんだけど、まだ誰かと会話したことはないのよ。


やるしかないか


このお店はカウンターで注文してから隣に移動して受け取り、席に着くというセルフのシステムなんだけど、試験ということで、広野さんはワタシの後ろにピタッと付いた状態で、オーダーをする事になった。

えーい、もう開き直るしかない!

ワタシの順番となり、注文をする事になった。


「えっと…」

第一声を発したワタシだったが…

今の声、大丈夫だったかな…低かった?

バレてないと思う事にしよう。

よし、注文だ。


「アイスカフェラテ」

今の声、よかった?

バレた?バレた?

ワタシは目一杯の音な声を出したつもりだったが、店のお姉さんはワタシの方を見つめている…


「サイズはいかがなされますか?」



「あ…

トールサイズで」


ワタシがそう伝えると、なんとか通ったようで、会計となった。


ワタシは財布を出そうとバッグを開けたが、すかさず、後ろの広野さんが同じものを注文し、一緒に支払ってくれた。


こうして無事に注文出来、ワタシはホッとしながら、広野さんと向かい合って二人掛けの席に座った。


「うんうん

完璧だったよ、雫ちゃん」


「あー、緊張したあ」

広野さんは褒めてくれたけど、ワタシは本当に生きた心地がしなかった。

「でも、岡山に行ったら、ワタシもいないわけだし、一人で行動しないといけないんだよ。」


「憂鬱です…」


「そこは割り切っておかないと、段々外出出来なくなってしまうよ。

それこそ引きこもりみたいに。」


「えーっ、そんなのイヤです。

せっかく知ってる人のいない場所に行くんだから、もう少し気楽に生活したいですもん。」


「まあ大丈夫だよ。

ちゃんと綺麗な声出てたし、違和感もほとんどなかったしね。」


「なんかおかしい部分ありました?

言ってください」


「強いて言うなら、ぎこちなかったくらいかな。
ちょっと挙動不審状態だったし」


広野さんは、そう言って大笑いした。
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