タイは若いうちに行け

権威

神野先生は国内では、性転換…いや、性適合手術って言うんだっけ

それの権威と呼ばれてる人で、この人の右に出る者はいないと言われている。

やっぱり、日本の医学の方が進んでいるんだなあ。
そりゃそうだ…

でも、神野先生は思いっきり否定した。


「普通はそう思うだろうね。

しかし、残念ながらこの分野は日本は大きく立ち遅れていてね。

タイの足下にも及ばないんだ。」


「えっ、そうなんですか」


「ああ。
日本の場合、長く法律の壁っていうのが立ち塞がっていてね。

正規の医療としてこういった手術が行われてこなかったんだ。」


「…」


「昔は優生保護法なんていうおかしな法律があってね。
1960年代の後半に、或る医者が男性から女性への性転換手術を行ったとして、有罪判決を受けた事があったんだ。

そこから、ずっと停滞の道を進んできたのが、日本の実情だよ。

だから、我々は今、大急ぎでこの遅れを取り戻そうと頑張っているところなんだ。」


「あの、お忙しいのに、こんなところまで来ていただいて本当に申し訳ないです。」


「いや、実は、このパンヒー病院に視察に来させてもらう予定になっててね。

そんな中、君の話を聞いて、予定を早めて来させてもらったっていうわけさ。」


「そうだったんですか」


「私は、ホントたまたまなんだけど、タイに旅行に来てて、昨日、古くから知り合いだった小川さんに連絡したの。
そしたら、あなたの話を聞いて、訪問した次第よ。」

松本先生はそう言って笑った。
何度も言うけど、笑顔が可愛い女性だ。


「ありがとうございます。
貴重な旅行の時間を割いてもらって」

俺は二人に感謝した。

だって、誰かに話を聞いてもらわないと、おかしくなりそうなんだもん