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心得
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「瑛太、石川遥君が遊びに来てくれたよ。
私は下に降りとくからね」
瑛太の母は、部屋のドアに向かってそう言うと、遥に会釈して本当にその場から去っていった。
これは最初から打ち合わせをしていた事で、自分がいたら瑛太はまず出てこないだろうと、後の事を全て遥の裁量に任せる判断をしていたのだ。
一人残された遥は、しばらく考えていたが、女として呼びかける事にした。
別に男声を出して話しかける事も出来たが、前者の方が瑛太に響くのではないかと思ったからだ。
「瑛太、久しぶり!
元気にしてた?」
遥は、先ずは精一杯の女声で呼びかけてみた。
反応はない。
その後も何度か呼びかけてみたが、全てに無反応だった。
本当に中にいるのかと思うくらい静かだった。
結局、20分ほど呼びかけてみたがダメで、遥も諦めようと思ったが、瑛太の両親の事を思うと、そう簡単に引き下がれないと、翻意して再チャレンジを行う事を決めた。
「瑛太も気付いてたと思うけど、ワタシ
ずーっと女の子になりたくて、大学の時に女として生きる事を決めたの。
女性ホルモンの注射を打ったり、去勢して見た目もかなり変わったのよ。
運良く、こんなワタシの事を理解してくれる人達がいて、女性として幼稚園の先生として働く事が出来たんだよ。
でも、自分の性別の事とかを秘密にしながら働くのって色々大変で。
こんな悩みは皆が持ってるものじゃないから相談も出来ないし…
けっこう落ち込むこともあるしね。」
自分の身の上話をすることにより、シンパシーを抱かせようとしたのだ。
これがハマった。
少しして、ドアの向こうに瑛太が近づいてくる気配がしたかと思うと
「遥…
そこには一人か?」
と、ドア越しに質問する声が聞こえてきた。
「そうだよ、ワタシ一人だけ。」
ようやく、瑛太の声が聞けたので、遥は、はやる気持ちを抑えながら言った。
すると、少しの沈黙があった後、解錠する音が聞こえ、徐にドアが開いた。
それも、全開ではなく、ほんの少しだけ。
瑛太は隙間から遥をじっと見つめていた。
完全に女性の姿になった遥に、何か言いたげな表情をしたが、何も言わなかった。
その代わりに、ドアをさらに開け、中に入るよう手で部屋の方を指し示したのだった。
私は下に降りとくからね」
瑛太の母は、部屋のドアに向かってそう言うと、遥に会釈して本当にその場から去っていった。
これは最初から打ち合わせをしていた事で、自分がいたら瑛太はまず出てこないだろうと、後の事を全て遥の裁量に任せる判断をしていたのだ。
一人残された遥は、しばらく考えていたが、女として呼びかける事にした。
別に男声を出して話しかける事も出来たが、前者の方が瑛太に響くのではないかと思ったからだ。
「瑛太、久しぶり!
元気にしてた?」
遥は、先ずは精一杯の女声で呼びかけてみた。
反応はない。
その後も何度か呼びかけてみたが、全てに無反応だった。
本当に中にいるのかと思うくらい静かだった。
結局、20分ほど呼びかけてみたがダメで、遥も諦めようと思ったが、瑛太の両親の事を思うと、そう簡単に引き下がれないと、翻意して再チャレンジを行う事を決めた。
「瑛太も気付いてたと思うけど、ワタシ
ずーっと女の子になりたくて、大学の時に女として生きる事を決めたの。
女性ホルモンの注射を打ったり、去勢して見た目もかなり変わったのよ。
運良く、こんなワタシの事を理解してくれる人達がいて、女性として幼稚園の先生として働く事が出来たんだよ。
でも、自分の性別の事とかを秘密にしながら働くのって色々大変で。
こんな悩みは皆が持ってるものじゃないから相談も出来ないし…
けっこう落ち込むこともあるしね。」
自分の身の上話をすることにより、シンパシーを抱かせようとしたのだ。
これがハマった。
少しして、ドアの向こうに瑛太が近づいてくる気配がしたかと思うと
「遥…
そこには一人か?」
と、ドア越しに質問する声が聞こえてきた。
「そうだよ、ワタシ一人だけ。」
ようやく、瑛太の声が聞けたので、遥は、はやる気持ちを抑えながら言った。
すると、少しの沈黙があった後、解錠する音が聞こえ、徐にドアが開いた。
それも、全開ではなく、ほんの少しだけ。
瑛太は隙間から遥をじっと見つめていた。
完全に女性の姿になった遥に、何か言いたげな表情をしたが、何も言わなかった。
その代わりに、ドアをさらに開け、中に入るよう手で部屋の方を指し示したのだった。
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